この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
調べようとしたこと
ハチミツ、花粉(ビーポーレン)、プロポリス、ローヤルゼリー、ビーブレッド(ペルガ)といった蜂産品は、古くから食用や伝統的な用途で使われてきました。研究チームによれば、これらに含まれる成分やはたらきは、ミツバチが集めた植物の種類や地域の気候、加工・保存の条件によって変わることが知られています。
トルコ南部の地中海沿岸にあるメルシン県は、その土地固有の植物が多い多様な植生と、養蜂に適した気候を併せ持つ地域です。著者らは、こうした特徴を持つメルシン産の蜂産品について、含まれる化学成分、抗酸化のはたらき、酵素を抑えるはたらき、そしてハチミツの品質指標をまとめて調べた研究はこれまでなかったとして、本研究を行ったと述べています。
調べ方
研究チームは、メルシン養蜂業者協会に所属する地元の養蜂家から、5種類の蜂産品を直接入手しました。ハチミツ、花粉、ビーブレッド、プロポリスはいずれも複数の植物に由来する「多花性」のもので、熱に弱いローヤルゼリーは低温を保ったまま運ばれました。それぞれ性質が異なるため、抽出の方法も産品ごとに変えています。
成分の同定にはLC-MS/MSという装置を用い、53種類の化学成分(フェノール酸やフラボノイドなど、植物由来の成分)を量まで含めて調べました。抗酸化のはたらきについては、性質の異なる6種類の試験法を組み合わせています。また、記憶や神経の伝達に関わるアセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼ、体内の酸とアルカリのバランスなどに関わる炭酸脱水酵素のI型・II型、糖の消化に関わるα-グリコシダーゼとα-アミラーゼという計6種類の酵素について、そのはたらきをどれだけ抑えるかを測定しました。さらにハチミツについては、加熱の履歴を示すHMF、糖の組成、プロリン、ジアスターゼ活性、水分、電気伝導度、遊離酸度、ナフタレン残留といった品質に関わる項目も分析されています。
報告された主な結果
成分の内訳は産品ごとに大きく異なっていた、と著者らは報告しています。もっとも成分が豊富だったのはプロポリスで、アカセチン(抽出物1gあたり59.381mg)のほか、ナリンゲニン、クリシン、フェルラ酸、アピゲニン、ケンフェロールなどが比較的高い濃度で検出されました。ハチミツではサリチル酸(同43.132mg)が際立って多く、ローヤルゼリーではキナ酸(同19.242mg)と4-ヒドロキシ安息香酸が主要な成分でした。花粉とビーブレッドは濃度こそ低めでしたが、ケルセチンやルテオリンなど多様な成分を含んでいました。なお著者らは、ある成分が含まれていること自体が対応する生物活性の直接的な証拠になるわけではなく、成分どうしの相互作用や濃度、全体の組成にも左右されると注意を促しています。
抗酸化のはたらきは、性質の異なる2系統の試験で調べられました。ひとつは活性の高い分子(ラジカル)を打ち消す力をみる3種類の試験で、結果はIC50値、つまり「はたらきを半分に抑えるのに必要な濃度」で表されます。この値は小さいほど強い作用を意味し、プロポリスは3試験すべてでもっとも低いIC50値を示しました。もうひとつは相手に電子を渡す力(還元力)をみる3種類の試験で、こちらは吸光度が高いほど強いことを表し、プロポリスが3試験すべてでもっとも高い値を示しました。指標の向きは逆ですが、いずれの系統でもプロポリスがもっとも強い抗酸化応答を示したことになります。総フェノール含量(76.471mg GAE/g)と総フラボノイド含量(15.529mg QE/g)もプロポリスが最大でした。ただし研究チームは、産品ごとに抽出方法が異なるため、これらの数値をそのまま各産品の本来の抗酸化能力の優劣として比較すべきではないと繰り返し述べています。
酵素を抑えるはたらきでは、傾向が変わります。ローヤルゼリーが6種類すべての酵素に対してもっとも強い阻害(もっとも低いIC50値)を示し、たとえば炭酸脱水酵素I型とブチリルコリンエステラーゼではIC50値がいずれも1.10μg/mLで、比較対象とした既存の阻害剤(アセタゾラミド、タクリン)の値を下回ったと報告されています。
ハチミツの品質面では、プロリンが505.00mg/kg、ジアスターゼ活性が25.6と、トルコ食品コーデックスの下限(それぞれ300mg/kg、8)を上回り、HMFとナフタレンはいずれも検出されませんでした。水分15.4%、電気伝導度0.2195mS/cm、遊離酸度32.67meq/kgも基準の範囲内でした。糖組成は果糖41.04%、ブドウ糖28.37%が中心で、ショ糖は検出されていません。全体として、同規格の要件をおおむね満たす良質なハチミツと特徴づけられる、というのが著者らの評価です。
この研究が示すこと
同じ地域の同じ養蜂で得られた産品であっても、種類が違えば含まれる成分も生物活性の現れ方もかなり異なる——本研究が具体的な数値とともに示したのは、この点です。抗酸化ではプロポリスが、酵素阻害ではローヤルゼリーが目立ったという結果は、蜂産品を一括りに扱うのではなく、それぞれの特性に即して捉える必要があることを示唆します。
同時に著者らは、産品ごとに抽出手順が異なること、植物由来を特定するにはより広い範囲の採取と植生の調査が必要であることを、解釈上の制約として明記しています。メルシン産の蜂産品について化学成分・抗酸化性・酵素阻害・品質指標をまとめて評価した最初の報告として、今後の検討の出発点となる基礎的なデータを提供するものと位置づけられています。
著者:Ebubekir İzol(Bee and Natural Products R&D and P&D Application and Research Center, Bingol University, 12000 Bingöl, Türkiye)、Mustafa Abdullah Yılmaz(Department of Pharmaceutical Chemistry, Faculty of Pharmacy, Dicle University, 21280 Diyarbakır, Türkiye)、İlhami Gülçın(Ağrı İbrahim Çeçen University, 04100 Ağrı, Türkiye)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ebubekir İzol, Mustafa Abdullah Yılmaz, İlhami Gülçın. In-Depth Biological Activities, Chemical Profiling by LC-MS/MS of Mersin, Türkiye Bee Products (Pollen, Honey, Propolis, Royal Jelly and Bee Bread). Molecules 2026-09-14. DOI: 10.3390/molecules31183246. 原著ライセンス:CC BY.