著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:殻と身の分離と品質の両立
チュウゴクモクズガニ(いわゆる上海ガニ)は、中国で年間約89万トン生産される淡水養殖の重要な種です。著者らによると、流通はこれまで主に活ガニの販売に頼ってきましたが、生産量が増えるにつれ、売り切れずに傷んでしまうカニが多く出て経済的損失につながっています。冷凍や塩漬けといった一次加工も広く行われていますが、製品が単調で付加価値が低いことが課題とされています。そこで、殻から身を取り出した「むき身」に加工すれば、製品の幅を広げられると期待されています。
ただし、生のカニの身は殻に強く付着しているため、そのままむくと効率が悪く、身の損失も生じます。従来はカニを丸ごと蒸したりゆでたりして殻を外しやすくしてきましたが、加熱しすぎると身の品質が落ちるおそれがあります。研究チームは、脚やはさみは殻と身の境目が蒸気に直接触れるため、胴体より早く殻をむきやすい状態になる点に注目しました。部位ごとに分け、それぞれ短時間だけ蒸す「部位別のマイルドな蒸し処理」が、品質をどこまで保てるかを調べることが本研究の目的です。
何を比べたのか
研究チームは、加熱しない生の身を基準として、二つの加熱方法を比べました。一つは、カニを丸ごと約101℃で20分間蒸す従来法です。もう一つは、カニを脚・はさみ・胴体に分け、同じ温度でそれぞれ20秒、20秒、60秒だけ蒸す方法です。この蒸し時間は、研究チームの以前の研究で、各部位の身の回収量が最も多くなった条件に基づいています。蒸した直後の中心温度は、従来法では約88℃に達したのに対し、部位別の短時間蒸しでは約48〜55℃にとどまりました。
いずれの方法でも、取り出した身を混ぜ合わせてから分析しました。調べた項目は、酸性・アルカリ性の度合いを示すpH、鮮度の指標として使われる揮発性塩基窒素(傷みや分解に伴って増える窒素化合物の量)、水分量、遠心分離したときに失われる水分の割合(保水性の目安)などです。さらに、においを機械で評価する電子鼻と、味を機械で評価する電子舌を用いて風味を比べました。また、筋肉の構造を支える主要なタンパク質群である筋原線維タンパク質について、抽出できる量や性質、凝集の程度、立体構造の変化を複数の手法で調べています。
主な結果:生の身に近い品質を保った短時間蒸し
方法の説明の中で報告された作業結果では、カニ全体の重さに対する身の回収率は、生のまま手でむいた場合が約11%だったのに対し、部位別の短時間蒸しでは約22%、従来法では約19%でした。殻と身の分離にかかった時間は、生の場合の約32分に比べ、短時間蒸しで約21分、従来法で約18分でした。
品質面では、pHは生の身が6.08、短時間蒸しが6.51だったのに対し、従来法では8.49へと大きく上がりました。揮発性塩基窒素は、短時間蒸しでは生の身と統計的に有意な差がなかった一方、従来法では明らかに増加しました。水分量は生の身の約83.0%に対し、短時間蒸しで約82.1%、従来法で約81.5%でした。遠心分離で失われる水分の割合は、短時間蒸しでは生の身と有意差がなく、従来法では約36%と高くなりました。著者らは、短時間蒸しのほうが保水性が良く、より柔らかくジューシーな食感につながる可能性があると考察しています。
風味の分析でも、短時間蒸しの身は電子鼻・電子舌のどちらでも生の身に近い特徴を示し、従来法の身は大きく離れていました。従来法では、窒素酸化物や硫黄化合物に反応するにおいセンサーの値と、苦味の値が目立って高くなっています。うま味の値は、どちらの加熱でも生の身より高くなり、従来法のほうが上昇幅は大きいと報告されています。
タンパク質の分析では、加熱が強いほど抽出できる筋原線維タンパク質の量が減り、生の身の約21.8 mg/mLに対し、短時間蒸しで約5.6 mg/mL、従来法で約2.4 mg/mLとなりました。一方、タンパク質どうしの凝集を示す濁りや粒子の大きさは、短時間蒸しでは生の身とほぼ同じでしたが、従来法では濁りが増え、粒子も大きくなりました。タンパク質の表面の性質や立体構造の変化も、短時間蒸しでは従来法よりずっと小さかったとされています。著者らは、短時間蒸しの中心温度が、熱に弱いタンパク質であるミオシンが変性する温度域には入るものの、より熱に強いアクチンが変性する温度には達しなかったことが、この違いに関係している可能性を挙げています。
研究が示すこと
著者らは、部位ごとに分けて短時間だけ蒸す方法について、殻と身を分けにくいという課題を和らげながら、カニの身が本来持つ品質をできるだけ保てると結論づけています。従来の丸ごと長時間蒸す方法と比べて、タンパク質の変性や凝集が穏やかにとどまり、それが水分保持や風味の違いとして表れたというのが、この研究の示す姿です。加熱の「強さ」を部位の熱の伝わりやすさに合わせて調整するという発想が、カニのむき身加工における品質保持の手がかりになることを示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Xihao Li(State Key Laboratory of Marine Food Processing & Safety Control, College of Food Science and Engineering, Ocean University of China, Qingdao 266404, China)、Changhu Xue(State Key Laboratory of Marine Food Processing & Safety Control, College of Food Science and Engineering, Ocean University of China, Qingdao 266404, China)、Zihao Wei(State Key Laboratory of Marine Food Processing & Safety Control, College of Food Science and Engineering, Ocean University of China, Qingdao 266404, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xihao Li, Changhu Xue, Zihao Wei. Effects of Different Thermal Treatments on Quality and Myofibrillar Protein Properties of Shelled Chinese Mitten Crab (Eriocheir sinensis) Meat. Foods 2026-10-04. DOI: 10.3390/foods15193540. 原著ライセンス:CC BY.