著者の所属・活動拠点の国は、ヨルダンです。

掲載誌:Acta Scientiarum Polonorum Technologia Alimentaria

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

食品業界では、なじみのある天然由来の原材料でつくられ、加工の少ない「クリーンラベル」食品への需要が高まっています。合成保存料への懸念もあり、植物抽出物を天然の抗菌剤や抗酸化剤として使う方法が注目されています。ただし著者らによると、植物由来の成分は水に溶けにくく、不安定で揮発しやすいことが多く、加工や保存の間に効果が落ちやすいという課題があります。

そこで研究チームは「フィトソーム」という仕組みに着目しました。フィトソームは、植物由来の成分と、細胞膜にも含まれる脂質の一種であるリン脂質を結びつけた、ナノサイズの複合体です。成分の安定性や溶けやすさを高める方法とされています。この研究の目的は、ワイルドタイム(イブキジャコウソウの仲間)とクローブ(丁子)の抽出物をフィトソームに封入した製剤を開発し、抽出物の化学組成を調べたうえで、機能性食品への応用の可能性を検討することでした。

何を調べたか

研究チームは、ヨルダン・アンマンの抽出施設から入手したワイルドタイムとクローブを水蒸気で蒸留し、抽出物を得ました。抽出物については、ポリフェノールなどのフェノール類の総量、抗酸化力(DPPHという試薬を用いて不安定な分子を消す力を測る方法と、還元力)を測定しました。さらに、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)で主な成分も特定しました。

続いて、抽出物にリン脂質(ホスファチジルコリン)とコレステロールを異なる割合で組み合わせ、10種類のフィトソーム製剤を作りました。抗菌作用は、食中毒や食品の腐敗に関わる細菌6種とカビ類6種の計12種の微生物を対象に、実験室の培地で調べています。評価には、抽出物の周りで微生物が育たない範囲(阻止円)の大きさや、増殖を抑えるのに必要な最小濃度(MIC)などを用いました。2種類を組み合わせた場合については、組み合わせによって効果が単独の足し算を上回るか(相乗効果)、足し算程度か(相加効果)を示す指標(FIC指数)を計算しました。

主な結果

抽出物1グラムあたりのフェノール類の総量は、ワイルドタイムで258.4ミリグラム、クローブで227.72ミリグラム(没食子酸換算)と報告されました。一方、DPPH法で測った抗酸化力では、クローブ抽出物が72.4%と、合成酸化防止剤BHT(59.61%)より強い作用を示しました。ワイルドタイム抽出物は58.8%で、BHTと同程度でした。著者らは、抗酸化力はフェノール類の量だけでなく、その化学構造などにも左右されると述べています。成分分析では、クローブではオイゲノール、ワイルドタイムではチモールが主成分でした。

抗菌試験では、クローブ抽出物をフィトソームに封入すると、多くの微生物に対する阻止円が大きくなりました。たとえば黄色ブドウ球菌では、阻止円の直径が15ミリから30ミリに広がりました。ワイルドタイムの場合、黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、大腸菌では封入の有無による有意な差はありませんでした。ただしリステリア菌に対しては、封入した方が強い作用を示しました(阻止円11ミリに対し15ミリ)。なお、カビの一種であるクルブラリア・ルナータに対しては、どの試料も増殖を抑えませんでした。

クローブとワイルドタイムのフィトソームを組み合わせると、調べた微生物のうち67%で相乗効果、残り33%で相加効果がみられました。互いに効果を打ち消し合う例はなかったと報告されています。FIC指数の平均は0.49でした。

研究が示すこと

著者らは、ワイルドタイムとクローブの抽出物をフィトソームに封入すると、実験室の試験で抗菌作用が高まる場合があり、2種類を組み合わせるとさらに効果が強まる傾向があったと結論づけています。そのうえで、これらが合成保存料に代わる天然由来の抗菌・抗酸化素材となる可能性を示しています。身近な香辛料の成分を、加工の工夫で食品の保存に活かそうとする試みとして位置づけられる研究です。

原著論文の著者・所属:Saddam Sh. Awaisheh、Razan J. Alrahahleh(Department of Diet Therapy Technology and Dietetics , Faculty of Allied Medical Sciences Zarqa University , Al-Zarqa , Jordan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Saddam Sh. Awaisheh, Razan J. Alrahahleh. Phytosome-encapsulated wild thyme (Thymus serpyllum L.) and clove (Syzygium aromaticum L.) extracts as next-generation clean-label antioxidant and antimicrobial systems for functional foods [pdf]. Acta Scientiarum Polonorum Technologia Alimentaria 2026-11-03. DOI: 10.17306/j.afs.001515. 原著ライセンス:CC BY.