著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Archiv für Lebensmittelhygiene

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

スーパーで買った肉のパックは、時間が経つと水分やにおいが変わり、色も少しずつ変化していきます。肉は水分と栄養に富むため微生物が増えやすく、酸化による劣化も進みやすい食品です。これを防ぐ従来の方法には冷蔵・冷凍、超高圧処理や放射線照射といった非加熱処理、クエン酸やアスコルビン酸などの食品添加物がありますが、コストや設備、安全性の面で課題も指摘されています。そこで近年注目されているのが、植物由来の成分を練り込んだ「生分解性の機能性フィルム」で包む方法です。中国・浙江経貿職業技術学院の研究グループが、トウモロコシデンプンとキチン由来のキトサン、そしてミント抽出物を組み合わせた新しい包装フィルムを試作し、冷蔵羊肉の保存効果を調べた研究を報告しています。

どんなフィルムを作ったのか

研究チームはまず、トウモロコシデンプンを無水コハク酸で処理して「エステル化コーンスターチ(ECS)」を作りました。これを主成分(連続相)とし、そこに構造を支える役割としてキトサン(CS)、抗菌・抗酸化成分としてミント(学名 Mentha haplocalyx Briq.)の熱水抽出物(ME)を加え、可塑剤のD-ソルビトールとともに溶液を混ぜてガラスシャーレに流し込み、乾燥させるという「溶媒キャスト法」でフィルムを作製しました。ミントの葉は中国杭州の市場から、羊肉(Ovis aries)は現地の食肉加工会社から調達されたものです。厚さや水分含有量、膨潤率、透明度、引張強度などを比較した結果、ミント抽出物0.8g・ECS 2.0gを配合した組成が総合的に最も性能が良いとされ、以降の羊肉保存実験にはこの配合のフィルムが使われました。

構造解析でわかった「相性の良さ」

赤外分光(FTIR)やX線回折(XRD)、X線光電子分光(XPS)、走査型電子顕微鏡(SEM)といった手法でフィルムの内部構造を調べたところ、デンプン・キトサン・ミント抽出物の間に水素結合を中心とした分子間相互作用が形成され、三者がよく混ざり合った緻密な網目構造を作っていることが確認されました。SEM画像では直径およそ9.74±2.96マイクロメートルの粒状のECS粒子がキトサンの網目に埋め込まれている様子が観察されています。また、水滴を垂らして表面のなじみやすさを測る接触角の測定では102.8度という値が得られ、これは「疎水性(水をはじきやすい性質)」の目安とされる100度を超えるものでした。時間が経ってもこの値は大きく変化せず、水分を通しにくいバリア性を保っていたといいます。熱への強さを調べる熱重量分析(TGA)では、245.51〜344.74℃の範囲で急激な重量減少(主成分の熱分解によるもの)が見られ、実用上の加工・保存温度域では安定していることが示されました。

羊肉を包んで15日間観察

実際に、脂肪や結合組織を取り除いた羊肉の切り身(1個あたり約50g)を、フィルムで包んだグループと、何も包まない対照グループに分けて4℃で保存し、1・3・5・7・9・11・13・15日目に品質を調べました。腐敗の指標となる揮発性塩基窒素(TVB-N、中国の食品安全基準では100gあたり15mg未満が新鮮の目安)は、対照群では6.14から28.35mg/100gまで急上昇し9日目には基準値を超えましたが、フィルムで包んだ群は4.89から11.76mg/100gに留まり、15日間ずっと基準内に収まりました。脂質の酸化度を示すTBARS値も、13日目時点で対照群1.33mg/kgに対しフィルム群は0.53mg/kgと低く抑えられていました。また、生菌数(TVC、食肉の安全性の目安とされる7.00 log CFU/gが上限)は対照群が7日目にこの上限を超えたのに対し、フィルム群は15日目まで安全域に留まったとされています。研究チームはこれらの結果から、フィルムに包んだ羊肉の実用的な保存期間が従来の9日程度から15日まで延びたと述べています。pHの変化についても、フィルム群は対照群より上昇が緩やかだったことが報告されています。

土に埋めると1週間で8割が分解

環境への影響を確認するため、フィルムを庭の土に5cmの深さで埋め、1・3・5・7日後に取り出して重さの変化を調べる「土壌埋設試験」も行われました。その結果、7日間でおよそ80%の質量が失われ、土壌中の微生物や水分によって速やかに分解される性質が確認されています。

この研究の位置づけと限界

著者らは論文の中で、今回のフィルムは実験室レベルの少量調製であり、実際に商品として使うにはコストや製造効率を含めた量産技術への展開が今後必要になると述べています。また、保存効果を検証したのは4℃で保存した羊肉、15日間という条件に限られており、異なる肉の種類や保存温度でも同様の効果が得られるかは今後の研究課題として挙げられています。今回の実験結果は特定の条件下で得られたものであり、この技術がすぐに市販の食品包装として使えることを保証するものではない点には注意が必要です。

原著論文の著者・所属:Yonghua Bao(School of Food and Health, Zhejiang Institute of Economics and Trade, 310018 Hangzhou, Zhejiang, China)、Xiaohong Zhou(Food Inspection Center, Zhejiang Institute of Economics and Trade, 310018 Hangzhou, Zhejiang, China)、Sudan Ye(School of Food and Health, Zhejiang Institute of Economics and Trade, 310018 Hangzhou, Zhejiang, China)、Chunhui Fu(Food Inspection Center, Zhejiang Institute of Economics and Trade, 310018 Hangzhou, Zhejiang, China)、Jinfeng Zhang(School of Food and Health, Zhejiang Institute of Economics and Trade, 310018 Hangzhou, Zhejiang, China)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Yonghua Bao, Xiaohong Zhou, Sudan Ye, et al. Fabrication and Characterization of Esterified Corn Starch/Chitosan Composite Active Films Incorporated With Mint Extract for Mutton Preservation. アルヒーフ・フュア・レーベンスミッテルヒギエーネ (2026). DOI: 10.31083/jfsfq52383. 原著ライセンス: cc-by.