著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

監視療法中の患者は何を食べればよいのか

前立腺がんのうち、リスクの低いものや一部の中間リスクのものでは、すぐに手術や放射線治療を行わず、定期的な検査で経過を見守る「監視療法(アクティブサーベイランス)」が選ばれるようになってきました。治療による合併症を避けながら、がんの状態を管理するための方法です。ただし、監視療法を受けた患者のおよそ20〜50%は、最終的に病気が進行して治療が必要になると報告されています。長い見守りの期間中、患者は先の見えない不安や強い心理的ストレスを抱えがちです。

そのため、薬を使わずに病気の進行を遅らせる方法として、食事への関心が高まっています。しかし、すでに前立腺がんと診断され監視療法を受けている人にとって食事がどんな役割を果たすのかは、まだはっきりしていません。研究は個別の栄養素から食生活全体まで、また調べる指標も血液中の目印から臨床的な判断までばらばらで、結論も一致していないのが現状です。研究チームは、「監視療法中の患者は何を食べればよいのか」という問いに医師が根拠をもって答えられない状況を出発点に、どのような研究がどれだけあり、その質はどうか、そして何が欠けているのかを整理しようとしました。

エビデンスマップという方法

著者らが用いたのは「エビデンスマップ」という手法です。これは、ある分野の研究を系統的に集めて分類し、どの組み合わせに研究が集中し、どこが空白になっているかを地図のように可視化するものです。特定の治療の効果を数値で統合するメタ分析とは異なり、研究がまだ探索段階にある分野の全体像をつかむのに向いています。今回はこれに、個々の研究の方法論的な質の評価を組み合わせた点が特徴です。

研究の初期には、泌尿器科医、前立腺がん患者、栄養士からなる助言グループが設けられました。患者の代表は、単なる検査値の変化よりも「治療への移行を遅らせること」や「生検(組織を採取する検査)にまつわる不安を減らすこと」を重視し、これが臨床的な進行を示す指標に注目する方針につながったと説明されています。

研究チームは、2000年から2025年までに発表された英語の論文を主要な医学データベースで検索しました。食事の介入は、食生活全体のパターン、オメガ3脂肪酸・魚油、ビタミンD3、植物由来の成分を多く含むサプリメント、セレン・葉酸、その他の6種類に分けられました。結果の指標は、前立腺がんの経過観察で標準的に使われる血液検査の値であるPSA、PSA以外の生物学的な目印(バイオマーカー)、そしてがん組織の悪性度を示すグリソン分類の3種類です。グリソン分類は、監視療法から治療へ切り替えるかどうかを決める主要な判断材料とされています。

研究が集中する領域と、空白の領域

検索で見つかった952件の記録から、最終的に22件の研究が対象となりました。内訳は、参加者をくじ引きのように無作為に割り付けて比較するランダム化比較試験(RCT)が12件、無作為化をしていない介入研究が6件、観察研究が4件でした。

最も研究が集中していたのは、植物由来成分を多く含むサプリメントがPSAやバイオマーカーに与える影響を調べた領域で、主にRCTによって構成されていました。複数のRCTがこれらの指標への好ましい効果を報告していましたが、質の評価では、こうした試験の多くは参加者や研究者がどちらのグループか分かる状態で行われているか、その伏せ方が不十分で、偏りが生じるおそれがあると指摘されています。また、こうした生物学的な変化が実際の病気の進行の抑制につながるかは確認されていないとされています。ビタミンD3については、初期の非無作為化研究で有望な兆しがあったものの、最新のRCTでは病気の進行を防ぐ効果は示されなかったと報告されています。

一方、食生活全体のパターンとPSAやバイオマーカーの関係を調べた研究は見つからず、「空白」とされました。食生活全体とグリソン分類の関係については前向きのコホート研究(集団を長期間追跡する観察研究)が2件ありましたが、介入研究、とくにRCTはありませんでした。観察研究からは関連が示唆されるにとどまり、因果関係を確かめる質の高い証拠という点では空白だと著者らは位置づけています。さらに、研究の量と質の両方を満たし、確かな結論をまとめられる段階に達した領域は一つもなかったと報告されています。

質の評価では、12件のRCTのうち全体的な偏りのリスクが「高い」とされたのが2件、「中程度」が10件でした。割り付けの方法をどう隠したかは12件すべてで「不明」、参加者や研究者への目隠しは5件で「高リスク」と判定されました。著者らは、「不明」の多くは方法の失敗ではなく報告の不足を反映している一方、長期間にわたって食事内容を伏せることは食事研究に固有の難しさだと区別しています。非無作為化の介入研究6件は、交絡(結果に影響する別の要因)などの問題から偏りのリスクが高いと評価されました。観察研究4件は方法論的な質が良好と評価されています。

「サンドイッチ」状態からの立て直し

著者らは現在の証拠の状況を「サンドイッチ」にたとえています。最上段にあたる、臨床的な進行を結果とした介入研究は欠けており、中段のRCTには方法上の弱点があり、下段の観察研究は質が高くても因果関係を示せない、という構図です。研究の数は多いものの、その多くはサプリメントと検査値の変化に偏っており、患者が本当に気にかける結果とは十分につながっていないと論文は指摘しています。

ただし著者らは、バイオマーカー研究そのものを否定してはいません。仕組みの解明や将来の試験の規模の見積もりに不可欠だとしたうえで、問題はそこで得られた手がかりを臨床的な結果で確かめる段階まで進められていないことだと述べています。そのうえで、食生活全体のパターンを対象に、臨床的な進行を主な結果とする試験へと研究の重心を移すよう提言しています。

論文は結論として、多くのサプリメントには病気の進行を遅らせると言えるだけの十分な証拠がなく、一般的な健康的な食事の推奨が臨床の基本であり続けるとまとめています。この研究は、研究の数が多いことと確かな答えが得られていることは別だということを、分野全体を見渡すことで示したものと言えます。

原著論文の著者・所属:Ying Li(Department of Urology, Shandong Provincial Hospital Affiliated to Shandong First Medical University, Jinan; Department of Urology, Shandong Provincial Hospital, Jinan)、Tian-Qi Wang(Department of Urology, Shandong Provincial Hospital Affiliated to Shandong First Medical University, Jinan; Department of Urology, Shandong Provincial Hospital, Jinan)、Ai-Yun Zhu(Department of Urology, Shandong Provincial Hospital Affiliated to Shandong First Medical University, Jinan; Department of Urology, Shandong Provincial Hospital, Jinan)、Yin-Ping Zhang(School of Nursing, Health Science Center, Xi’an Jiaotong University, Xi’an, Shaanxi, China)、Qiang Fu(Department of Urology, Shandong Provincial Hospital Affiliated to Shandong First Medical University, Jinan; Department of Urology, Shandong Provincial Hospital, Jinan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ying Li, Tian-Qi Wang, Ai-Yun Zhu, et al. Beyond supplements and surrogates: an evidence-quality map informs a strategic rebalancing of dietary research in prostate cancer active surveillance. Frontiers in Nutrition 2026-08-10. DOI: 10.3389/fnut.2026.1911038. 原著ライセンス:CC BY.