この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Food Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

捨てられていた副産物を食品に活かす

ビールを造る過程では、麦芽を糖化させた後に固形分が残ります。これが「スペントグレイン(spent grain、麦芽粕)」で、大麦の外皮や果皮、種皮などからなります。研究チームによれば、ビール製造で出る残渣の85%を占め、ビール100リットルあたり約20キログラムが生じます。世界のビール生産量は2024年に推定1780億リットルとされ、発生量は膨大です。およそ3分の1は家畜の飼料に回りますが、水分が多く遠方に運びにくいため、残りの多くは埋め立て処分され温室効果ガスの排出につながっていると論文は述べています。

一方でスペントグレインはたんぱく質と食物繊維に富み、ミネラルやB群ビタミン、必須アミノ酸なども含みます。原著の引用によれば、たんぱく質は19〜30%、繊維は30〜50%と幅がありますが、栄養面での価値が期待できる素材です。そこで著者らは、世界中で食べられている麺、とくに黄色いかん水麺(中華麺)への利用可能性を調べました。

どのように調べたか

研究チームは、製麦・糖化の工程を実験室規模で再現してスペントグレインをつくりました。大麦を発芽させて麦芽にし、糖化した後の固形分を絞って100℃の熱風で水分約5%まで乾かし、粉砕して210マイクロメートル未満の細かい粉にしています。この粉を小麦粉(太平洋岸北西部で栽培される硬質赤色冬小麦の品種Keldin)に5%、15%、25%の割合で混ぜ、まったく加えない対照と比べました。

小麦粉と混合粉については、たんぱく質、灰分(ミネラル量の目安)、そして食物繊維にあたる二種類の成分——アラビノキシランとβ-グルカン——の量を測定しました。いずれも穀物に多い非でんぷん性の多糖類で、原著では、これらの摂取が食後の血糖上昇を抑えたり血中コレステロールを下げたりすることと関連づけて先行研究が引用されています。

麺は食塩と炭酸カリウム・炭酸ナトリウムを溶かした水で生地をつくり、厚さ1.4ミリに圧延して幅1.5ミリに切り出しました。ゆで時間、ゆでによる重量増加(吸水の指標)、ゆで汁に溶け出す量(ゆで損失)、かたさ、色を測定し、比較の目安として市販のそば(buckwheat)麺も同じ項目で測っています。そば麺を並べたのは、見た目の色や粒の混じり具合が似ているためで、原著はアジアでそばアレルギーの人が少なくない点にも触れています。

報告された主な結果

用いたスペントグレインのたんぱく質は19.7%で、小麦粉の12.5%を上回りました。灰分も小麦粉の0.44%に対し2.4%と高く、配合量を増やすほど混合粉のたんぱく質と灰分は増えました。25%配合の混合粉は対照より15%多いたんぱく質を含んだと報告されています。

食物繊維成分も同様で、スペントグレイン100グラムには小麦粉100グラムより約6グラム多いアラビノキシランが含まれ、β-グルカンは小麦粉の2.5倍でした。混合粉でも、生麺でも、ゆで麺でも、配合するとβ-グルカンは有意に増加し、少ない配合量でも市販そば麺より多くなりました。著者らの計算では、ゆでた25%配合麺を140グラム(米国の基準で一食分とされる量)食べると、アラビノキシランとβ-グルカンを合わせて5.7グラム摂れ、小麦粉だけの麺の2.5グラムを上回ります。これは成人の食物繊維の一日基準値28グラムの20.4%にあたるとされています。ただし、リグニンやセルロースなど他の食物繊維成分は測定されていません。

麺の性質にも違いが出ました。5%配合では対照や市販そば麺とゆで時間に差はありませんでしたが、配合量が増えるほど早くゆで上がり、25%配合では対照より平均2分10秒短くなりました。著者らは、スペントグレインにでんぷんがほとんど含まれないことを主な理由として挙げています。ゆで損失は配合量が多いほど少なく、麺のまとまりが保たれたことを示します。一方、ゆでたときの重量増加は配合量が増えるほど小さくなり、25%配合では109%でした(市販そば麺は159%)。原著は、100%を超えていれば良好な品質の目安とされる点を示しつつ、でんぷんの多い小麦粉が置き換わったことが影響した可能性を述べています。かたさは15%と25%の配合麺が試作品の中で最も高く、それでも市販そば麺より柔らかい範囲にとどまりました。

色については、スペントグレインの粉は小麦粉より明らかに暗く(明度L*が91.5に対し67.7)、配合した麺も暗く、赤みと黄みが強くなりました。この褐色は麦芽の焙燥や乾燥中の反応によるものと説明されています。なお、消費者が実際に色や味、食感を受け入れるかどうかは今回調べておらず、著者ら自身が研究の限界として挙げています。

この研究が示すこと

著者らは、埋め立てに回ることの多い醸造副産物を中華麺に配合しても、望ましい品質特性を保ったまま、アラビノキシランとβ-グルカンという形の食物繊維を増やせることを示しました。早くゆで上がり、ゆで汁への流出も少ないという点は、麺としての扱いやすさにもつながります。廃棄物の削減と食品の栄養強化という二つの課題を、同じ素材で結びつけて考えられることを具体的なデータで示した研究といえます。

著者:Gabriely M. Soncin Alfaro(School of Food Science Washington State University Pullman Washington USA)、Shaun J. Clare(Department of Crop and Soil Sciences Washington State University Pullman Washington USA)、Robert S. Brueggeman(Department of Crop and Soil Sciences Washington State University Pullman Washington USA)、Sean Finnie(School of Food Science Washington State University Pullman Washington USA)、Alecia M. Kiszonas(United States Department of Agriculture Agriculture Research Service, Western Wheat Quality Laboratory Pullman Washington USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gabriely M. Soncin Alfaro, Shaun J. Clare, Robert S. Brueggeman, et al. The Impact of Brewer's Spent Grain on Noodle Quality and Composition. Journal of Food Science 2026-08-31. DOI: 10.1111/1750-3841.71428. 原著ライセンス:CC BY.