この研究は、イスラエルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
トランスジェンダーおよび性の多様な(TGD)思春期の若者に対するジェンダー肯定ケアでは、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)アナログという薬剤を用いて性腺の働きを抑える治療が確立した選択肢のひとつとなっています。研究チームによれば、この治療を受ける前の段階にある若者でも骨の健康が損なわれていることがこれまでに報告されてきましたが、その背景にある栄養面の要因は十分に明らかにされていませんでした。
そこで著者らは、GnRHアナログによる治療を始めていない(治療未経験の)TGDの思春期の若者について、栄養状態、身体組成、骨密度の実態を明らかにし、あわせて腰椎の骨密度を左右する要因を特定することを目的としました。ここでいう骨密度のzスコアとは、同年代の標準的な値からどれだけ離れているかを示す指標で、0が平均、マイナスが平均より低いことを意味します。
調べた対象と方法
論文によると、この研究は国立の小児ジェンダー専門外来を受診した治療未経験のTGDの思春期の若者147人を対象とした後ろ向き横断研究です。内訳は出生時に男性を割り当てられた(AMAB/TGD女性)59人と、出生時に女性を割り当てられた(AFAB/TGD男性)88人でした。年齢の中央値は15.5歳で、83.7%は思春期を完了した段階にありました。
評価項目としては、身体計測、身体組成、24時間の食事調査によるカルシウム摂取量(年齢別の食事摂取基準との比較)、微量栄養素の状態、身体活動、睡眠時間に加え、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)による腰椎の骨密度zスコアが用いられました。さらに、骨密度zスコアを説明する要因を探るために、出生時に割り当てられた性別を共変量として重回帰分析が行われています。
報告された主な結果
栄養面では、1日のカルシウム摂取量の中央値が400 mg(食事摂取基準の31%)で、99.3%が基準を下回っていたと報告されています。また91.5%にビタミンDの欠乏または不足がみられ、微量栄養素のデータがそろっていた102人のうち63.7%が2つ以上の栄養素の不足を抱えていました。
身体組成については、両群とも筋肉と脂肪の比率が平均を下回り(zスコア中央値 −0.74)、体脂肪率はAFABの若者のほうがAMABの若者より高い値でした(28.6%対17.4%、p<0.001)。骨密度zスコアの全体の中央値は −0.70で、AMABの若者はAFABの若者より低い値を示しました(−1.00対 −0.40、p=0.001)。平均を下回る、あるいは低い骨密度に該当した割合も、AMABで55.8%、AFABで33.0%と差がありました(p=0.015)。
多変量解析では、BMIのzスコア(B=0.403、p<0.001)と出生時に割り当てられた性別(B=0.372、p=0.019)だけが骨密度zスコアの独立した予測因子でした(R²=0.344、調整R²=0.318)。なお、これは統計的な関連を示すものであり、因果関係を確かめたものではありません。
この報告が示すこと
著者らは、GnRHアナログによる治療を始める前の段階にあるTGDの思春期の若者において、栄養素の不足、望ましくない身体組成、低下した骨密度がみられ、とくに出生時に男性を割り当てられた若者でその傾向が顕著だったと結論づけています。
そのうえで、BMIのzスコアと出生時に割り当てられた性別が骨密度を独立して予測したことから、治療開始前の段階での栄養面と生活習慣への働きかけが必要だと指摘しています。この研究は一時点での断面的な調査であり、示されたのは関連であって原因の証明ではない点に留意が必要ですが、ジェンダー肯定ケアを考えるうえで、治療そのものに先立つ健康状態にも目を向ける必要があることを示した報告といえます。
著者:Yael Issan(Faculty of Social Welfare and Health Sciences, School of Public Health, University of Haifa)、Ophir Borger(The Institute of Pediatric Endocrinology, Diabetes and Metabolism, Dana-Dwek Children’s Hospital, Tel Aviv Sourasky University Medical Center)、Liat Perl(Gray Faculty of Medical and Health Sciences, The School of Medicine, Tel Aviv University)、Asaf Oren(Gray Faculty of Medical and Health Sciences, The School of Medicine, Tel Aviv University)、Anat Segev‐Becker(Gray Faculty of Medical and Health Sciences, The School of Medicine, Tel Aviv University)、Dor Shoshan(Gray Faculty of Medical and Health Sciences, The School of Medicine, Tel Aviv University)、Yaffa Elbaum-Shiff(The Nutrition and Dietetics Unit, Tel Aviv Sourasky University Medical Center)、Tair Ben‐Porat(Faculty of Social Welfare and Health Sciences, School of Public Health, University of Haifa)、Yael Lebenthal(Gray Faculty of Medical and Health Sciences, The School of Medicine, Tel Aviv University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yael Issan, Ophir Borger, Liat Perl, et al. Nutritional status, body composition and bone health in treatment-naïve transgender and gender-diverse adolescents. Frontiers in Nutrition 2026-09-23. DOI: 10.3389/fnut.2026.1937542. 原著ライセンス:CC BY.