乳酸菌(LAB)は、発酵食品づくりに古くから使われてきた微生物です。食品の保存性や風味に関わるだけでなく、近年では腸内細菌のバランスを整えたり、免疫の働きを支えたりする可能性があるとして注目されています。一方で、乳酸菌やその代謝物を「抗酸化」や「抗菌」の目的で食品に応用する研究は、特に熱帯果実から分離された菌に関しては、まだ十分に進んでいないとされています。今回、ブラジルの研究グループが、同国の果実から乳酸菌を分離し、その安全性や抗酸化の可能性を調べた研究をブラジル微生物学誌に発表しました。

ブラジルの果実10種類から200株以上の菌を分離

研究チームは、カシューナッツ(Anacardium occidentale)、グアバ(Psidium guajava)、パイナップル(Ananas comosus)をサンパウロ市内の販売店で購入し、ブラックベリー(Morus属)、セレジャ・ド・リオグランデ(Eugenia involucrata、和名なし)、レモン(Citrus属)、ピタンガ(Eugenia uniflora)、マンゴー(Mangifera indica)はサンパウロ市南部・西部の地域で手作業により採取しました。これらの果実をすりつぶして培養したところ、バナナやタンジェリンも含む10種類の果実から、最終的に200株以上の菌が得られました。

まず、グラム陽性かつカタラーゼ陰性という乳酸菌に特徴的な性質を持つ60株以上が選ばれました。次に、溶血活性(赤血球を壊す性質)を示す菌30株が安全性の観点から除外されました。さらに、ゼラチン分解活性やタンパク質分解活性を持つ菌がないかも確認されましたが、該当する菌は見つかりませんでした。抗生物質への感受性・耐性も調べられ、3種類以上の異なる系統の抗菌薬に耐性を示した菌は除外されました。また、球状の菌についてはバンコマイシン耐性も個別に確認されています。これは、バンコマイシン耐性を持つ腸球菌(Enterococcus属)が院内感染などで公衆衛生上の懸念となることを踏まえた措置だと説明されています。

こうした絞り込みを経て60株が候補として残り、rep-PCR(GTG5プライマーを用いた菌株識別法)によって似た遺伝子パターンを持つ菌をグループ分けし、各グループの代表株について16SリボソームRNA遺伝子の部分配列を解析して菌種を同定しました。あわせて、病原性に関わる遺伝子(gelE、hyl、asa1、esp、cylA、efaA、aceなど)やバンコマイシン耐性遺伝子(vanA〜vanGなど)、生体アミンを作る酵素の遺伝子の有無も調べられています。最終的に、13株の乳酸菌が詳しい解析の対象として選ばれました。

菌ごとに異なる「抗酸化力」、EPS(菌体外多糖)にも着目

選ばれた菌株については、細胞表面の疎水性(水になじみにくい性質で、腸壁などへの付着しやすさに関わるとされる指標)が調べられ、Lactococcus lactis Ce15株とLactobacillus pasteurii G3株で高く、Limosilactobacillus reuteri Ce8株で最も低いという結果でした。

抗酸化力に関しては複数の指標で評価されています。DPPHという物質を使ったフリーラジカル消去活性は、Lmb. reuteri K1株で95.29%と最も高く、Lmb. reuteri Ce3株では61.14%と、同じ菌種でも株によって大きな差が見られました。鉄イオン(Fe2+)をつかまえるキレート活性は、どの株もおおむね45%前後と似た値でした。一方、ヒドロキシルラジカル消去活性は全体的に低く、Streptococcus thermophilus 32株の0.32%からLmb. reuteri K1株の8.12%までの幅にとどまりました。過酸化物(スーパーオキシド)ラジカル消去活性も低めで、最も高かったのはLevilactobacillus brevis 5株の8.52%でした。対照的に、脂質の酸化(過酸化)を抑える活性はどの株も高く、Lactiplantibacillus plantarum 3株の89%からLmb. reuteri Pi3株の97%までの範囲でした。研究チームは、これらの抗酸化に関する性質が菌種単位ではなく「株ごと」に異なる特徴であり、同じ菌種内でも個別の評価が必要だと述べています。

さらに、口の中を模した人工唾液環境での生存性を調べたところ、評価した株はいずれも高い生存能力を示し、Lmb. reuteri Pi9株、Lpb. plantarum Ce3株、Lmb. reuteri Ce8株では実験後にむしろ菌数が増加していました。胃から十二指腸への通過を模した実験(人工胃液・胆汁・十二指腸液を用いた簡易モデル)では、Lpb. plantarum G5株が生存できなかった一方、Lmb. reuteri G2株、K1株、Pi3株、Pi9株、Lpb. plantarum Ce3株、Lmb. reuteri Ce8株、L. lactis Ce15株、Lpb. plantarum 3株、Lv. brevis 5株、Strep. thermophilus 32株は高い生存性を示しました。ただし、この模擬消化管環境を通過させた後は、調べたすべての株で抗酸化活性が低下しており、消化管内の環境が菌の抗酸化に関わる成分の安定性や働きに影響を与える可能性が示されています。

また、グルコース・スクロース・ラクトース・フルクトースという異なる糖を炭素源として、菌が菌体外多糖(EPS)と呼ばれる粘性のある物質をつくれるかどうかも調べられました。EPSは抗酸化活性に関連する成分として着目されており、精製したEPS自体の抗酸化力を、それを産生した菌の抗酸化力と比較する評価も行われています。

この研究の位置づけ

今回の研究は、ブラジルの果実から分離した乳酸菌13株について、安全性の確認と抗酸化に関するいくつかの指標での評価を行ったものです。要旨では「これらの分離株はいずれも天然抗酸化物質としての応用可能性を示した」とまとめられていますが、本文中でも示されているとおり、抗酸化活性は菌株ごとにばらつきが大きく、また模擬消化管を通過させると活性が低下するなど、実際の食品や体内での働き方には未解明な部分が残ります。今回の実験は主に試験管内(in vitro)での評価であり、この一つの研究をもって特定の菌株の健康効果が確立されたわけではない点に留意が必要です。

まとめ

ブラジル産のブラックベリー、カシュー、セレジャ・ド・リオグランデ、グアバ、レモン、ピタンガといった果実から分離された乳酸菌13株について、安全性の各種評価と、DPPHラジカル消去活性や鉄キレート活性、脂質過酸化抑制活性などを中心とした抗酸化に関する性質が調べられました。研究チームは、これらの株がプロバイオティクスや天然の抗酸化素材としての応用が期待できる候補だとしていますが、抗酸化力は株ごとに差があり、消化管を模した環境では活性が低下することも報告されています。今後、より詳細な解析を経て実用化の可能性が検討されていくと考えられます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:熱帯果実から分離された乳酸菌が産生する生理活性代謝物の抗酸化特性(ブラジル微生物学誌・2026年08月)