ブラジルのセラード地域に自生するペキー(Caryocar brasiliense)という果実をご存じでしょうか。カロテノイドやフェノール化合物を豊富に含む果実ですが、脂質含有量が高く(果肉の約40%)、収穫期が限られているため、産業的な利用が難しいとされてきました。今回、ブラジル連邦大学ゴイアス校などの研究グループが、このペキー果肉をパウダー状に加工する技術について調べた研究を、学術誌「フード・バイオフィジックス」に発表しました(2026年7月掲載予定)。
研究チームが着目したのは「スプレードライ」という乾燥技術です。液体状の原料を高温の空気中に噴霧して一瞬で乾燥させる方法で、熱に触れる時間が極めて短いため、熱に弱い成分を保ちやすいという特徴があります。ただし、この技術には「壁材」と呼ばれる被覆材料を果肉に混ぜる必要があり、その種類や配合、乾燥時の温度設定によって出来上がるパウダーの性質が変わってきます。
どのように調べたのか
研究グループは、ゴイアス州の卸売市場から仕入れたペキー果実を洗浄・加熱処理して果肉を取り出し、水で希釈したのち、壁材として「マルトデキストリン(MD)」と「乳清たんぱく質濃縮物(WPC)」を組み合わせて配合しました。MDは10〜20%、WPCは0〜10%の範囲で変化させ、乾燥時の出口温度も80〜90℃の範囲で振り分ける実験計画(フラクショナル要因計画法)を組み、7通りの条件でスプレードライを実施しました。
できあがったパウダーについて、粒子の大きさや形状(走査電子顕微鏡による観察)、水への溶けやすさ、色調、そして総フェノール含有量や抗酸化活性(ABTS、DPPH、FRAPという3種類の測定法)などを詳しく調べ、これらの結果を数式モデルに当てはめて、どの条件がどの特性にどう影響するかを解析しました。
わかったこと
解析の結果、WPCの配合量が、フェノール化合物の保持率と抗酸化活性の高さにもっとも強く関わっていることが示されました。具体的には、MDとWPCを10%ずつ配合し、出口温度を80℃に設定した条件で、総フェノール含有量と抗酸化活性がもっとも高く保たれ、物理的な性質も良好だったと報告されています。
電子顕微鏡による観察では、WPCを含まない配合(MDのみ)の粒子は表面が滑らかで多孔質が少なく均一な形状になりやすい一方、WPCを加えた配合ではやや粗い表面や、たんぱく質特有の「膜」形成による収縮が見られたとされています。研究チームは、WPCが持つ界面活性作用(水と油の境界面を安定化させる性質)が、脂溶性の高いペキー果肉の成分をうまく包み込むのに役立った可能性を指摘しています。実際、フェノール化合物をパウダー内にどれだけ保持できたかを示す「カプセル化効率」の値も、WPCを含む配合(約98〜101%)はMDのみの配合(約55〜60%)より明らかに高かったと報告されています。
また、MDの濃度を上げると原料液の粘度が増して噴霧時の液滴が大きくなり、結果としてパウダーの粒子サイズも大きくなる傾向が見られた一方、WPCは液滴を小さく均一にする働きがあったこと、出口温度が高いほど水分の蒸発が速く進み粒子表面の膜形成が早まることで、粒子サイズやばらつきが抑えられる傾向があったことも述べられています。
この研究をどう捉えるか
この研究は、あくまで実験室規模での探索的な検討であり、著者らも今回用いた実験計画(フラクショナル要因計画、7条件のみ)の制約により、変数間の複雑な交互作用や曲線的な関係までは検出できなかったと述べています。得られた予測モデルは、あくまで今回実験した条件の範囲内で妥当性が確認されたものであり、それ以外の条件への外挿には注意が必要です。また、WPCがどのようなメカニズムで酸化を防いでいるのかについては、著者ら自身がさらなる研究が必要と述べており、今後の検証課題として残されています。
今回の実験や分析結果に、日本の研究機関や日本の食品・食習慣に関する言及は含まれていません。
まとめ
この研究は、ペキーという地域固有の果実を粉末化して長期保存や産業利用につなげるための一つの技術的知見を示したものです。マルトデキストリンと乳清たんぱく質を組み合わせた壁材配合や乾燥温度の調整が、フェノール化合物や抗酸化活性の保持に影響しうることが示唆されていますが、これは特定の実験条件下で得られた結果であり、実際の食品への応用や健康効果を保証するものではありません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意しておく必要があります。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Roberto Braz da Silva Filho, Daniel Velloso Cabral, Dennia Pires de Amorim Trindade, et al. First-order Modeling of Wall Composition and Outlet Temperature Effects on Particle Morphology and Antioxidant Properties of Spray-dried Pequi (Caryocar brasiliense) Pulp Powders. フード・バイオフィジックス (2026). DOI: 10.1007/s11483-026-10190-0.