著者の所属・活動拠点の国は、スウェーデン、イランです。
掲載誌:LWT
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられてきたカニの胴体を素材に
ヨーロッパで重要な水産資源であるブラウンクラブ(ヨーロッパイチョウガニ)は、年間およそ4万〜6万トンが水揚げされています。近年は爪の部分が好んで食べられる一方、爪を取ったあとの胴体は、元の重さの最大9割を占めるにもかかわらず多くが捨てられています。胴体には筋肉や中腸腺(いわゆるカニみそにあたる器官)が残っており、たんぱく質や長鎖n-3脂肪酸、ミネラルなどを含みます。
特に冬は、カニの摂餌や代謝が落ちて甲羅の中に身がほとんど入っていない「身の少ないカニ」が多くなり、海上で大量に捨てられる原因になっています。ただし硬い殻が邪魔をして、残った身を取り出すのは技術的に難しいのが現状です。研究チームは、こうした爪のない身の少ないカニから、食品素材として使えるたんぱく質を回収する方法を比較しました。
二つの回収方法と下処理の組み合わせを調べる
比較したのは二つの方法です。一つは「機械分離」で、ベルトと細かい穴の開いた回転ドラムの間で原料を押しつぶし、柔らかい身を穴から押し出して殻と分ける、安価で簡便な方法です。もう一つは「pHシフト法」で、強いアルカリ性の水でたんぱく質を溶かし出して殻などの溶けないものを遠心分離で除き、その後pHを下げてたんぱく質を沈殿させて集める、より選択性の高い方法です。
研究チームはスウェーデン西海岸で獲れた身の少ないカニを用い、生のままか蒸し加熱したか、甲羅と内臓をあらかじめ取り除いたか否かという下処理の違いも組み合わせました。そのうえで、得られる量(回収率)、成分組成、たんぱく質の分解の程度、そしてかまぼこのような製品づくりで重要な「ゲルを作る力」や保水性を調べました。
量の機械分離、質のpHシフト法
機械分離では、加熱したカニから元のカニの重さに対して57〜60%という最も高い回収率が得られました。しかし、得られたすり身はたんぱく質の機能性が最も低い結果でした。また、殻の細かな破片が混じりやすく、灰分(主に殻由来のミネラル)はpHシフト法の素材より高めでした。
一方pHシフト法は、回収率は生のカニの機械分離に比べておよそ半分にとどまりましたが、殻をよく除けるため、素材中のたんぱく質の割合は湿重量あたり10〜14%と、機械分離の8〜9%を上回りました。ただし、加熱したカニではたんぱく質が熱で変性してほとんど溶けなくなるため、この方法は生のカニにしか使えませんでした。
下処理の影響も大きいことが分かりました。加熱によるたんぱく質の変性と、甲羅や内臓を取り除かなかったカニで起きたたんぱく質の分解(内臓由来の酵素によるとみられる)が、どちらの方法でもゲルを作る力を大きく損ないました。生のカニから甲羅と内臓を除いてpHシフト法で作った素材は、機械分離の素材と比べてゲルの強さを示す値が約3倍(164 g対54 g)で、保水性もはっきり優れていました。
目的に合わせた方法選びが鍵
著者らは、爪を取った身の少ないカニをたんぱく質素材に変えることは、カニ漁業で失われている資源を減らす現実的な方法になりうると結論づけています。同時に、大量に回収したいのか、ゲルを作る力の高い素材がほしいのかによって、加熱や内臓除去といった下処理と回収方法の組み合わせを選ぶ必要があることを示しました。
原著論文の著者・所属:Mehdi Abdollahi(Department of Life Sciences – Food and Nutrition Science, Chalmers University of Technology, SE 412 96 Gothenburg, Sweden)、Samaneh Pezeshk(Department of Marin Biology–Marin Biotechnology, Faculty of Marine Sciences, Tarbiat Modares University, P.O. Box 46414-356, Noor, Iran)、Ingrid Undeland(Department of Life Sciences – Food and Nutrition Science, Chalmers University of Technology, SE 412 96 Gothenburg, Sweden)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mehdi Abdollahi, Samaneh Pezeshk, Ingrid Undeland. Functional properties of protein-rich ingredients recovered from brown crab side streams via mechanical separation vs pH-shift processing. LWT 2026-08-28. DOI: 10.1016/j.lwt.2026.119879. 原著ライセンス:CC BY.