著者の所属・活動拠点の国は、スペイン、ポルトガルです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

捨てられがちなブドウの剪定枝を活かすために

ブドウ栽培では毎年の剪定で大量の枝(つる)が出ます。論文によると、その量は1ヘクタールあたり2〜4トンと見積もられています。安価で手に入りやすい一方、有効に利用される機会は限られています。

この剪定枝には、植物がつくるフェノール化合物が含まれています。代表例は、スチルベン類と呼ばれるトランス-レスベラトロールや、その二量体のトランス-ε-ビニフェリンです。これらは強い抗酸化活性を持つ成分として知られています。

植物から有用成分を取り出す作業には、従来は有機溶媒やエタノールと水の混合液が使われてきました。効果はあるものの、安全性、環境への負荷、溶媒の回収といった課題があります。そこで研究チームは、「深共晶溶媒(DES)」と呼ばれる比較的新しい溶媒に着目しました。

DESは、水素結合を受け取る成分と水素結合を与える成分を混ぜてつくる液体です。成分同士が結びつくことで融点が大きく下がり、室温でも液体として安定します。組み合わせる成分やその比率を変えると、極性や粘り気などの性質を調整できます。

研究チームは、天然由来で安全性の評価が進んでいるベタインを受け取る側の成分に選びました。ベタインを使ったDESで剪定枝からフェノール化合物をどれだけ取り出せるかを調べ、得られた抽出液が細胞に与える影響も評価しました。

14種類の溶媒を比べる

研究チームはまず、ベタインに組み合わせる相手として6種類の成分を用意しました。エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ソルビトール、乳酸、ブドウ糖です。比率の異なるものも含めて14種類のDESをつくり、乾燥して約1ミリに粉砕した剪定枝からの抽出能力を比べました。比較の基準には、59%のエタノール水溶液で得た抽出液を使いました。

評価には主に二つの指標を用いています。一つは総フェノール量で、没食子酸という基準物質に換算した量(GAE)で表します。もう一つは、DPPHという試薬を使った抗酸化活性です。この指標はEC50で表され、試薬の働きを半分に抑えるのに必要な抽出液の濃度を意味します。そのため、値が小さいほど抗酸化活性が強いことになります。

DESの組成によって、抽出液の総フェノール量は1ミリリットルあたり0.41〜0.82ミリグラムGAEまで差がありました。エタノール水溶液の対照は0.80ミリグラムGAEでした。

特に結果が良かったのは、ベタインとエチレングリコールの組み合わせです。この組み合わせに水を加えた配合では、水を含まない配合と比べて総フェノール量が約31%増え、抗酸化活性も高まりました。研究チームは、水によって溶媒の粘り気が下がり、成分が植物から溶け出しやすくなった可能性を論じています。

一方、プロピレングリコール、乳酸、グリセロール、ブドウ糖を使った配合は、抽出量や抗酸化活性が低めでした。ソルビトールを使った配合は中間的な結果でした。また、総フェノール量が多くても抗酸化活性が強いとは限らない例もありました。研究チームは、取り出された成分の種類や構成も抗酸化活性に関わると考察しています。

これらの比較を踏まえ、研究チームはベタイン・エチレングリコール・水を1:3:5の比率で混ぜたDESを選びました。抽出量がエタノール水溶液と同程度で、安定性も良く、細胞への影響がより穏やかだったことが選定の理由です。

抽出条件の最適化と細胞への影響

次に研究チームは、選んだDESについて温度、時間、溶媒と原料の比率を変えて抽出を行いました。そのうえで、統計的な手法を使って最も良い条件を探しました。

溶媒と原料の比率は、結果に大きく影響しました。原料に対して溶媒が少ない条件(10対1)では、濃く抗酸化活性の高い抽出液が得られました。溶媒が多い条件(30対1)では、原料1グラムあたりの回収量は増えたものの、抽出液は薄まりました。研究チームは、抽出液をそのまま使う場合には、回収量の多さが抗酸化活性の高さに直結しない点が重要だと指摘しています。

