著者の所属・活動拠点の国は、カナダです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ブロッコリーには、グルコシノレートと呼ばれる硫黄を含む成分が含まれています。これが分解されてできる化合物の一つがスルフォラファンで、研究の世界で広く注目されてきました。研究チームは、これらの成分をブロッコリーの花蕾(食べる房の部分)から効率よく取り出す方法を探りました。あわせて、得られた抽出物が試験管内でどのような働きを示すかを調べています。
調べた働きの一つは、物質の酸化を抑える性質、いわゆる抗酸化能です。もう一つは、エラスターゼという酵素の働きを妨げる作用です。エラスターゼは、皮膚の弾力を保つたんぱく質であるエラスチンを分解する酵素です。その過剰な働きは、皮膚のたるみやしわに関わるとされています。
抽出方法として著者らが中心に据えたのは、超音波抽出です。これは、超音波で細胞を壊して中の成分を溶け出しやすくする方法で、熱による成分の傷みを抑えやすいとされています。溶媒には、毒性のあるメタノールなどではなく、食品にも使えるエタノールを水で薄めたものを用いました。
どのように調べたか
研究チームは、市販のブロッコリーを凍結乾燥して粉末にしました。この粉末を使い、超音波抽出の条件を3つの観点で変えて試しました。エタノールの濃度(0〜100%)、温度(20〜80℃)、抽出時間(20〜60分)です。実験は合計20回行われ、その中には中心となる条件を繰り返し実施した回も含まれています。結果からは、応答曲面法という統計的な手法で最適な条件を推定しました。応答曲面法は、複数の条件が結果にどう影響するかを少ない実験回数で見積もる方法です。
次に、最適化した超音波抽出を他の方法と比べました。比較相手は、振とうや湯せんによる従来型の抽出、マイクロ波を使う抽出、天然の成分から作る特殊な溶媒(NADES)を使う抽出などで、合わせて7種類の方法を比較しています。各抽出物については、グルコシノレートの総量、スルフォラファンなどの個別成分の量を測りました。さらに、3種類の試験法による抗酸化能と、ブタ膵臓由来エラスターゼへの阻害作用も評価しています。
主な結果
統計解析の結果、グルコシノレートの総量が最も多くなる条件は、エタノール濃度25%、41℃、32分と推定されました。著者らによると、結果に最も大きく影響したのはエタノールの濃度でした。温度と時間も、高すぎたり長すぎたりすると、かえって回収量が下がる傾向が示されています。また、エタノール100%ではグルコシノレートの回収量が大きく下がりました。この点について著者らは、グルコシノレートが水になじみやすい性質を持つためと説明しています。
7種類の方法の比較では、この条件の超音波抽出が最も多くグルコシノレートを回収しました。その量は乾燥重量1グラムあたり約35.5ミリグラム(基準物質換算)です。メタノールを使った超音波抽出と比べると、4〜10倍の量でした。スルフォラファンの量も、乾燥重量1グラムあたり約307マイクログラムで、比較した方法の中で最も多い結果でした。一方、振とうや湯せんといった従来型の抽出では、スルフォラファンは検出されませんでした。
抗酸化能は試験法によって結果が異なりました。鉄を還元する力を測る試験では、25%エタノールの超音波抽出物が最も高い値を示しました。しかし、別の試験(DPPH法)では、70%メタノールを用いたマイクロ波抽出物が最も強い作用を示しました。さらに別の試験(ORAC法)では、抽出物の間に統計的に意味のある差は見られませんでした。
エラスターゼ阻害作用は、IC50という指標で比べました。IC50は酵素の働きを半分に抑えるのに必要な濃度を表し、値が小さいほど作用が強いことを意味します。数値上最も強かったのは、メタノールを使った振とう抽出物で、IC50は1ミリリットルあたり0.51ミリグラムでした。次いで、25%エタノールの超音波抽出物が0.86ミリグラムでした。両者の差は統計的に有意ではありませんでした。比較のために調べた純粋なスルフォラファンのIC50は0.96ミリグラムでした。
この研究が示すこと
この研究は、毒性の高い溶媒に頼らなくても、水で薄めたエタノールと超音波を組み合わせることで、ブロッコリーのグルコシノレートとスルフォラファンを同時に多く取り出せる条件を報告したものです。著者らはこの方法を、持続可能で資源効率のよい抽出手法として位置づけています。
ただし、著者らは解釈の範囲についても明確に述べています。今回の結果は、試験管内でブタ由来の酵素を使って得られたものです。人の皮膚で老化を防ぐ効果が確かめられたわけではありません。また、抽出物中のポリフェノールなど他の成分は詳しく測られていません。そのため、抗酸化能の高さと硫黄化合物の多さが重なって見えることは、相関にとどまるとしています。つまり、どの成分が作用を担っているかは確定していません。
原著論文の著者・所属:Chandrika Chaturvedi(Department of Plant, Food, and Environmental Sciences, Faculty of Agriculture, Dalhousie University, Truro, NS B2N 5E3, Canada)、H. P. Vasantha Rupasinghe(Department of Plant, Food, and Environmental Sciences, Faculty of Agriculture, Dalhousie University, Truro, NS B2N 5E3, Canada)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chandrika Chaturvedi, H. P. Vasantha Rupasinghe. Glucosinolate- and Sulforaphane-Enriched Broccoli Extract as a Potential Dual-Action Antioxidant and Elastase Inhibitor. Foods 2026-09-25. DOI: 10.3390/foods15193431. 原著ライセンス:CC BY.