著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:JURNAL MANAJEMEN PENDIDIKAN DAN ILMU SOSIAL

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:給食を「食べ物の配布」以上のものとして捉える

インドネシアでは、児童・生徒に栄養のある食事を無償で提供する「無償栄養給食プログラム(MBG)」が進められています。著者らは、このプログラムを単なる食事の配布ではなく、基本的な必要を満たし、栄養面で子どもを守り、地域社会の強さを支える公共政策の手段として捉え直そうとしました。

論文は、食料の問題を国際関係論の視点から考えます。その鍵となるのが二つの考え方です。一つは「人間の安全保障」です。これは国家の安全よりも、日々の暮らしを脅かす弱さから一人ひとりの人間を守ることに焦点を当てる考え方で、「保護」と「エンパワーメント(自ら対処する力を高めること)」を柱とします。もう一つは「食料安全保障」です。すべての人が、いつでも十分で安全かつ栄養のある食料を手に入れられる状態を指します。論文では、国連食糧農業機関(FAO)が示す「供給(入手可能性)」「アクセス」「利用」「安定性」の四つの柱が用いられています。

著者らによれば、これまでのMBG研究は、地域の食料安全保障、学習への影響、政策の実施効果を別々に論じる傾向がありました。そこで本研究は、東ジャワ州シドアルジョ県でのMBGの実施状況を二つの視点から一体的に分析しました。あわせて、実施の持続を支える要因と妨げる要因を明らかにすることを目指しました。比較の参照点としたのは、日本の学校給食(給食)制度です。

何をどのように調べたか

研究は質的な事例研究として行われました。主な調査地は、給食の調理と配送を担う現地の拠点「SPPG(栄養充足サービスユニット)」のうち、ゲダンガン地区のSPPGです。

著者らは、プログラムに直接関わる人々を情報提供者として選びました。対象は、学校の校長や教員、給食の実施者、地方政府や関係部局、給食を受け取る児童・生徒、保護者などです。調査は、深く掘り下げる半構造化インタビューと現地での観察によって行われました。さらに、政策文書、事業報告、学術文献も補助資料として用いました。

集めた情報は、テーマごとに整理・選別し、記述にまとめたうえで結論を導くという手順で分析されました。信頼性を高めるために、異なる情報提供者の証言や、インタビュー・観察・文書という異なる方法の結果を照らし合わせています。なお、日本の給食制度は現地調査ではなく文献に基づく参照モデルとして使われました。シドアルジョの現地調査の結果と、給食制度に示される望ましい実践とを分析的に照らし合わせる形の比較です。

主な結果:整った運営の仕組みと、残る課題

論文によると、ゲダンガンのSPPGでは、献立の計画、食材の調達、品質管理、調理、盛り付けと包装、学校への配送、そしてモニタリングまでが比較的整った流れで運営されていました。週ごとの献立は、栄養士、調理責任者、事務担当者が20種類の基本献立を基に作成します。届いた食材はすべて計量・記録され、納品書と照合されたうえで品質を確認されます。基準に合わない食材はその場で返品されます。

調理場は、下ごしらえ、調理、盛り付け、配送、洗浄の五つの部門に分かれています。料理は鮮度と安全を保つため、それぞれ約1,000食ずつの三回に分けて作られます。実施者は、調理後に安全に食べられる時間を最長6時間と定めていました。学校に届いた食事は2時間以内に食べ終える決まりで、これを超えたものは回収されます。配送は毎日行われ、車両は配送の前後に清掃されます。遠くから運ばれる食材には保冷ボックスなどが使われます。サービス範囲は、調理場から学校までおよそ6キロメートル、移動時間にして約20分以内に限られていました。

この運営には複数の主体が関わっています。中央の国家栄養庁、現場で実施するSPPG、受給者の把握と割り振りを担う地区調整役、受け入れ側の学校、食材を納める地元の供給業者です。学校とは覚書(MoU)を結び、緊急時の対応を含めて各自の責任を定めています。

著者らはこれらの結果を二つの視点で読み解きました。人間の安全保障の視点では、食材の品質管理や安全に食べられる時間の制限などが、子どもを食の危険から守る「保護」にあたると論じています。また、多様な主体が参加していることは「エンパワーメント」に関わる要素だとしています。情報提供者からは、地元の供給業者の取引が増えた、調理場周辺の屋台の活気が増した、一部の食品残さが畜産農家に利用されている、といった地域への波及も語られました。

食料安全保障の視点では、四つの柱すべてに対応する取り組みが確認されました。前もって献立を立て、早めに調達することは「供給」に対応します。サービス範囲の設定と学校との調整は「アクセス」に、品質管理や保冷、分割調理、時間制限は「利用」に対応します。毎日の継続的な運営は「安定性」にあたります。その一方で、調理場の能力に限りがあるため、すべての学校に均等に提供できるには至っていないことも報告されています。

日本の給食との比較では、栄養を満たすことで人材の質を高めるという方向性は共通していると論文は述べています。ただし、給食は強固な法制度と食育との結びつきによって成熟した仕組みになっています。これに対し、MBGはまだ運営体制の強化と対象範囲の拡大の段階にあるとされました。そのうえで著者らは、MBGには継続的な制度づくり、栄養教育、分野を越えた連携の強化が必要だと指摘しています。

この研究が示すこと

この研究は、一つの地域の給食拠点を詳しく見ることで、無償給食が食事を配るだけの事業ではないことを描き出しました。食の安全を守る仕組み、地域の多様な担い手の協力、地元経済とのつながりを含む公共政策として機能しうる姿です。同時に、調理能力による提供範囲の限界や制度面の課題も浮かび上がりました。著者らは、MBGが地域の人間の安全保障と食料安全保障を支える政策手段として大きな可能性を持つと結論づけています。

原著論文の著者・所属:Ardi Dharma Putra(Universitas Brawijaya, Malang, Indonesia)、Asih Purwanti(Universitas Brawijaya, Malang, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ardi Dharma Putra, Asih Purwanti. Program Makan Bergizi Gratis (MBG) sebagai Instrumen Kebijakan Publik dalam Kerangka Hubungan Internasional: Studi Ketahanan Pangan di Kabupaten Sidoarjo. JURNAL MANAJEMEN PENDIDIKAN DAN ILMU SOSIAL 2026-10-17. DOI: 10.38035/jmpis.v7i6.9892. 原著ライセンス:CC BY.