著者の所属・活動拠点の国は、フィリピンです。
掲載誌:Food Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられてきた煮汁を調味料に
フィリピンでは、ワタリガニの一種であるタイワンガザミ(ブルースイミングクラブ)が重要な水産物です。サマール州周辺では、漁獲されたカニの多くを加工場でゆでたり蒸したりして身を取り出し、カニ肉として出荷しています。論文によると、この加工で出る煮汁は通常は排水として捨てられてきました。
この研究の目的は、その煮汁を「スプレードライ(噴霧乾燥)」という方法で粉末にし、食品用の調味料として活用することです。噴霧乾燥は、液体を高温の空気中に霧状に吹き付けて水分を一気に飛ばし、粉末にする技術です。食品などの分野で広く使われています。著者は、副産物を付加価値のある製品に変えることで、収益性の向上や環境保護、持続可能性につなげることを狙いとして挙げています。
煮る時間・水の量・カニの量を変えて試作
研究では、地元の市場で購入した新鮮なカニを洗浄し、清潔な水で煮ました。その煮汁をこして不純物を取り除いたうえで、乾燥を助ける「担体」としてマルトデキストリン(でんぷん由来の素材)を15%加えました。これを実験室規模の噴霧乾燥機で粉末にしています。
粉末の品質に影響する条件として、予備的な選別の実験を経て、煮る時間(20・30・40分)、水の量(3・5・7リットル)、カニの量(1・2・3キログラム)の三つを取り上げました。これらの組み合わせを統計的に効率よく選ぶ実験計画法(ボックス・ベーンケン計画)を用い、計15回の試行を行いました。そのうち3回は、三つの条件をすべて中間の値にした中心条件の繰り返しです。そのうえで、得られた結果から最も好ましい条件を推定する「応答曲面法」という解析を行っています。
できた粉末については、水分量、水分活性、かさ密度、溶けやすさ、pH、塩分を測定しました。水分活性は、食品中で微生物などが利用できる水の度合いを示す指標です。さらに、粉末を加えた野菜スープを35人の評価者が試食しました。評価項目は、濁り、塩味、香り、カニらしい風味と、9段階で評価する総合的な好ましさです。
保存に適した性質と、受け入れられる風味
論文によると、粉末の水分量は3.95〜5.71%、水分活性は0.284〜0.468でした。微生物の増殖を抑えるとされる水分活性の目安は0.7です。著者は、この値を下回っていることから、保存性の面で安定した粉末だと評価しています。かさ密度は1ミリリットルあたり0.54〜0.79グラム、pHは7.3〜8.3で、弱アルカリ性でした。
塩分は0.1〜2.1%と低く、製造過程で食塩は加えていません。試食でも、塩味は「わずかに塩辛い」から「ほどほどに塩辛い」程度と評価されました。著者は、塩味が控えめな点を他の調味料との違いとして挙げています。また、好みに応じて塩を足して調整できる下地になるとも述べています。
スープの香りについては「カニの香りがほどほどに感じられる」と評価されました。風味は「ほどほど」から「はっきり感じられる」という評価で、煮汁の持つカニらしさが粉末にしても保たれていたと報告されています。総合的な好ましさは9段階で5.14〜7.57でした。著者はこれを「やや好き」から「中程度に好き」の範囲とし、受け入れられる水準と判断しています。
品質を左右したのは煮る時間と水の量
応答曲面法による解析では、総合的な好ましさは煮る時間と水の量の組み合わせに大きく左右されることが示されました。著者らが最適条件として示したのは、試した範囲の上限にあたる煮る時間40分、水7リットルです。この条件で、総合評価はおよそ7(「中程度に好き」)に達したと報告されています。一方、1〜3キログラムの範囲では、カニの量の影響は小さいとしています。
この研究は、これまで捨てられてきたカニの煮汁が、噴霧乾燥によって保存しやすく、カニの風味を残した粉末調味料になりうることを示しています。また、品質を高めるには原料の量よりも、煮る時間と水の量という工程の管理が重要だという手がかりを示しています。著者は、この点に研究の意義を見いだしています。
原著論文の著者・所属:D.C. Janet(College of Industrial Technology , Samar State University , Catbalogan City , Samar , Philippines)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):D.C. Janet. Process optimization of crab powder seasoning from blue swimming crabs (Portunus pelagicus) stock. Food Research 2026-07-28. DOI: 10.26656/fr.2017.10(4).228. 原著ライセンス:CC BY.