この研究は、ブラジル、フランスの研究機関の研究論文です。

掲載誌:ACS Omega

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

口に入れるとだ液で素早く崩れて有効成分を放出する薄い膜は「口腔内崩壊フィルム(ODF)」と呼ばれ、飲み込みやすく体を傷つけない投与形態として注目されています。論文によれば、こうしたフィルムは厚さがおよそ10〜750マイクロメートルで、その性能は膜をつくる高分子の性質に強く左右されます。

著者らが着目したのは二種類の多糖です。一つはブラジルの気候に適した植物 Caesalpinia pulcherrima の種子から得られるガラクトマンナン。マンノースが連なった骨格に、ガラクトースが枝のように付いた中性の多糖で、水に溶けて非常に粘り気のある液をつくります。もう一つはデンプンで、ここでは一般的なトウモロコシデンプンと、あまり研究されていないクズウコン(アロールート)デンプンが比べられました。

論文は、同じガラクトマンナンを土台にしたときに、デンプンの由来と配合比がフィルムの構造と機能の関係をどう決めるのかは明らかでない、と問題を設定しています。そこで研究チームは、二種類のデンプンを異なる割合で組み合わせ、溶液の流れやすさから膜の力学的性質、崩壊の速さまでを系統的に比較しました。

何をどう調べたか

研究チームはまず、種子からガラクトマンナンを、根茎からクズウコンデンプンを自分たちで抽出し、水分・灰分・タンパク質・脂質といった組成や、核磁気共鳴(NMR)によるマンノースとガラクトースの比(M/G比)、アミロース含量、溶解度、分子の大きさ、熱に対する挙動を調べました。

次に、多糖の合計濃度を1%(水100mLあたり1g)にそろえ、ガラクトマンナン単独、デンプン単独、そして両者を75:25、50:50、25:75で混ぜた計9種類の配合を用意しました。可塑剤として多糖1gあたり0.4gのソルビトールを加え、アクリル板の上に流して40℃で乾かす方法でフィルムを作製しています。

できたフィルムについては、厚さ、水分、表面のpH、色と透明度、引張強さと伸び、水滴に対する接触角(表面のぬれやすさの指標)、水分の放出と吸収、赤外分光、電子顕微鏡による表面観察が行われました。崩壊時間は、フィルムに200マイクロリットルの水を載せ、水がしみ通って穴が開くまでの時間として測定されています。論文はこの試験について、口の中の状況をそのまま再現するものではなく、配合どうしを比べるためのスクリーニング的な方法だと明記しています。

主な報告結果

原料の性質では、クズウコンデンプンのアミロース含量が35.24±1.63%で、水への溶解度も48.98±0.62%とトウモロコシデンプンの15.66±0.47%より高いことが報告されました。ガラクトマンナンのM/G比は2.53対1で、ガラクトースの枝が比較的少ない骨格をもつことが示されています。示差走査熱量測定では、トウモロコシデンプンの吸熱ピークが68.4℃だったのに対しクズウコンデンプンは81.1℃と高く、秩序だった構造が崩れにくいことがうかがえました。熱分解が始まる温度はいずれも250〜350℃の範囲にあり、フィルム作製時の90℃では分解が起こらないと考えられると述べられています。

フィルムをつくる前の溶液では、ガラクトマンナンの割合が高いほど、力を加えると粘りが下がる「擬塑性」の挙動を示し、デンプンの割合が高くなると逆に粘りが増す「ダイラタント」の挙動に移りました。ガラクトマンナンは分子量が非常に大きく、溶液の粘りの高さと対応していたと報告されています。

できあがったフィルムはいずれも透明で気泡のない均一な外観でしたが、ガラクトマンナンとクズウコンデンプンを含むものは板から剥がしにくく、表面がやや粘つく傾向がありました。表面pHは6.2〜6.9で、口の粘膜のpH(およそ6.8)に近い配合もありました。崩壊時間はおおむね60秒前後でしたが配合による差が大きく、50GM:50ASでは21.67秒、75GM:25CSでは41.00秒と短い一方、25GM:75ASは134.67秒と長くなりました。著者らは、接触角が小さい(ぬれやすい)フィルムほど崩壊が速い傾向があるとしつつ、同程度の接触角でも崩壊時間が大きく異なる例を挙げ、表面のぬれやすさだけでなく内部の網目構造の詰まり具合も関わると説明しています。

力学的性質では、引張強さは8.45〜16.19MPaの範囲にあり、最も高かったのはガラクトマンナン単独のフィルムでした。破断時の伸びはおよそ7.31%から38.51%と配合によって大きく変わり、トウモロコシデンプンを含むものほどよく伸び、クズウコンデンプンの割合が高いものは伸びにくく硬い性質を示しました。

この研究が示すこと

同じガラクトマンナンを土台にしても、組み合わせるデンプンの由来と割合を変えるだけで、溶液の流れやすさ、フィルムの透明さ、しなやかさ、水とのなじみ方、そして崩れる速さが揃って変化する――この研究が描き出したのは、そうした素材の構造と機能の結びつきです。

著者らは、崩壊時間が単純に配合比に比例するのではなく、表面のぬれやすさと内部構造の両方が絡み合って決まることを示しました。素早く溶けるフィルムを設計するうえで、原料の分子構造とその組み合わせ方をていねいに見ることの意味を伝える結果だといえます。

著者:Lorena M. F. Sampaio(Universidade Federal do Ceará , , Avenida Mister Hull, s/n, Campus Pici , , ,)、Matheus X. Oliveira(Universidade Federal do Ceará , , Avenida Mister Hull, s/n, Campus Pici , , ,)、Venícios G. Sombra(Universidade Federal do Ceará , , Avenida Mister Hull, s/n, Campus Pici , , ,)、Judith PA Feitosa(Universidade Federal do Ceará , , Avenida Mister Hull, s/n, Campus Pici , , ,)、Nayanne L. dos S. Ferreira(Universidade Federal do Ceará , , Avenida Mister Hull, s/n, Campus Pici , , ,)、Maria do S. R. Bastos(Embrapa Agroindústria Tropical , Rua Doutora Sara Mesquita, 2270, Planalto do Pici , , ,)、Sara J. Marciano(Universidade Federal do Ceará , , Avenida Mister Hull, s/n, Campus Pici , , ,)、Diego Lomonaco(Universidade Federal do Ceará , , Avenida Mister Hull, s/n, Campus Pici , , ,)、Amélia R. N. Lima(Universidade Federal do Ceará , , Avenida Mister Hull, s/n, Campus Pici , , ,)、Lara Mota Soares(Universidade Federal do Ceará , , Avenida Mister Hull, s/n, Campus Pici , , ,)、Crisiana de A. Nobre(Universidade Federal do Ceará , , Avenida Mister Hull, s/n, Campus Pici , , ,)、Kaliana S. Eça(Universidade Federal do Ceará , , Avenida Mister Hull, s/n, Campus Pici , , ,)、Thomas Karbowiak(Université Bourgogne Europe , , 1 Esplanade Erasme , ,)、Luciana de Siqueira Oliveira(Universidade Federal do Ceará , , Avenida Mister Hull, s/n, Campus Pici , , ,)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lorena M. F. Sampaio, Matheus X. Oliveira, Venícios G. Sombra, et al. Structure–Function Relationships in Galactomannan Starch Films for Fast-Dissolving Applications: Effects on Physicochemical and Mechanical Properties. ACS Omega 2026-08-28. DOI: 10.1021/acsomega.6c04905. 原著ライセンス:CC BY.