著者の所属・活動拠点の国は、スペイン、ポルトガルです。

掲載誌:Sustainability

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:同じ小規模漁業でも負荷は一様なのか

マダコ(Octopus vulgaris)は、ポルトガル南部のアルガルヴェ地方で経済的にも文化的にも重要な水産物です。地域の小規模漁船は、主に餌を入れたカゴと、餌を使わないタコつぼで漁をしています。以前の研究では、この漁業のタコ1キログラムあたりの温室効果ガス排出量は約3.1キログラム(二酸化炭素換算)と報告され、燃料が最大の要因とされていました。

研究チームは、地域全体の平均値だけでは漁船ごとの操業の違いが見えにくいと考えました。そこで、岸近くで操業する小型の「ローカル船」と沖合まで出る大型の「沿岸船」の違い、さらにアルガルヴェ西部(ウィンドワード、以下WW)と東部(リーワード、以下LW)の違いに注目しました。また、重さあたりの評価だけでは魚介類が供給する栄養の量や多様さを表せないため、栄養密度を組み合わせた評価も試みています。

何を調べたか

著者らは2023年の操業について、タコ漁を行う31隻の漁船船長に聞き取り調査を行いました。内訳はローカル船20隻と沿岸船11隻で、地域別にはWWの14隻とLWの17隻です。漁港で協力を得られた船を対象とした調査で、船籍簿からの無作為抽出ではありません。燃料、餌、塩、カゴやタコつぼ、ロープ、ブイ、船の整備資材などの使用量を集めました。

評価には、製品の一生を通じた環境負荷を見積もる「ライフサイクルアセスメント(LCA)」を用いました。範囲は資材の製造から港での水揚げまでで、基準は水揚げされた丸ごとのタコ1キログラムです。年間の投入物はすべてタコの水揚げに割り当てたため、他の魚種も水揚げした場合には、タコ1キログラムあたりの負荷がやや大きめに出る可能性があると著者らは述べています。気候変動、富栄養化、粒子状物質、化石資源の使用など、複数の環境指標を計算しました。

栄養面では、地域で測定されたタコの成分データをもとに、独自の栄養密度指標「NRF17.2-Ov」を探索的に作りました。たんぱく質、EPA・DHA、ビタミンB群、亜鉛、セレン、ヨウ素など17の推奨成分を加点し、ナトリウムと飽和脂肪の2つを減点する仕組みです。さらに、入力値の不確かさを反映させるため、条件をランダムに変えて計算を1000回繰り返すモンテカルロ法で、結果のばらつきを推定しました。

主な結果

タコ1キログラムを水揚げするのに使う燃料は、ローカル船で0.71リットル、沿岸船で1.10リットルで、沿岸船が約56%多い結果でした。気候変動への影響はローカル船が3.26キログラム、沿岸船が3.88キログラム(いずれも二酸化炭素換算)で、全体では3.47キログラムと以前の報告に近い値でした。一方、ローカル船は水揚げ量あたりの餌や漁具の使用量が多く、淡水の富栄養化は沿岸船の約2倍でした。報告された25の指標のうち、沿岸船が上回ったのは7指標、ローカル船が上回ったのは18指標で、どちらが一律に環境面で優れているとは言えないと著者らは結論づけています。

負荷の主な要因を分析すると、気候変動、海洋の富栄養化、粒子状物質、化石資源の使用ではディーゼル燃料が中心でした。WWとLWでは、燃料が気候変動の82%と85%、海洋富栄養化の95%超を占めました。これに対し、淡水の富栄養化では漁具の製造と交換が大部分を占めており、燃料効率の改善だけではすべての指標を下げられないことが示されました。

地域別では、LWが25指標のうち24指標でWWを上回り、気候変動への影響はWWが2.68キログラム、LWが3.83キログラムでした。ただし、WWはローカル船が約8割を占めるのに対し、LWではローカル船と沿岸船がほぼ半々でした。そのため、この差は地理的な違いだけでなく、船の構成や燃料使用、漁具の組み合わせ、航行距離なども反映している可能性があり、地域そのものの効果を示すものではないと著者らは強調しています。

栄養密度指標はWWが269点、LWが299点で、シミュレーション上ではLWが上回る確率は0.93でしたが、推定値の幅は重なっていました。差の最大の要因は銅で、EPA・DHAやビタミンB12がそれに続きました。もとの栄養分析研究では、地域間でミネラルやビタミンに統計的に有意な差は報告されていない点にも著者らは注意を促しています。

環境負荷を栄養密度あたりに換算すると、LWとWWの差は9〜36%に縮まりましたが、順位は逆転しませんでした。なお、この換算では、水揚げされた重さと食べられる部分の重さを便宜的に同じとみなして計算しています。

研究が示すこと

この研究は、同じ地域の小規模タコ漁でも、船の種類や操業の仕方によって環境負荷の大きさと内訳が大きく異なることを示しました。地域平均の値だけでは、こうした違いが見えにくくなります。

著者らは、改善の優先課題として、燃料効率の向上、漁具の耐久性、そして餌の種類や産地の追跡を挙げています。燃料は気候変動などに、漁具は淡水の富栄養化に大きく関わるため、一つの対策だけでなく、指標ごとに異なる要因へ目を向ける必要があることが、この研究から伝わります。

原著論文の著者・所属:David Baptista de Sousa(ANFACO-CYTMA, Campus Universitario 16, 36310 Vigo, Spain)、João Pontes(Centro de Ciencias do Mar do Algarve (CCMAR/CIMAR LA), Campus de Gambelas, Universidade do Algarve, 8005-139 Faro, Portugal)、Mafalda Rangel(Centro de Ciencias do Mar do Algarve (CCMAR/CIMAR LA), Campus de Gambelas, Universidade do Algarve, 8005-139 Faro, Portugal)、Ana G. Cabado(ANFACO-CYTMA, Campus Universitario 16, 36310 Vigo, Spain)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):David Baptista de Sousa, João Pontes, Mafalda Rangel, et al. Life Cycle Assessment and Nutrient Density of Octopus vulgaris: Environmental Performance and Operational Heterogeneity in an Algarve Windward/Leeward Small-Scale Fishery. Sustainability 2026-10-17. DOI: 10.3390/su182010564. 原著ライセンス:CC BY.