著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。
掲載誌:Marine Drugs
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:海域が異なるアカモクの性質を比べる
海藻、とくに褐藻類には、ポリフェノールなど生理活性をもつ成分が多く含まれ、機能性素材の原料として関心を集めています。アカモク(学名Sargassum horneri)は、韓国・日本・中国など東アジアの沿岸に広く分布する一年生の褐藻です。これまでにも、アカモクの抽出物や成分が炎症反応を抑えるという報告がありました。一方で、韓国のどの沿岸で採れたアカモクかによって性質がどう違うかについては、比較できる情報が限られていました。
そこで研究チームは、韓国の西海・南海・東海の三つの沿岸に由来するアカモク抽出物を並べて評価しました。抗酸化作用(体内で細胞を傷つける活性酸素などの働きを打ち消す性質)と、抗炎症作用を比べています。
何を調べたか
材料には、韓国の国立海洋生物資源館から提供された抽出物を用いました。藻体全体を70%エタノールで、超音波を使って統一した条件で抽出したものです。由来はそれぞれ、西海が忠清南道泰安郡、南海が済州道済州市、東海が江原道襄陽郡です。
研究チームはまず、抽出物に含まれるフェノール類の総量(総ポリフェノール量)とフラボノイド類の総量を測りました。抗酸化力は三つの試験で評価しました。DPPHとABTSという2種類の人工的な「ラジカル」(反応性の高い不安定な分子)を消去する力を調べる試験と、鉄イオンを還元する力を測るFRAP試験です。ラジカル消去の強さは、ラジカルを半分消すのに必要な濃度(IC50)で表します。この値が小さいほど作用は強いことになります。
抗炎症作用の評価には、マウス由来の免疫細胞(マクロファージ)の培養株を使いました。細菌の細胞壁成分であるLPSでこの細胞を刺激して炎症に似た状態を作り、抽出物を加えたときに炎症の指標である一酸化窒素(NO)の産生がどう変わるかを調べています。さらに、総合的に最も活性が高かった抽出物について、炎症に関わる酵素COX-2の量を調べました。あわせて、炎症の信号を伝えるNF-κBとMAPK(ERK、JNK、p38)という細胞内の経路の働き具合も確認しています。
主な結果:南海由来の抽出物が総合的に高い活性
総ポリフェノール量が最も多かったのは南海由来の抽出物で、抽出物1gあたり約87mg(没食子酸換算)でした。西海(約36mg)と東海(約40mg)を大きく上回っています。一方、フラボノイド量は東海由来が最も多く、南海由来が最も少ないという、別の傾向を示しました。
抗酸化試験では、DPPHとABTSのどちらでも南海由来の抽出物のIC50が最も小さく、ラジカルを消す力が最も強いという結果でした。鉄を還元する力は、南海と東海が西海より高い値でした。
培養細胞の実験では、LPS刺激によってNOの量が約6.4μMから約18.0μMへ増えました。三つの抽出物はいずれもこの増加を抑えましたが、効き方には差がありました。南海由来の抽出物は、試した濃度(100・200・400μg/mL)のすべてで他の抽出物よりNOを低く抑え、400μg/mLでは約7.7μMまで下げています。各指標をまとめた総合比較でも、南海由来は西海・東海由来とは異なるまとまりに分類されました。研究チームはこれを、抗酸化と抗炎症の両面で最も際立った特徴をもつ抽出物と位置づけています。
南海由来の抽出物を詳しく調べると、最高濃度の400μg/mLでCOX-2の量がはっきり減りました。NF-κBの活性化の目印となるリン酸化も減っています。MAPKの経路では、ERKとJNKのリン酸化が減る傾向が見られた一方、p38は抑えられず、むしろ高濃度で増えました。研究チームは、抗炎症作用はすべての経路を一様に抑えるのではなく、主にERKとJNK、そしてNF-κBの調節と関連している可能性があると述べています。
ただし、反応は単純な濃度依存ではありませんでした。たとえばCOX-2は、100μg/mLではかえって増えています。また400μg/mLでは細胞の生存率も下がっていたため、この濃度で見られた強い抑制には細胞数の減少が一部影響した可能性があると、著者らは慎重な解釈を求めています。経路の働きについても、関連が示されたにとどまり、因果関係が確かめられたわけではないとしています。
研究が示すこと
この研究は、韓国の異なる沿岸に由来するアカモクの間で、成分量や抗酸化・抗炎症作用に違いがあることを示しました。著者らは、原料となるアカモクを選ぶうえで産地が重要な要素になりうると述べています。
一方で著者らは、三つの試料の採取時期がそれぞれ2021年6月、2022年4月、2023年4月と異なることも指摘しています。そのため、観察された違いを海域の差だけに帰することはできず、今回の結果は、ここで調べた三つの資源の比較として理解すべきだとしています。さらに、どの成分が違いを生んだのかは特定されていません。実験も培養細胞の段階にとどまっています。今回の結果は、同じ海藻でも由来によって性質が異なりうることを、具体的な測定値で示した比較研究といえます。
原著論文の著者・所属:Sung-Gyu Lee(Department of Medical Laboratory Science, College of Health Science, Dankook University, Cheonan-si 31116, Chungcheongnam-do, Republic of Korea; Marine Bio-Food and Drug Convergence Technology Center, Dankook University, Cheonan-si 31116, Chungcheongnam-do, Republic of Korea)、Jae-Ho Lee(Department of Medical Laboratory Science, College of Health Science, Dankook University, Cheonan-si 31116, Chungcheongnam-do, Republic of Korea; Marine Bio-Food and Drug Convergence Technology Center, Dankook University, Cheonan-si 31116, Chungcheongnam-do, Republic of Korea)、Hyun Kang(Department of Medical Laboratory Science, College of Health Science, Dankook University, Cheonan-si 31116, Chungcheongnam-do, Republic of Korea; Marine Bio-Food and Drug Convergence Technology Center, Dankook University, Cheonan-si 31116, Chungcheongnam-do, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sung-Gyu Lee, Jae-Ho Lee, Hyun Kang. Comparative Evaluation of the Antioxidant and Anti-Inflammatory Activities of Sargassum horneri Collected from Different Korean Coastal Regions. Marine Drugs 2026-09-27. DOI: 10.3390/md24100339. 原著ライセンス:CC BY.