著者の所属・活動拠点の国は、フィンランド、アメリカ、ブラジル、スウェーデンです。

掲載誌:Journal of Proteome Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

私たちが食べたもののうち、小腸で消化・吸収されずに大腸へ届いた食物の残りは、腸内細菌によってさらに分解されます。その過程で、脂質を含むさまざまな代謝物(細菌の働きで生じる物質)が作られます。

研究チームは、食物の残りが大腸を進むにつれて腸内の脂質がどのように変わっていくのかを調べることを目的としました。なお、ここでの紹介は論文の抄録に記載された内容に基づいています。

何を調べたか

著者らは、ヒトの大腸を模した「大腸シミュレーター」を用いました。これは4つの容器(V1〜V4)を連結した装置で、大腸の入り口に近い部分(近位)から出口に近い部分(遠位)までを順に再現します。抄録によると、容器内のpHは近位側から遠位側にかけて5.5から7.0の範囲です。装置にはヒトの便から得た腸内細菌が加えられました。

研究チームは、これら4つの容器から合計44の試料を採取し、腸内で消化途中にある内容物を模した液体に含まれる脂質を分析しました。

主な結果

論文は、細菌の働きと関わる多様な脂質分子が容器ごとに動的に変化していたと報告しています。その中には、胆汁酸のほか、「N-アシルアミド」と呼ばれる脂質のうち、炭素の鎖が短いものや炭素数が奇数のものが含まれていました。

具体例として、ヒスタミンが結合したN-アシル脂質(ヒスタミン-C5)は、近位側から遠位側の容器に向かって増えていました。一方、プトレシンが結合したもの(プトレシン-C19:2)は、もともと培地に多く含まれていましたが、容器を進むにつれて減少していました。

さらに著者らは、この試験管内のモデルで生じた短鎖のN-アシル脂質(C4:0、C5、C6、C7の結合体)と、コレステロールエステル、ホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリンといった主要な脂質との間に、変化する関連が見られたと報告しています。

これらの知見が実際のヒトの体内とどう関わるのかを確かめるため、研究チームは「リバースメタボロミクス」と呼ばれる手法を用いました。公開データベースにあるヒトの小腸試料や便試料のデータをもとに、N-アシル脂質の特徴を調べています。

研究の意味

著者らは、今回の結果から、この大腸シミュレーターが腸内細菌によって変換される代謝物を調べるための動的なモデルとして有効であることが確かめられたとしています。また、ヒトや動物の健康に関わる可能性のある新しい微生物代謝物を見つける基盤としても使える可能性があると述べています。

大腸の部位に応じて細菌由来の脂質が移り変わっていく様子を、人工的な装置の中で追跡できることを示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Ifrat Tamanna(University of Turku and Turku University Hospital , , ,; University of Turku and Åbo Akademi University , , ,)、Katja Salonen(University of Turku and Åbo Akademi University , , ,)、Helena Mannochio-Russo(University of California San Diego , , , ,)、Matilda Kråkström(University of Turku and Åbo Akademi University , , ,)、Paulo Wender P. Gomes(Federal University of Pará , , , ,)、Vincent Charron-Lamoureux(University of California San Diego , , , ,)、Ipsita Mohanty(University of California San Diego , , , ,)、Sofia D. Forssten(IFF Health Sciences, 02460Kantvik, Finland.)、Arthur C. Ouwehand(IFF Health Sciences, 02460Kantvik, Finland.)、Tuulia Hyötyläinen(Örebro University , , ,)、Alex M. Dickens(University of Turku , , ,; University of Turku and Åbo Akademi University , , ,)、Pieter C. Dorrestein(University of California San Diego , , , ,)、Matej Orešič(Örebro University , , ,; University of Turku , , ,; University of Turku and Åbo Akademi University , , ,)、Santosh Lamichhane(Turku University Hospital , , ,; University of Turku and Turku University Hospital , , ,; University of Turku and Wellbeing Services County of Southwest Finland , , ,; University of Turku and Åbo Akademi University , , ,)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ifrat Tamanna, Katja Salonen, Helena Mannochio-Russo, et al. Emerging Microbial Lipid Shifts in a Multistage Simulated Gut Inoculated with Human Fecal Microbiota. Journal of Proteome Research 2026-08-10. DOI: 10.1021/acs.jproteome.6c00050. 原著ライセンス:CC BY.