著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:AGROINTEK

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:作り手ごとに違う味を数値で捉える

チュコ・ペンペックは、インドネシア・南スマトラ州パレンバンの名物料理「ペンペック」(魚のすり身を使った練り物)に添える伝統的なソースです。ヤシ砂糖の甘み、タマリンドの酸味、唐辛子とニンニクの辛みが組み合わさった味が特徴です。しかし、多くは小規模な作り手が決まった製法の基準なしに作っているため、材料の配分や煮詰め方の違いによって、味・色・香り・とろみが製品ごとに異なると著者らは指摘しています。

これまでのチュコ・ペンペック研究は、味の特徴の記述や好みの調査が中心で、成分の数値と味の評価を統計的に結びつけた分析は限られていました。そこで研究チームは、果糖(フルクトース)の量、水分量、粘度(とろみの強さ)という3つの性質が、色・香り・味の評価とどのように関係しているかを調べました。目的は、品質のばらつきを理解するための定量的な手がかりを示し、小規模な作り手の品質の安定化に役立てることです。

何を調べたか:10の作り手のソースを測定し、試食で評価

研究チームは、パレンバン市内の複数地区にある伝統市場や家庭での製造所から、それぞれ別の作り手によるチュコ・ペンペックを10試料集めました。各試料について、果糖の量を液体クロマトグラフィーという分析法で、水分量を乾燥前後の重さの差から、粘度を回転式の粘度計で測定しました。なお、予備観察ではタマリンド由来の酸味は試料間の差が比較的小さかったため、酸度は今回の測定項目に含めていません。

あわせて、ペンペックやチュコを食べ慣れた30人の一般のパネル(専門訓練を受けていない評価者)が、各試料の色・香り・味を「1=とても嫌い」から「5=とても好き」までの5段階で評価しました。そのうえで、項目同士の関連の強さを調べる相関分析、3つの性質をまとめて味の評価を説明できるかを見る重回帰分析、多くの項目に共通する大きな傾向を取り出す主成分分析を行いました。

主な結果:果糖が多く、水分が少なく、とろみがあるほど評価が高い傾向

測定の結果、試料の果糖量は2.02〜5.01%、水分量は45.90〜61.18%、粘度は14.33〜42.87センチポアズと、作り手によって大きな幅がありました。試食評価では、香りの点数は比較的そろっていた一方、味の点数のばらつきが最も大きく、著者らは味が配合の違いに最も左右されやすい項目だとしています。

相関分析では、果糖の量と味の評価の間に強い正の関連(相関係数0.788)がみられ、果糖が多い試料ほど味の評価が高い傾向がありました。果糖は粘度や色の評価とも正の関連を示しました。反対に、水分量は味の評価(相関係数-0.716)や色の評価と負の関連があり、水分の多い、いわば薄いソースほど評価が低い傾向でした。粘度と味の評価にも正の関連がみられましたが、統計的に有意な水準には達していません。著者らは、相関は関連の強さと向きを示すもので、因果関係を説明するものではないと断っています。

重回帰分析では、果糖・水分・粘度の3つをあわせると、味の評価のばらつきの約70%を説明できました。ただし、モデル全体の有意性はぎりぎりの水準(p=0.052)で、試料数が少ないこともあり、個々の項目の効果は単独では有意ではありませんでした。それでも、果糖と粘度はプラス、水分はマイナスという向きは相関分析と一致していました。

主成分分析では、データ全体のばらつきの59.7%を占める一つの大きな軸が見いだされました。この軸の上で、果糖・味・粘度・色は同じ方向に、水分は反対方向に並んでいました。研究チームは、チュコ・ペンペックの品質は個別の性質の寄せ集めではなく、「糖が多く、水分が抑えられ、とろみがある」という一つのまとまった品質の次元として表せると解釈しています。

研究が示す意味

著者らは、果糖の量がヤシ砂糖の使用量や加熱の程度を映す目安にもなり、味の受け入れやすさを左右する中心的な要素だと結論づけています。また、水分は風味を薄める方向に働き、粘度は口当たりや風味の持続を通じて評価を後押しすると解釈しています。

この結果から研究チームは、チュコ・ペンペックの品質を高めるために伝統的なレシピを大きく変える必要はなく、ヤシ砂糖の量、煮詰めによる水分の管理、とろみの安定といった要所を整えることが、製品の安定と受け入れやすさにつながりうると述べています。地域の伝統の味を保ちながら、その品質を数値で捉える一つの手がかりを示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Nico Syah Putra(Food Technology Department, Agriculture Faculty, Universitas Muhammadiyah Palembang, South Sumatera, Indonesia)、Ikawati Karim(Agribusiness , Universitas Sulawesi Barat, Majane)、Fatimah Fatimah(Agroindustry, Politeknik Tanah Laut, Tanah Laut)、Idealistuti Idealistuti(Food Technology Department, Agriculture Faculty, Universitas Muhammadiyah Palembang)、Eka Rizki Meiwinda(Food technology, Politeknik Negeri Sriwijaya, Palembang)、Erni Hawayanti(Agrotechnology, Universitas Muhammadiyah Palembang, Palembang)、Harum Sahara(Animal Husbandry, Universitas Muhammadiyah Malang, Malang)、Muhammad Aditya Prawira(Food Technologi Department, Agriculture Faculty, Universitas Muhammadiyah Palembang)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nico Syah Putra, Ikawati Karim, Fatimah Fatimah, et al. Quality evaluation of cuko pempek based on physics and chemical properties and sensory acceptance. AGROINTEK 2026-07-28. DOI: 10.21107/agrointek.v20i2.32570. 原著ライセンス:CC BY.