飽和脂肪酸や魚の摂取と心血管疾患の関係を調べた研究は数多くあり、それらをまとめて総合的な結論を出す『メタ解析』は、食事に関するガイドラインづくりの重要な根拠になっています。しかし、食事の研究には見落とされがちな落とし穴があります。それは、食べた総エネルギー量(カロリー)をどう扱うかという『エネルギー調整』の方法です。今回、アメリカン・ジャーナル・オブ・エピデミオロジー誌に掲載予定の研究は、この調整方法の違いがメタ解析の結果にどう影響しているのかを検証しました。
研究チームは、Brigham and Women's Hospital(米国ボストン)、リーズ大学、オーフス大学(デンマーク)、マクマスター大学(カナダ)、カロリンスカ研究所(スウェーデン)、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンなど複数の研究機関に所属する研究者から構成されています。
『エネルギー調整』で何が変わるのか
食事の研究では、ある栄養素(たとえば飽和脂肪酸)の摂取量と病気の関係を見るときに、総エネルギー摂取量を統計的に調整(考慮)したり、対象の栄養素を『総エネルギーに占める割合(%エネルギー)』として表したりすることがよくあります。この論文が指摘しているのは、こうした調整をすると、実際に推定される効果の意味そのものが変わってしまうという点です。総エネルギー摂取量を一定に保ったまま特定の栄養素の割合を変えるということは、裏を返せば、その栄養素を他の栄養素(たとえば炭水化物やたんぱく質)に『置き換えた』場合の効果を推定していることになるためです。つまり、調整の有無や方法次第で、『単純にその栄養素を多く摂った場合の効果』なのか『何かと置き換えた場合の効果』なのかという、質的に異なる問いに対する答えが導き出されることになります。
研究の方法と見えてきたこと
研究チームは、①飽和脂肪酸と心血管疾患、②魚と心血管疾患、という2つのテーマについて、それぞれ最新の2件と最も引用されている2件のメタ解析、合わせて8件を対象に調べました。これらのメタ解析に含まれていた個々の研究は合計82件、そこから得られた統計モデル(解析パターン)は144件に上りました。
これらのモデルを詳しく調べた結果、144件のうち82%にあたる119件が、実質的には『置き換え効果』を推定するものだったことがわかりました。ところが、そのことが研究の中できちんと認識され、議論されていたケースはほとんどありませんでした。8件のメタ解析のうち、エネルギー調整の方法について明示的に検討していたのはわずか1件のみで、それも下位グループ解析の対象を選ぶための基準として言及されていたにとどまりました。そして、性質の異なる効果の推定値を一緒くたに統合(プール)してしまった可能性があると認めているメタ解析は、1件もありませんでした。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
研究チームは、こうした性質の異なる推定値を不適切に統合してしまうと、得られる数値が何を意味しているのか曖昧になってしまうと指摘しています。この研究は、飽和脂肪酸と魚という2つのテーマ、合わせて8件のメタ解析を対象にした調査であり、食事研究全体を網羅的に検証したものではありません。また、この研究自体は特定の食品や成分が健康に良い・悪いと判定するものではなく、既存のメタ解析が『何を測っているのか』という研究方法上の課題を扱ったものである点に注意が必要です。研究チームは、今回の分析結果を踏まえ、今後のメタ解析でエネルギー調整の扱いをより明確にするための提言を行っています。
まとめ
飽和脂肪酸や魚の摂取に関する研究結果を解釈する際には、そこで比較されているのが『単純な摂取量の効果』なのか『何かとの置き換えの効果』なのかによって、意味合いが変わってくる可能性があります。今回の研究は、食事と病気の関係を調べた過去のメタ解析の多くが、この点を明示的に扱ってこなかったことを示すものであり、今後、食事に関するガイドラインの根拠となる研究の質を高めていくうえで参考になる知見といえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Natalia Ortega, Peter W G Tennant, Darren C Greenwood, et al. Meta-analyses of dietary exposures must consider energy adjustment: recommendations from a meta-scientific review. アメリカン・ジャーナル・オブ・エピデミオロジー (2026). DOI: 10.1093/aje/kwag188. 原著ライセンス: cc-by.