この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
赤ビーツ(Beta vulgaris L.)を加工する際に出る皮は、通常は廃棄される副産物ですが、論文によれば、赤紫色のもととなるベタレイン色素をはじめ、ポリフェノール、食物繊維、ミネラルを豊富に含み、抗酸化性を持つ素材として注目されています。一方、ミートボールのような食肉製品は加工・保存の過程で脂質の酸化が進みやすく、また高温での揚げ調理では、糖とアミノ酸(特にアスパラギン)が反応するメイヤール反応を通じて、国際がん研究機関が「ヒトに対しておそらく発がん性がある」と分類しているアクリルアミドが生じることが知られています。
著者は、赤ビーツの皮の粉末(以下、皮粉末)を加えたミートボールを、種類の異なる植物油で揚げたときに何が起こるのかを調べました。これまでの研究では赤ビーツを食肉製品に使った一般的な品質面の検討はあったものの、揚げ油の違いとの組み合わせ、とりわけアクリルアミド生成に踏み込んだ報告は限られている、というのが本研究の出発点です。
どのように調べたか
材料には牛の臀部の筋肉(M. gluteus medius)と筋肉内脂肪を用い、脂肪20%のミートボール生地を調製しました。赤ビーツの皮は洗浄・選別・剥皮の後、有効成分への熱の影響を抑えるために50℃で乾燥させ、粉砕して500マイクロメートルのふるいを通した粉末にしています。この皮粉末を0%(対照)、0.5%、1%の3水準で配合し、それぞれをひまわり油、とうもろこし油、ヘーゼルナッツ油の3種類の油で揚げました。油は混ぜず個別に用い、200℃に達した鍋に入れて計4分間、途中で裏返して両面を加熱するという同一条件で調理しています。
調べた項目は、pH、水分含量、加熱損失(調理による重量の減少割合)、色(明るさのL*、赤み方向のa*、黄み方向のb*など)、二回圧縮によるテクスチャー解析(硬さ、弾力性、凝集性、ガム性、咀嚼性、復元性)、脂質酸化の指標であるTBARS値、そして高速液体クロマトグラフィーで測定したアクリルアミド含量です。油の種類3水準と配合濃度3水準を組み合わせた二元配置の実験計画とし、分散分析とダンカンの多重比較検定、さらに全体像を把握するための主成分分析を行ったと報告されています。
報告された主な結果
アクリルアミドについて、論文が報告した平均値は対照区が63.78マイクログラム/キログラム、0.5%配合区が72.35、1%配合区が64.53でした。著者は、0.5%の添加が対照区と比べてアクリルアミド生成を有意に増やし(約13.44%の増加)、一方で1%まで濃度を上げた場合は対照区と統計的に差がなかったと述べています。つまり皮粉末の影響は濃度に依存するものの、直線的ではなかったということです。著者は、赤ビーツにアクリルアミドの前駆体となる遊離アスパラギンが含まれることを先行研究から挙げてこの傾向を説明しつつ、1%でさらに増えなかった点については、ほかの要因も関与している可能性があるとしています。揚げ油の種類による差(ひまわり油66.61、とうもろこし油68.37、ヘーゼルナッツ油65.69マイクログラム/キログラム)は統計的に有意ではなく、本実験条件ではアクリルアミド生成は油よりも皮粉末の配合に左右されたと報告されています。
脂質酸化の指標であるTBARS値は1.45〜1.88ミリグラムMDA/キログラムの範囲で、皮粉末の配合割合が有意に影響した一方、油の種類には有意な影響がありませんでした。数値としては1%配合区が最も高い値を示しています。テクスチャーでは、皮粉末を加えると硬さが増し、1%配合区で最も硬くなりました。著者は、皮粉末に含まれる食物繊維が保水性を高め、より密で硬い組織構造の形成に寄与した可能性を指摘しています。油の種類も硬さ、弾力性、ガム性、咀嚼性、復元性に有意に影響し、ひまわり油を用いた試料が最も硬く、ヘーゼルナッツ油では最も軟らかくなりました。
pHは6.22〜6.25とわずかな範囲にとどまり、著者は、皮粉末を配合しても製品の酸・アルカリのバランスを大きく変えずに済むことを示すと述べています。水分含量と加熱損失には油の種類が強く影響し、加熱損失はとうもろこし油で最も小さく(20.27%)、ひまわり油で最も大きくなりました(31.27%)。一方、色(L*、a*、b*、彩度、色相角)については、皮粉末の配合濃度も油の種類も統計的に有意な影響を及ぼしませんでした。
この研究が示すこと
著者は、アクリルアミドの観点からは、ミートボールの配合において1%の皮粉末添加が0.5%よりも適した水準でありうる、と結論づけています。捨てられていた野菜の皮を食品素材として使うという発想は魅力的ですが、この研究が示しているのは、添加量が多いほど良い、少なければ安全、といった単純な関係では捉えられない場面があるということです。植物由来の素材を加えることは、色や食感、酸化の進み方だけでなく、加熱で生じる成分にも影響しうるため、実際の配合を決める際には量ごとの検証が必要になる——本研究の報告は、そうした慎重な見方の根拠を一つ加えるものといえます。
著者:Adem Savaş(epartment of Food Engineering, Hazelnut Specialization Coordination Office, Giresun University, Giresun, Turkey)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Adem Savaş. Assessment of the effects of different frying oils and red beet peel powder on acrylamide formation, lipid oxidation, and quality characteristics of meatballs. Frontiers in Nutrition 2026-09-28. DOI: 10.3389/fnut.2026.1930556. 原著ライセンス:CC BY.