著者の所属・活動拠点の国は、スペイン、ポルトガル、スイス、ニュージーランドです。
掲載誌:OENO One
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
台木によって乾燥の受け方が違う理由を探る
ワイン用のブドウの多くは、果実をつける品種(穂木)を、根の部分を担う別の品種(台木)に接ぎ木して育てられています。気候変動で乾燥が強まると予想される地中海沿岸のブドウ産地では、どの台木と穂木を組み合わせるかが乾燥への備えの一つになります。研究チームによると、乾燥にさらされる度合いは台木の種類と強く結びついており、乾燥下でも収量を保ちやすい台木があることも知られています。一方で、畑の中で台木が地下の水にどうたどり着き、どう使っているのかについての情報は乏しいままでした。
著者らはこの点を確かめるため、台木の違いが根の吸水する深さを変え、それによって植物全体の水分状態や生育、収量に影響するのかを調べました。あわせて、台木と穂木の組み合わせ(相互作用)がその影響の大きさに関わるのかも検討しています。
水に含まれる「目印」で吸水の深さを推定
調査は、スペイン・カタルーニャ地方にある灌漑をしない実験用ブドウ畑で2024年の1シーズンにわたって行われました。台木3種類(110R、140Ru、41B)と穂木3品種(カベルネ・ソーヴィニヨン、グルナッシュ、マルスラン)を掛け合わせた9通りの組み合わせが調べられました。
夏の盛りの7月には、夜明け前と日中の葉の水ポテンシャル(植物がどれだけ水に困っているかを示す指標で、夜明け前の値は根の周りの土の水の得やすさを反映するとされます)と、葉の気孔の開き具合を測定しました。さらに収穫時の収量と果汁の糖度、冬の剪定で切り落とした枝の重さ(その年の枝葉の生長量の目安)も記録しています。
吸水の深さを推定するために使われたのが、水に含まれる重い水素と重い酸素の割合(安定同位体比)です。この割合は土の深さによって異なり、植物は吸った水の割合をそのまま枝の中に運びます。そこで研究チームは、7月に枝の木部の水と、深さ0〜10センチ、20〜30センチ、60〜70センチの土の水を採取して比べました。また、夏の終わりのまとまった雨の後にあたる9月の収穫直後にも枝の水を採取しています。
台木で水の得やすさは違ったが、吸水の深さは似ていた
7月の測定では、夜明け前の水ポテンシャルは穂木の品種間では差がなかった一方、台木110Rに比べて41Bと140Ruで低く、110Rの株のほうが土の水を得やすい状態にあったことが示されました。日中の水ポテンシャルには台木と穂木の両方が影響し、両者の組み合わせによる違いもはっきり表れました。気孔の開き具合には差が見られませんでした。
生育と収穫については、枝の生長量は台木41Bで最も少なく、収量はグルナッシュとマルスランがカベルネ・ソーヴィニヨンより多い結果でした。収量は台木の違いによっては変わらず、論文は、110Rのような台木で水を得やすくなっても、必ずしも収量の増加にはつながらないと述べています。
注目されるのは同位体の結果です。土の水は深いほど重い同位体が少ないという明確な傾向を示しましたが、枝の水の同位体比は台木や穂木の間で差がありませんでした。つまり、夜明け前の水分状態に差があったにもかかわらず、どの台木もほぼ同じ深さの水を使っていたことになります。著者らは、平均的な吸水位置は浅い層と20センチより深い層の間にあり、中間の層から吸っているか、浅い層と深い層の水を混ぜて吸っている可能性があると推定しています。
また9月の収穫直後には、枝の水の同位体比が夏の雨に近い方向へ変化していました。研究チームは、夏の終わりの雨を株がすばやく吸い上げたためと考えられ、夏に乾いていた浅い層でも根の吸水機能が保たれていたことを示すと解釈しています。
根の深さ以外に答えがある可能性
これらの結果から著者らは、少なくとも今回のような比較的穏やかな乾燥条件では、台木110Rが乾燥の影響を受けにくい理由は根がより深くまで伸びることではなく、根の形や構造、生理的な働きなど、まだ調べられていない別の特性によるものらしいと結論づけています。論文は、根の長さの分布、細胞の水の通り道の調整、土の微生物との共生などを候補として挙げています。
一方で研究チームは、調査が1シーズンのみで乾燥も穏やかだったこと、生理的な測定が夏の1日に限られていたことなどから、結論は予備的なものだと明記しています。それでも著者らによれば、水の同位体を使って畑の台木の地下での働きを調べたのは今回が初めてとみられ、根を掘り起こさずに台木ごとの違いの理由を絞り込む手段として、この手法が役立ちうることを示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Adrià Barbeta(IRTA, Fruit Production, Torre Marimon, 08140 Caldes de Montbui, Catalonia, Spain)、Miguel Damásio(INIAV – Instituto Nacional de Investigação Agrária e Veterinária, I.P. Avenida da República, Quinta do Marquês, Oeiras 2780-159, Portugal)、Marco Lehmann(Forest and Soil Ecology, Swiss Federal Institute for Forest, Snow and Landscape Research WSL, Zürcherstrasse 111, Birmensdorf CH-8903, Zurich, Switzerland)、Itxaso Ruiz(NEIKER – Basque Institute for Agricultural Research and Development, Derio, Spain / School of Environment, The University of Auckland, Auckland, New Zealand)、Felicidad De Herralde(IRTA, Fruit Production, Torre Marimon, 08140 Caldes de Montbui, Catalonia, Spain)、Maria Mar Alsina(IRTA, Fruit Production, Torre Marimon, 08140 Caldes de Montbui, Catalonia, Spain)、Gemma Bonet-Caballol(IRTA, Fruit Production, Torre Marimon, 08140 Caldes de Montbui, Catalonia, Spain)、Olfa Zarrouk(IRTA, Fruit Production, Torre Marimon, 08140 Caldes de Montbui, Catalonia, Spain / Santarém Polytechnic University, School of Agriculture, Quinta do Galinheiro - São Pedro, 2001-904 Santarém, Portugal / Research Center in Natural Resources, Environment and Society (CERNAS), Santarém Polytechnic University, Quinta do Galinheiro - São Pedro, 2001-904 Santarém, Portugal)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Adrià Barbeta, Miguel Damásio, Marco Lehmann, et al. Water uptake depth does not explain drought exposure or response in rainfed Mediterranean grapevines: An isotope-based study. OENO One 2026-08-06. DOI: 10.20870/oeno-one.2026.60.3.9967. 原著ライセンス:CC BY.