著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
地元の白ブドウに住む酵母を調べる
ブドウの実やワイナリーの中には、細菌やカビ、酵母など多様な微生物が住んでいます。なかでも酵母はアルコール発酵を担い、ワインの成分や香り、味わいに影響します。主役はサッカロマイセス・セレビシエ(以下、セレビシエ)という酵母ですが、それ以外の「非サッカロマイセス酵母」も多様な代謝をもつとして注目されています。また論文は、温暖化でブドウの糖が増えすぎ、果汁の自然な酸味が失われやすくなっている点を、ブドウ栽培の大きな課題として挙げています。
研究チームは、国際的に広く栽培される品種に比べて、地域に根づいた少数品種の微生物については研究が進んでいない点に着目しました。そこで、イタリア中部の土着の白ブドウ品種「マチェラティーノ」とそのワイナリーにどのような酵母がいるかを調べ、有望な株を選んでワイン造りに試すことを目的としました。
畑とワイナリーから酵母を集め、発酵力を比べる
研究チームは2025年の収穫期に、イタリア・マチェラータ県コリドーニアにある有機栽培のブドウ畑と有機認証を受けたワイナリーで試料を集めました。畑を北・中央・南の三区画に分けて計10か所からブドウを採取し、そのうち8か所がマチェラティーノ、2か所は同じ畑で育つ赤ワイン用品種モンテプルチアーノで、比較のために加えられました。
ブドウとワイナリー内の表面から、合計163の酵母株が得られました(ブドウから145、表面から18)。見た目の特徴で分類したうえで代表的な35株の遺伝子配列を調べたところ、セレビシエのほか、ハンセニアスポラ、ラカンセア、メチニコビア、ピキア、スターメレラ、ジゴサッカロマイセスなどの仲間が含まれていました。同定された株の中で多かったのは、セレビシエ(17%)、ラカンセア・サーモトレランス(14%)、ジゴサッカロマイセス・ビスポラス(11%)でした。採取直後にはハンセニアスポラやメチニコビアが多く見つかり、ブドウを自然に発酵させていく途中や後半には、ラカンセアやサッカロマイセスなどが主に見つかるという、酵母の入れ替わりが観察されました。
次に、マチェラティーノから得た16株と、このワイナリーで広く使われている市販の発酵用酵母2株を、少量のブドウ果汁で発酵させて比べました。セレビシエの株は市販株と同様に速やかに発酵し、アルコール濃度は14.75〜16.19%に達して、糖をほぼ使い切りました。一方、非サッカロマイセス酵母はいずれも単独では発酵を完了できませんでした。そのなかでラカンセア・サーモトレランスは比較的よく発酵し、乳酸を多く作るという特徴を示しました。
順番に酵母を加える「逐次発酵」の結果
研究チームはこの結果をもとに、メチニコビア・プルケリマ、ハンセニアスポラ・オプンティアエ、ラカンセア・サーモトレランスの3株を選びました。そして、まずこれらの非サッカロマイセス酵母で発酵を始め、3日目に土着のセレビシエ株を加える「逐次発酵」を行いました。比較対象として、市販のセレビシエと土着のセレビシエをそれぞれ単独で使った発酵も行いました。
メチニコビアは7日目までに検出されなくなった一方、ハンセニアスポラとラカンセアはセレビシエと共存し続けました。発酵の進み方には違いがあったものの、最終的なアルコール濃度はどの条件でも同程度で、残った糖もわずかでした。はっきり乳酸を作ったのはラカンセアを使った逐次発酵だけで、酢酸もやや増えていました。
香り成分の分析では、逐次発酵のワインは使った非サッカロマイセス酵母の種類ごとに、異なる香り成分の組み合わせを示しました。評価者が香りや味の強さを10段階で採点する官能評価でも違いが見られ、ラカンセアを使ったワインはトロピカルフルーツや柑橘の香り、酸味とまろやかさが強く感じられ、アルコール感は控えめで、全体にバランスのよい評価でした。ハンセニアスポラを使ったワインは柑橘やスパイスの香りと最も強い酸味、メチニコビアを使ったワインは熟した果実やトロピカルフルーツの香りが最も目立ちました。セレビシエ単独の2種類のワインは、全体として似た評価でした。
興味深いことに、メチニコビアは早くに姿を消したにもかかわらず、ワインの香りの組成に大きな違いをもたらしました。著者らは、発酵初期の一時的な働きだけでも、最終的な香りに影響しうることを示唆する結果だと述べています。
地元の酵母が持つ可能性
この研究では、地元の品種に住む酵母を集めて特徴を調べることで、逐次発酵に使うとワインに特色ある香りや味わいをもたらす株が見いだされました。特にラカンセア・サーモトレランスの乳酸を作る性質について、著者らは果汁の酸味を調整する生物的な手段になりうると位置づけています。
ただし、著者らはこれらを実験室規模での予備的な結果としています。地域特有の微生物がワインの土地らしさを生むという考えは作業仮説にとどまり、複数年の収穫や、より大きな規模の試験で安定性や再現性を確かめる必要があると述べています。
原著論文の著者・所属:Laura Moretti(Department of Life and Environmental Sciences (DiSVA), Polytechnic University of Marche, Via Brecce Bianche, 60131 Ancona, Italy)、Laura Canonico(Department of Life and Environmental Sciences (DiSVA), Polytechnic University of Marche, Via Brecce Bianche, 60131 Ancona, Italy)、Alice Agarbati(Department of Life and Environmental Sciences (DiSVA), Polytechnic University of Marche, Via Brecce Bianche, 60131 Ancona, Italy)、Francesca Comitini(Department of Life and Environmental Sciences (DiSVA), Polytechnic University of Marche, Via Brecce Bianche, 60131 Ancona, Italy)、Maurizio Ciani(Department of Life and Environmental Sciences (DiSVA), Polytechnic University of Marche, Via Brecce Bianche, 60131 Ancona, Italy)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Laura Moretti, Laura Canonico, Alice Agarbati, et al. Indigenous Yeasts from a Maceratino Vineyard: Sequential Fermentation as a Strategy to Enhance Wine Complexity. Foods 2026-10-18. DOI: 10.3390/foods15203706. 原著ライセンス:CC BY.