著者の所属・活動拠点の国は、イギリスです。

掲載誌:Food Bioscience

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究のねらい

スクラロースは砂糖の代わりに使われる、カロリーのない人工甘味料です。研究チームによると、スクラロースは体内でほとんど吸収されず、およそ84%が大腸までほぼ形を変えずに届くとされています。そのため、腸内細菌や腸の表面を覆う上皮細胞に何らかの影響を与えるのではないかという関心が寄せられてきました。

著者らは、スクラロースが腸に関係する細菌の増え方と、腸の上皮細胞のモデルとして使われるヒト大腸がん由来の培養細胞(HT-29細胞)の反応にどう影響するかを、実験室内の培養実験で調べました。比較対象には、ふつうの糖であるブドウ糖(グルコース)とショ糖(スクロース)を用いています。

どのように調べたか

研究チームは、腸内に見られる3種類の細菌、大腸菌、肺炎桿菌(クレブシエラ・ニューモニエ)、腸球菌(エンテロコッカス・フェカリス)を、さまざまな濃度の糖を加えた培地で育て、培養液の濁り具合から細菌の増え方を数時間にわたって追跡しました。

細胞については二つの方法で調べています。一つは、HT-29細胞に糖を直接加えて、細胞の代謝の活発さや毒性を測る方法です。もう一つは、糖を加えて育てた細菌の培養液(細菌が出した物質を含む「馴化培地」)を細胞に与え、細胞の生存、傷をふさぐように移動する能力、細胞内で生じる活性酸素、ミトコンドリアで生じるスーパーオキシド(活性酸素の一種)、そして炎症に関わる遺伝子の働きを調べる方法です。後者は、糖が細菌を通じて間接的に細胞へ影響するかを見るためのものです。

主な結果

細菌の増殖では、スクラロースが3種類すべての細菌に対して強い抑制を示したと報告されています。増殖の抑制はおおむね50ミリモーラー(mM、溶液の濃度を表す単位)付近から目立ち、増殖量を時間で積み上げた指標では31.3 mMから低下が見られました。これに対してブドウ糖やショ糖では、影響が主に125〜500 mMという高い濃度で現れました。最も高い500 mMでは、大腸菌の増殖を表す指標がショ糖の場合の約3分の1にとどまったとしています。なお著者らは、この測定は培養液中の細菌の密度を見るもので、細菌の代謝や生死を直接示すものではないと注意を添えています。

HT-29細胞にスクラロースを直接加えた実験では、31.3〜62.5 mMで細胞の代謝活性が無処理の約2倍に高まった一方、250〜500 mMでは細胞への毒性が見られました。ブドウ糖は調べた範囲で毒性を示さず、ショ糖は細胞の代謝に影響しませんでした。

一方、糖を加えて育てた細菌の培養液を細胞に与えた実験では、細胞の生存や移動の能力に明確な違いは出ませんでした。炎症に関わる遺伝子の多くも有意な変化を示しませんでしたが、大腸菌の培養液を与えた場合には、どの糖でも炎症を抑える働きを持つIL-10という物質の遺伝子の働きが低下していました。細胞全体の活性酸素は一部の条件でむしろ減った一方、ミトコンドリアのスーパーオキシドは、スクラロースを加えて育てた大腸菌の培養液などいくつかの条件で増えていました。

この研究が示すこと

著者らは、スクラロースの影響は細菌が出す物質を介した間接的なものよりも、細菌や腸の細胞に直接、濃度に応じて及ぶものが主だったと結論づけています。スクラロースは細菌の増殖を抑え、腸の細胞に対しては中程度の濃度で代謝を高め、高い濃度で毒性を示すという、二つの方向の反応を引き起こしました。

ただし、効果が見られた濃度は通常の食事で摂取する量を大きく上回っていると著者ら自身が述べています。また、実験は短時間の培養に限られ、細胞は1種類の培養細胞株のみを用いたものです。そのため、この結果がそのまま人の腸で起こることを示すわけではありません。この研究は、ほとんど吸収されずに大腸まで届くスクラロースが、腸内細菌と腸の細胞の関係に関わりうることを、培養実験の段階で示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Hoi Nam Chan(Coventry University))、Andrei-Florin Sandu(Coventry University))

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hoi Nam Chan, Andrei-Florin Sandu. Effects of sucralose on microbial and intestinal epithelial activity. Food Bioscience 2026-08-04. DOI: 10.1016/j.fbio.2026.109669. 原著ライセンス:CC BY.