この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Brazilian Journal of Food Technology

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

捨てられてきた「豆腐ホエー」を飲み物に変えられるか

豆腐は豆乳を凝固させてつくられますが、その過程でチーズづくりの乳清(ホエー)に相当する液体が大量に生まれます。これが「豆腐ホエー」です。たんぱく質や炭水化物、ミネラルを含む栄養豊富な液体でありながら、多くは排水として処分されており、廃棄にともなう環境負荷が課題として指摘されてきました。

ブラジルの研究チームは、この副産物を捨てずに食品原料として活かす道を探りました。論文が掲げた目的は、豆腐ホエーを乳酸菌と酵母で発酵させた植物性飲料をつくり、その官能特性(味・香り・食感など、人が感じる特徴)を評価することです。あわせて、pHなどの理化学的性質と微生物の生存数を調べ、機能性飲料としての可能性を確かめています。

乳酸菌と酵母を組み合わせて発酵させ、98人が試飲

著者らは、乳酸菌の一種であるラクチプランチバチルス・プランタルムと、酵母のクルイベロミセス・マルキシアヌスを用いました。両者を別々に培養したうえで、それぞれ1ミリリットルあたり100万個の濃度で豆腐ホエーに加え、37度で48時間、一緒に発酵させる「共培養」という方法をとっています。共培養とは、複数の微生物を同じ環境で同時に働かせ、互いの作用を利用する手法です。発酵の前後で、pH、微生物の生菌数、そして高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による代謝産物の測定を行いました。

官能評価には5種類の試料が用意されました。発酵させた豆腐ホエーそのもの、それに濃縮リンゴ果汁8%を加えたもの、デメララ糖10%を加えたもの、さらに比較対象として、発酵させていない豆腐ホエーにリンゴ果汁または砂糖を加えたものです。18歳以上で食物アレルギーのない98人が参加し、各試料を9段階の尺度で好みの度合いを答えたうえ、外観・香り・味・食感・後味に関する17項目の用語から当てはまるものをすべて選ぶ「CATA法」で特徴を記述しました。

発酵は進んだが、受け入れられたのは「甘い」試料だった

発酵によってpHは5.92から3.95まで低下したと報告されています。乳酸菌は48時間後におよそ10億個/ミリリットル(9 log CFU/mL)、酵母は約1000万個/ミリリットル(7 log CFU/mL)まで増え、いずれも発酵中に生き残って増殖したことが確認されました。著者らは、この水準が一般にプロバイオティクスに求められる濃度の目安を満たすと述べています。糖はほぼ消費され、エタノール(アルコール)はどの試料からも検出されませんでした。論文は、乳酸菌がつくる酸性環境が酵母のアルコール発酵を抑えたためと説明しています。

一方、官能評価の結果は明確でした。最も高い評価を得たのはデメララ糖を加えた2つの試料で、発酵の有無にかかわらず好ましいと判断されています(発酵なし5.9、発酵あり5.6)。リンゴ果汁を加えた試料は中程度、何も加えない発酵豆腐ホエーが最も低い評価でした。CATA法の回答を分析すると、砂糖入りの試料は「甘い味」「甘い香り」「なめらかな食感」と結びつき、無添加の発酵試料は「白い色」「苦い」「酸っぱい」といった記述が目立ちました。好き嫌いへの影響を調べた解析でも、甘味・甘い香り・均一な色・なめらかな食感が評価を押し上げ、酸味・酸っぱい風味・苦味・ざらつきが評価を下げる要因として挙げられています。

なお著者らは、砂糖入り試料が最高評価だったとはいえ、その点数は9段階尺度の「やや好き」にとどまり、全体としての受容度は中程度であったと明記しています。また参加者の94.9%が豆腐をほとんど食べない層であったことも、評価に影響した可能性として触れられています。

この研究が示したこと

この研究は、廃棄されがちな豆腐ホエーが、乳酸菌と酵母の共培養によって微生物が良好に増える発酵基質になりうることを示しました。同時に、微生物学的にうまくいくことと、人がおいしいと感じることは別の問題だという点も浮かび上がっています。著者らの結論によれば、甘味の調整やなめらかな食感の確保、過度な酸味や苦味の抑制が、受け入れられる飲料をつくるうえでの鍵になります。

農産加工の副産物を新たな食品原料として捉え直す試みにおいて、官能評価が製品設計の方向を具体的に指し示した一例と言えます。

著者:Micaela Gomes de Jesus(Universidade Estadual do Rio Grande do Sul)、Mariana Fensterseifer Fabricio(Universidade Federal do Rio Grande do Sul)、Voltaire Sant’Anna(Universidade Estadual do Rio Grande do Sul)、Marco Antonio Zachia Ayub(Universidade Federal do Rio Grande do Sul)、Lilian Raquel Hickert(Universidade Estadual do Rio Grande do Sul)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Micaela Gomes de Jesus, Mariana Fensterseifer Fabricio, Voltaire Sant’Anna, et al. Sensory evaluation of a novel sustainable probiotic beverage based on tofu whey. Brazilian Journal of Food Technology 2026-09-01. DOI: 10.1590/1981-6723.0152026. 原著ライセンス:CC BY.