著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:牛乳中の微量PFASを確実に測るために
PFAS(有機フッ素化合物)は、炭素の鎖がフッ素で覆われた化学物質の総称です。水や油をはじき、熱にも強いため、食品包装、コーティング、難燃剤などに広く使われてきました。論文によると、経済協力開発機構(OECD)の定義では、炭素鎖が一定以上長いものを「長鎖PFAS」と呼び、鎖が長いほど生物の体内にたまりやすく、食物連鎖を通じて濃縮されやすい性質があるとされています。
牛乳や乳製品は日常的な食品で、ドイツ、ポーランド、中国、米国、イタリアなど各国の牛乳からPFASが検出されています。著者らは、PFASが腸から吸収されやすく、食品を通じて体内に蓄積しうることから、牛乳中の微量PFASを高感度に測る方法が必要だと述べています。
一方で、測定には難しさがあります。PFASは種類によって性質が大きく異なり、牛乳には測定を妨げうる成分が多く含まれ、しかも対象物質はごく微量です。従来の前処理法では、遠心分離やろ過、濃縮などの工程が多く、時間がかかったり、測りたい物質が失われたりすることがありました。そこで研究チームは、磁石で回収できる吸着材を使う「磁性固相抽出」という方法に着目しました。
何を調べたか:磁性ナノ粒子で長鎖PFASを集める
研究チームが用いたのは、酸化鉄(Fe3O4)の磁性ナノ粒子の表面を、PSAと呼ばれるアミノ基を持つ化合物で修飾した吸着材です。この材料は著者らが以前に作製し、農薬残留分析の前処理に使っていたものですが、牛乳中の長鎖PFASの抽出に使えるかどうかは体系的に調べられていませんでした。
予備的な比較では、炭素鎖の短いPFASに対してはこの吸着材の抽出性能が限られ、測定機器での感度が低いものもありました。そのため本研究では、長鎖PFAS11種類に対象を絞りました。対象には、欧州で優先的に監視すべきとされるPFOA、PFNA、PFHxS、PFOSの4種類が含まれています。
方法の流れは、牛乳から有機溶媒でPFASを抽出し、残った脂肪やたんぱく質を冷凍によって取り除いた後、吸着材を加えてPFASを吸着させ、外から磁石を当てて吸着材を回収し、溶媒でPFASを洗い出すというものです。最後に、液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせた装置(LC-MS/MS)で各物質を定量します。研究チームは、溶液のpH、吸着材の量、吸着時間、洗い出しに使う溶媒の種類と時間を体系的に検討し、最適な条件を決めました。最終的な手順では、牛乳2グラムに対して吸着材20ミリグラムを使い、10分間かき混ぜて吸着させ、洗い出しは0.5分としています。
主な結果:感度、正確さ、吸着の仕組み
吸着の性質を調べたところ、PFHxSを除く10種類で高い吸着量が得られました。炭素鎖が長く水をはじく性質が強いほど吸着量が増え、同じ鎖の長さでは、スルホン酸型のPFASがカルボン酸型より吸着されやすい傾向がありました。表面の分析などの結果から、著者らは、プラスの電荷を帯びたアミノ基とマイナスの電荷を持つPFASとの電気的な引き合い、フッ素化された鎖が関わる疎水的な相互作用、窒素を含む部分との水素結合が吸着に関わっていると考えられるとしています。また、調べた温度範囲では、吸着は熱力学的に進みやすく、熱を出す過程であったと報告しています。
分析法としての性能については、検出できる最低濃度(検出下限)が牛乳1キログラムあたり0.008〜0.062マイクログラム、信頼して数値を出せる最低濃度(定量下限)が0.026〜0.206マイクログラムでした。定量下限は、欧州委員会がPFOAとPFOSについて推奨する1キログラムあたり1マイクログラムを下回っています。既知量のPFASを牛乳に加えて回収できた割合は79.4〜118%で、牛乳の成分による測定への影響も限られていたとされています。
従来の固相抽出法と比べると、従来法では吸着材500ミリグラムと洗い出し溶媒10ミリリットルが必要だったのに対し、本法は吸着材20ミリグラム、溶媒2ミリリットルで済み、工程も簡単です。ただし著者らは、他の報告法の中には同程度か、より低い検出下限を持つものもあると述べ、本法の主な利点は操作の簡便さ、吸着材の少なさ、磁石による素早い分離にあるとしています。
市販の牛乳への適用と、この研究が示すこと
研究チームは、全乳、低脂肪乳、脱脂乳、フレッシュミルク(原著の表記はfresh milk)といった種類やブランドの異なる市販牛乳30検体にこの方法を適用しました。その結果、全乳とフレッシュミルクの14検体から5種類の長鎖PFASが検出され、なかでもPFOAが最も高い濃度(1キログラムあたり0.037〜0.262マイクログラム)で、最も多く検出されました。著者らは、規制値は食品の種類や制度によって異なるため、今回の測定値をそのまま規制違反と解釈することはできないとしつつ、乳製品の監視を続ける必要性を指摘しています。
この研究は、もともと農薬分析の前処理に使われていた磁性吸着材が、牛乳という複雑な食品から微量の長鎖PFASを取り出す手段としても使えることを示しました。少ない吸着材と簡単な手順で、市販牛乳中の微量の長鎖PFASを測定できたことが、本研究の主な成果です。
原著論文の著者・所属:Tiantian Niu(College of Chemical Engineering, Zhejiang University of Technology, Hangzhou 310014, China; State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Products & Institute of Agro-Product Safety and Nutrition, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hangzhou 310021, China)、Nannan Wu(State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Products & Institute of Agro-Product Safety and Nutrition, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hangzhou 310021, China)、Ranran Shi(State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Products & Institute of Agro-Product Safety and Nutrition, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hangzhou 310021, China)、Zhenzhen Liu(State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Products & Institute of Agro-Product Safety and Nutrition, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hangzhou 310021, China)、Siying Che(College of Chemical Engineering, Zhejiang University of Technology, Hangzhou 310014, China)、Xinquan Wang(State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Products & Institute of Agro-Product Safety and Nutrition, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hangzhou 310021, China)、Peipei Qi(State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Products & Institute of Agro-Product Safety and Nutrition, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hangzhou 310021, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tiantian Niu, Nannan Wu, Ranran Shi, et al. Sensitive and Rapid Determination of Long-Chain Per- and Polyfluoroalkyl Substances in Milk Using Fe3O4-PSA-Based Magnetic Solid-Phase Extraction Coupled with LC-MS/MS. Foods 2026-10-12. DOI: 10.3390/foods15203622. 原著ライセンス:CC BY.