著者の所属・活動拠点の国は、オーストラリアです。

掲載誌:Food and Bioprocess Technology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

多環芳香族炭化水素(PAH)は、揚げる・焼くといった加熱調理の際にできやすい、発がん性をもつ化合物のグループです。著者らは、欧州食品安全機関が食品中のPAH汚染の指標として推奨する4種類(ベンゾ[a]アントラセン、クリセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、まとめて「PAH4」)に注目しました。

揚げ物のPAHには、主に二つの経路があると考えられています。一つは、食品の中で脂質やたんぱく質の酸化などを経てPAHができる経路です。もう一つは、繰り返し使われた揚げ油にたまったPAHが、食品に吸収される油と一緒に移ってくる経路です。これまで、抗酸化物質で酸化を抑える方法や、食べられる膜(可食性コーティング)で吸油を減らす方法が報告されてきました。ただし多くの研究は、作ってすぐに揚げる条件で行われていました。

実際の食品は、加熱前に冷蔵保存されることが少なくありません。保存中に抗酸化物質は少しずつ消費され、脂質やたんぱく質の酸化は進みます。研究チームは、こうした保存中の変化によって二つの経路の効き方がどう変わるのかを調べることにしました。あわせて、酸化の状態と油からの移行を組み合わせてPAH4量を見積もる予測モデルを作ることも目的としました。

何を調べたか

研究チームは、牛肉と豚の背脂でミートボールを作り、4つの条件を比べました。何もしない対照、ごま由来の抗酸化成分セサモールを練り込んだもの、キトサンのナノ粒子とメチルセルロースからなる可食性コーティングをかけたもの、そして両方を組み合わせたものです。

これらを4℃で12日間冷蔵し、0・3・6・9・12日目に状態を調べました。調べたのは、菌数、抗酸化能、脂質の酸化の指標、たんぱく質の酸化の指標です。たんぱく質の酸化は、酸化されると減る「チオール基」の量で評価しました。

揚げる工程は、実際の店舗の状況に近づける工夫をしています。地元の飲食店で8時間使われた大豆油・菜種油の混合油を190℃に熱して用いました。そのうえで、揚げたミートボールの吸油量とPAH4量を測定しました。12日目の生のミートボールは強い異臭があり食用に適さなかったため、揚げる工程とPAH分析は9日目までとしました。

主な結果

保存中は、どの条件でも抗酸化能が下がり、脂質とたんぱく質の酸化が進みました。セサモールは保存初期に抗酸化能を高め、脂質の酸化を抑えましたが、その効果は時間とともに弱まりました。一方、コーティングは特に6日目以降、より持続的に酸化を和らげました。12日目の菌数は対照で最も多く、組み合わせた条件で最も少ないと報告されています。

揚げたミートボールのPAH4量は、すべての条件で保存期間が長いほど増えました。セサモールのみの条件では、対照と比べたPAH4の低減率が0日目の約28%から9日目には約15%へ下がりました。抗酸化物質による抑制が、保存とともに効きにくくなったことを示しています。使用した揚げ油のPAH4は平均8.42ng/gでした。コーティングをした条件では、どの測定日でも吸油量が有意に少なくなりました。

0日目には、セサモールのみの条件のほうがコーティングのみの条件よりPAH4が少なくなりました。しかしこの差は3日目には見られなくなりました。コーティングのみの条件では、低減効果が比較的安定していました。両方を組み合わせた条件は、特に保存後半で、より一貫してPAH4の蓄積を抑えたと著者らは報告しています。

個々の化合物を見ると、クリセンとベンゾ[b]フルオランテンは吸油量との相関が比較的強く、揚げ油にも多く含まれていました。ベンゾ[a]アントラセンとベンゾ[a]ピレンは、抗酸化能と比較的強い負の相関を示しました。ただし著者らは、これらは相関であって生成の経路や因果関係を確定するものではないと述べています。二つの経路の寄与を定量的に分けることも、この解析だけではできないとしています。

予測モデルには、部分最小二乗回帰という多くの変数をまとめて扱う統計手法が使われました。説明に用いた変数は、抗酸化能、揚げた後の脂質酸化とチオール基の量、そして吸油量と揚げ油のPAH4量から求めた「油から移ったPAH4」の4つです。モデルは本研究の48組のデータでPAH4のばらつきの92%を説明し、平均的な誤差は約0.045ng/gでした。さらに、揚げ油のPAH組成が異なる著者らの以前の研究データ12組で外部検証も行いました。その結果、予測誤差は0.13ng/g、決定係数は0.87となり、実測値とよく一致したと報告されています。

この研究が示すこと

この研究からは、揚げる前の冷蔵保存の長さが、揚げ物にできるPAH4の量を左右しうることが分かります。抗酸化物質で酸化を抑える方法は保存とともに効果が薄れる一方、コーティングで油からの移行を抑える方法は比較的安定していました。そのため著者らは、二つの経路を同時に狙う組み合わせのほうが、単独の対策より安定した抑制策になると結論づけています。さらに、酸化の状態と揚げ油からの寄与をあわせてPAH4量を見積もる枠組みを示した点も、この研究の特徴です。

原著論文の著者・所属:Zun Wang(School of Agriculture, Food, and Ecosystem Sciences, Faculty of Sciences, The University of Melbourne, Parkville, VIC, 3010, Australia)、Ken Ng(School of Agriculture, Food, and Ecosystem Sciences, Faculty of Sciences, The University of Melbourne, Parkville, VIC, 3010, Australia)、Robyn Dorothy Warner(School of Agriculture, Food, and Ecosystem Sciences, Faculty of Sciences, The University of Melbourne, Parkville, VIC, 3010, Australia)、Regine Stockmann(CSIRO Agriculture & Food, Werribee, VIC, 3030, Australia)、Wenan Cai(School of Agriculture, Food, and Ecosystem Sciences, Faculty of Sciences, The University of Melbourne, Parkville, VIC, 3010, Australia)、Zhongxiang Fang(School of Agriculture, Food, and Ecosystem Sciences, Faculty of Sciences, The University of Melbourne, Parkville, VIC, 3010, Australia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zun Wang, Ken Ng, Robyn Dorothy Warner, et al. Dynamic Mitigation and Prediction of PAH4 Accumulation in Refrigerated-Stored Deep-Fried Meatballs by Chitosan Nanoparticle–Methylcellulose Coating and Sesamol. Food and Bioprocess Technology 2026-09-11. DOI: 10.1007/s11947-026-04550-4. 原著ライセンス:CC BY.