最適と判断された条件は、80℃、127分、溶媒と原料の比率10対1でした。この条件で得た抽出液は、総フェノール量が1ミリリットルあたり2.35ミリグラムGAE(乾燥した剪定枝1グラムあたり30.3ミリグラムGAE)でした。DPPH試験のEC50は1ミリリットルあたり162ミリグラムで、トランス-レスベラトロールとトランス-ε-ビニフェリンが含まれていることも確認されました。

細胞への影響は、3種類の培養細胞で調べられました。ヒトの皮膚の角化細胞、マウスの線維芽細胞、ヒトの大腸がん由来の細胞です。これらに抽出液を24時間与え、生きている細胞の割合を測定しました。

その結果、ソルビトールを使ったDESの抽出液は、高濃度で3種類すべての細胞の生存率が低くなりました。選ばれたエチレングリコール系の抽出液と比べ、細胞が耐えにくい傾向が見られました。また、最適化によってフェノール化合物の濃度が上がった抽出液では、細胞の種類や濃度によって細胞への毒性が強まったと報告されています。

研究が示すこと

この研究は、ベタインを使ったDESで、ブドウの剪定枝から抗酸化活性を持つフェノール化合物を取り出せることを示しました。さらに、組み合わせる成分と水の量によって抽出の結果が大きく変わることも明らかにしています。

ただし、著者らは結果の受け止め方に慎重です。選ばれた配合に含まれるエチレングリコールは、飲み込んだ場合に毒性が高いことが知られています。安全性の観点では、より無難な成分でつくった配合も示されていますが、そちらは抽出量や抗酸化活性が低めでした。

また、培養細胞での試験は全身への安全性を示すものではありません。そのため著者らは、今回の結果を安全性に関する予備的な手がかりと位置づけています。農業の残りものから付加価値のある成分を取り出す方法として、溶媒の選び方と安全性の両方を考える必要があることを示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Camila C. Muñoz-Realpe(Department of Chemical, Environmental and Materials Engineering, Universidad de Jaén, 23071 Jaén, Spain; Institute of Biorefineries Research (I3B), Universidad de Jaén, 23071 Jaén, Spain)、Carolina Costa(LAQV, REQUIMTE, Departamento de Química da Faculdade de Ciências e Tecnologia, Universidade Nova de Lisboa, 2829-516 Caparica, Portugal)、Ana Rita Jesus(LAQV, REQUIMTE, Departamento de Química da Faculdade de Ciências e Tecnologia, Universidade Nova de Lisboa, 2829-516 Caparica, Portugal)、María del Mar Contreras(Department of Chemical, Environmental and Materials Engineering, Universidad de Jaén, 23071 Jaén, Spain; Institute of Biorefineries Research (I3B), Universidad de Jaén, 23071 Jaén, Spain)、Inmaculada Romero(Department of Chemical, Environmental and Materials Engineering, Universidad de Jaén, 23071 Jaén, Spain; Institute of Biorefineries Research (I3B), Universidad de Jaén, 23071 Jaén, Spain)、Eulogio Castro(Department of Chemical, Environmental and Materials Engineering, Universidad de Jaén, 23071 Jaén, Spain; Institute of Biorefineries Research (I3B), Universidad de Jaén, 23071 Jaén, Spain)、Ana Rita C. Duarte(LAQV, REQUIMTE, Departamento de Química da Faculdade de Ciências e Tecnologia, Universidade Nova de Lisboa, 2829-516 Caparica, Portugal)、Alexandre Paiva(LAQV, REQUIMTE, Departamento de Química da Faculdade de Ciências e Tecnologia, Universidade Nova de Lisboa, 2829-516 Caparica, Portugal)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Camila C. Muñoz-Realpe, Carolina Costa, Ana Rita Jesus, et al. Betaine-Based Deep Eutectic Solvents for Phenolic Compounds Extraction from Vine Shoots: Screening, Optimisation, and Cytotoxicity Assessment. Foods 2026-10-18. DOI: 10.3390/foods15203708. 原著ライセンス:CC BY.