掲載誌:BrewingScience

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ビールを造る工程では、麦芽から糖分などを溶かし出した後に「麦芽かす(ブルワーズ・スペント・グレイン、BSG)」と呼ばれる固形の残りが出ます。著者らによると、BSGはビール産業の主要な副産物で、入手しやすく、たんぱく質を15〜30%含みます。

著者らは、食料不安や食品廃棄、環境負荷の大きい畜産に代わるたんぱく源への関心の高まりを背景に、このBSGたんぱく質を食品素材として活用できるかを検討しました。これまでの総説は主に抽出方法と機能の関係に焦点を当てていたとして、本論文では、食品の中でどうふるまうか、体内でどのような生理的な働きが報告されているか、消化や安全性、食品への応用までを幅広く整理しています。BSGそのもののデータが乏しい部分では、他の穀物や豆類の知見も参照し、まだ分かっていない点を示すことも目的としています。

食品素材としての性質

BSGは水分が多く傷みやすいため、使う前に安定化させる必要があります。著者らは、凍結乾燥のほうが熱に弱い栄養素や風味を保ちやすい一方で、オーブン乾燥は費用が安く工業規模に広げやすいため、現時点では大規模利用に最も現実的な方法だと整理しています。

BSGに残るたんぱく質は、水に溶けやすい成分が仕込み工程で抜け出た後の、水に溶けにくいものが中心です。そのため、食品で扱われるpH2〜9の範囲ではあまり溶けません。紹介された研究では、pH10のアルカリ条件が溶かし出すのに最も効果的でした。また、酵素ペプシンでたんぱく質を部分的に分解すると、分解の程度が6%の段階で、pH2〜10の範囲で90%を超える溶解性が得られたと報告されています。ただし、分解しすぎると泡立ちや乳化の働きが落ち、分解が足りないと苦味やにおいが残るという兼ね合いがあると著者らは指摘しています。

熱への強さについては、酵素で分解したBSGたんぱく質を140℃の油浴で加熱した実験が紹介されています。pH6で、凝固し始めるまでの時間が約40秒から300分を超えるまでに延びたという報告です。

水と油を混ぜた状態を保つ「乳化性」や泡立ちについては、カビの一種を使った固体発酵によって改善した例が挙げられています。泡立ちの研究では、発酵させたたんぱく質の泡立ちやすさが16〜30%で、発酵させないもの(7〜14%)より高く、pHが高いほど泡が安定したと報告されています。

さらに、たんぱく質が水や油を抱え込む力については、BSGたんぱく質の値(水で1グラムあたり3.2〜5グラム、油で3.2〜5.1グラム)が、エンドウ豆、大豆、小麦、オーツ麦などの植物性たんぱく質濃縮物について報告された値より高かったとされています。こうした性質は、ソーセージやカスタード、マヨネーズのような食品の食感や口当たりに関わるとされます。

報告されている生理的な働き

著者らは、BSGたんぱく質を酵素や発酵で分解したときにできる短いたんぱく質の断片(ペプチド)に注目し、これまでの研究で報告された働きをまとめています。

抗酸化作用では、酵素で分解したBSGたんぱく質が試験管内で抗酸化活性を高めた例があります。ある研究では、抗酸化力の指標となる試験でラジカルを90%以上抑えたと報告されています。

血圧に関わる作用では、血管を収縮させる物質を作る酵素(ACE)の働きを抑える効果が調べられています。酵素アルカラーゼで分解したBSGたんぱく質は、ACEの働きを平均84.6%抑え、消化を模した処理の後でもその活性が高いまま保たれたと報告されています。高血圧を起こさせたラットにBSGたんぱく質の分解物を100日間与えた研究では、血圧が有意に下がったとされています。

抗菌作用では、酵素フレーバーザイムで分解したBSGたんぱく質が、食中毒の原因菌として知られる黄色ブドウ球菌に対して強い抗菌活性を示した例が紹介されています。

一方で著者らは、これらの多くが試験管内の実験やコンピューターによる予測、限られた動物実験に基づいており、人で同じ効果が得られるかは十分に反映されていない可能性があると強調しています。抽出や分解の方法が研究ごとに異なるため結果を比べにくいこと、どのペプチドが効果を担っているのかを特定する必要があることも課題として挙げています。

この総説が示すこと

この総説は、ビール製造で生じる麦芽かすのたんぱく質について、溶けやすさ、熱への強さ、泡立ち、保水性といった食品素材としての性質と、生理的な働きに関する報告を一つにまとめたものです。加工の工夫によって性質を大きく変えられる可能性が示される一方で、風味や費用との兼ね合いや、実験室規模の知見が多いことなど、実際の食品に使うまでに埋めるべき知識の空白もはっきりと示されています。

原著論文の著者・所属:Zhang, Jiao(SETU Carlow)、Herrero, Ana Esmeralda(SETU Carlow)、Perez-Gavilan, Ariane(SETU Carlow)、Cunha Neves, Adriana(SETU Carlow)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhang, Jiao, Herrero, Ana Esmeralda, Perez-Gavilan, Ariane, et al. Brewers’ spent grain protein: A promising functional ingredient for innovative food applications. BrewingScience 2026-08-31. DOI: 10.23763/brsc26-08zhang. 原著ライセンス:CC BY.