著者の所属・活動拠点の国は、スペイン、イタリアです。
掲載誌:Polymer Bulletin
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
研究チームは、緑藻の一種であるUlva lactucaの全体を原料に、土壌中で崩壊する農業用フィルムを作り、その性質と植物の生育への影響を調べました。農業用の被覆フィルムは、土の乾燥や雑草の発生を抑えるために使われますが、広く利用されるポリエチレン製品は生分解されず、使用後の回収や処分が課題になります。
この研究が目指したのは、海藻から特定の多糖類だけを抽出するのではなく、多糖類やタンパク質などを含む原料全体を利用する方法です。研究チームは、土を覆う材料としての使いやすさと、土壌中での崩壊、生育への影響を併せて評価しました。
何を、どのように調べたか
研究チームは、乾燥した海藻を洗浄して粉末にし、穏やかなアルカリ処理を施しました。抽出・精製は行わず、得られた懸濁液に、材料を柔らかくするジグリセロールを10、20、30重量%加え、容器に流し込んで乾燥させました。さらに、選んだジグリセロール配合に天然ゴムラテックスを0、10、20、30重量%加え、強度や伸びやすさ、水への溶けやすさ、水蒸気の通しやすさなどを比較しました。
土壌への埋設試験と温室試験には、ジグリセロールと天然ゴムラテックスをそれぞれ20重量%含むフィルムを選びました。埋設試験では、土に埋めた後の質量と外観の変化を追いました。
温室試験では、イタリアンレッドチコリを、海藻由来フィルム、黒色ポリエチレンフィルム、被覆なしの3条件で30日間育てました。各条件は10鉢で、1鉢に1株を植え、フィルムは土の表面の約70%を覆いました。水不足にならないよう週2回、鉢底から十分に給水し、葉の面積、地上部の生重量と乾燥重量、光合成を担う仕組みの働きを示す葉緑素蛍光を測定しました。
主な報告結果
海藻を処理しただけのフィルムはもろく、曲がりや収縮が起きやすい状態でした。ジグリセロールを加えると、柔軟性と均一性、形状の安定性が改善しました。天然ゴムラテックスを増やすと、引っ張りに対する強さは低下する一方、破断するまでの伸びが大きくなりました。研究チームは、両添加剤をそれぞれ20重量%含む配合が、強さと柔軟性の最もよい釣り合いを示したと報告しています。
天然ゴムラテックスの添加は、水に溶けにくくする方向にも働きました。ただし、フィルムの水への溶解性はなお高く、研究チームは、長時間の灌水や土壌の高い水分状態によって劣化が早まる可能性を指摘しています。
選んだフィルムを土に埋めると、質量は7日後に約16%、15日後に62%、1か月後に65.18%減少しました。1か月の時点では薄くなりながらも、目に見える穴はなく、全体の形を保っていました。60日後には破れや断片化が確認されました。
温室試験では、海藻由来フィルムで育てたチコリの葉面積は、黒色ポリエチレンによる被覆より18%、被覆なしより16%大きくなりました。地上部の生重量も、それぞれ14%、32%大きく、乾燥重量にも同様の傾向が報告されました。一方、葉緑素蛍光で評価した光合成機能の指標には、3条件の間で統計的に有意な差はありませんでした。
この報告が示すこと
研究チームは、海藻から特定成分を取り出さなくても、全体を利用して農業用の被覆フィルムを作れることを示したと結論づけています。ただし、材料の機械的性能は従来のポリエチレン製品などに及ばず、水への弱さが使用できる期間を制限する可能性があります。今回の評価は管理された温室条件での概念実証であり、屋外の栽培条件での性能を確かめたものではありません。
生育がよくなった理由も特定されていません。海藻由来成分の放出や土壌の変化などは直接調べられておらず、フィルムに含まれるミネラルが植物に利用されたとは判断できません。また、埋設中の質量減少と崩壊は確認されましたが、分解の仕組みや各成分の寄与は未検討です。この報告は、海藻全体を使った材料が、土を覆う機能と土壌中で崩れていく性質を両立しうることを示すものです。
原著論文の著者・所属:Camilla Febo(Basque Center for Macromolecular Design and Engineering (POLYMAT), University of the Basque Country (UPV-EHU), Joxe Mari Korta Center, Av., Tolosa Avenue, 72, 20018, Donostia-San Sebastián, Spain; Faculty of Agricultural, Environmental and Food Sciences, Free University of Bolzano, Piazza Università 1, 39100, Bolzano, Italy; Faculty of Engineering, Free University of Bolzano, Via Bruno Buozzi 1, 39100, Bolzano, Italy; Smart Materials, Istituto Italiano Di Tecnologia, Via Morego, 30, 16163, Genoa, Italy)、Luisa Petti(Competence Centre for Plant Health, Piazza Università, 5, 39100, Bolzano, Italy; Faculty of Engineering, Free University of Bolzano, Via Bruno Buozzi 1, 39100, Bolzano, Italy)、Athanassia Athanassiou(Smart Materials, Istituto Italiano Di Tecnologia, Via Morego, 30, 16163, Genoa, Italy)、Paolo Lugli(Faculty of Engineering, Free University of Bolzano, Via Bruno Buozzi 1, 39100, Bolzano, Italy)、Danila Merino(Basque Center for Macromolecular Design and Engineering (POLYMAT), University of the Basque Country (UPV-EHU), Joxe Mari Korta Center, Av., Tolosa Avenue, 72, 20018, Donostia-San Sebastián, Spain; Basque Foundation for Science, 48009, Bilbao, Spain)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Camilla Febo, Luisa Petti, Athanassia Athanassiou, et al. Whole-biomass Ulva lactuca-derived soil-degradable mulch films for sustainable agriculture. Polymer Bulletin 2026-11-03. DOI: 10.1007/s00289-026-06751-5. 原著ライセンス:CC BY.