この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
スペルミジンは、大豆製品や熟成チーズ、きのこ類、全粒穀物などに含まれるポリアミンの一種で、細胞の働きに関わる成分として知られています。近年、食品からのスペルミジン摂取が健康や寿命に関連するのではないかという関心が広がっており、がんとの関わりについても研究が進められてきました。しかし、前立腺がんとの関係についてはこれまではっきりした結論が出ていませんでした。今回紹介する研究は、食事から摂取するスペルミジンの量が、前立腺がんの発症や死亡とどのように関連するのかを、大規模な前向きコホート研究のデータを用いて調べたものです。
研究でわかったこと
この研究は、前立腺・肺・大腸・卵巣がんスクリーニング試験(PLCO試験)に参加した男性54,517人を対象としています。参加者の食事内容は食物摂取頻度調査票によって評価され、そこからスペルミジンの摂取量が推定されました。追跡期間中に前立腺がんと診断されたのは6,643例、前立腺がんが原因で死亡したのは603例でした。
解析の結果、スペルミジンの摂取量が最も多いグループと最も少ないグループを比較しても、前立腺がんの発症リスクに差は見られませんでした(相対リスク1.00、95%信頼区間0.89〜1.12)。また、前立腺がんによる死亡リスクについても、統計的に意味のある関連は認められませんでした(最高摂取グループの相対リスク1.24、95%信頼区間0.96〜1.60、p=0.10)。
一方で、あらゆる原因による死亡(全死因死亡率)については、スペルミジン摂取量との間に非線形の逆相関、つまり摂取量が多いほど死亡リスクが低い傾向がみられる関係が確認されました(非線形性のp値は0.010未満)。ただし論文の著者らは、この関連について「残余交絡」、すなわち解析で調整しきれなかった他の生活習慣や健康状態の影響を反映している可能性があると述べています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は5万人以上を対象とした大規模なものですが、著者ら自身が「仮説を生み出す段階の知見であり、臨床的または食事上の推奨を裏付けるものではない」と述べている点に注意が必要です。つまり、今回の結果だけで「スペルミジンを多く摂れば健康に良い」あるいは「前立腺がんに関係する・しない」と断定することはできません。一つの研究であり、今後さらなる検証が必要な段階の知見として受け止めるのがよいでしょう。
また、解析にあたっては人口統計学的な要因や生活習慣、臨床的な情報などが調整されていますが、総エネルギー摂取量については、解析用データセットの都合上、信頼できる形で算出できなかったためモデルに含まれていない、という制約も論文中で述べられています。
まとめ
今回のPLCO試験のデータを用いた研究では、食事から摂取するスペルミジンの量は、前立腺がんの発症率にも、前立腺がんによる死亡率にも関連していないという結果が示されました。一方で、全死因死亡率とは非線形の逆相関がみられたものの、これは残余交絡を反映している可能性があるとされています。スペルミジンと健康の関係については、今後も研究が積み重ねられていく分野といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):食事性スペルミジン摂取量は前立腺がんの発症率や前立腺がん特異的死亡率と関連しない:前立腺・肺・大腸・卵巣がんスクリーニング試験の結果(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年07月)
著者:Guilin Wang(Longyan First Affiliated Hospital of Fujian Medical University, Urology and Pediatric Surgery, Longyan, Fujian, China)、Guilin Wang(Fujian Medical University, Fuzhou, Fujian, China)、Jiayi Lin(Fujian Medical University, Fuzhou, Fujian, China)、Zhifeng Lin(Fujian Medical University, Fuzhou, Fujian, China)、Jinhui Jian(Longyan First Affiliated Hospital of Fujian Medical University, Urology and Pediatric Surgery, Longyan, Fujian, China)、Jiongxuan Xu(Longyan First Affiliated Hospital of Fujian Medical University, Urology and Pediatric Surgery, Longyan, Fujian, China)、Jie Xie(Longyan First Affiliated Hospital of Fujian Medical University, Urology and Pediatric Surgery, Longyan, Fujian, China)、Shun Liu(Fujian Medical University, Fuzhou, Fujian, China)、Qingquan Chen(School of Biological Science and Medical Engineering and Beijing Advanced Innovation Centre for Biomedical Engineering, Beihang University, Beijing, China)、Dewen Zhong(Longyan First Affiliated Hospital of Fujian Medical University, Urology and Pediatric Surgery, Longyan, Fujian, China)