この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Medicine

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

人生の最初期にどのような栄養状態で育ったかが、その後何十年も経ってからの健康に関わるのではないか。この問いは「DOHaD」と呼ばれる考え方として知られ、成人期の生活習慣や遺伝だけでなく、生まれる前後の栄養状態が代謝に関わる病気のなりやすさに影響しうると想定されています。研究チームは、この考え方を検証する歴史的な出来事として、1959年から1962年にかけて中国全土で起きた大飢饉に注目しました。

今回取り上げられた病気は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)です。これは、飲酒やほかのはっきりした原因がないにもかかわらず肝臓に脂肪がたまる状態を指し、重くなると肝硬変や肝がんへ進むことがあります。論文によれば世界で10億人近くが影響を受けているとされ、承認された治療薬がまだない点も課題として挙げられています。一方で、早期の栄養不足とNAFLDの関係を、健康診断を受けている人々という集団で調べた研究はごく限られていました。著者らは、この空白を埋めることを目的として調査を行いました。

何を、どのように調べたか

調査の対象となったのは、中国西部のある省都にある大規模総合病院の健診センターで、2024年に健康診断を受けた成人です。飲酒量が多い人、ウイルス性の肝疾患がある人、ほかの原因による肝疾患がある人などを除いたうえで、最終的に4,188人が分析に含まれました。対象者は国有企業や民間企業の従業員、自営業者など、行政・医療・教育・鉄道・商業といった幅広い分野の人々です。

研究チームは、生まれた年をもとに対象者を四つのグループに分けました。飢饉の時期に母親のおなかの中にいた「胎児期曝露群」(1959〜1962年生まれ、469人)、幼児期にあたる「幼児期曝露群」(1955〜1958年生まれ、489人)、それより年長の「学童期曝露群」(1949〜1954年生まれ、483人)、そして飢饉の後に生まれた「非曝露群」(1963〜1974年生まれ、2,747人)です。この分け方は、発達のどの段階で栄養不足を経験したかによって長期的な影響が異なるという先行研究の枠組みにならったものです。

脂肪肝の有無と程度は、腹部超音波検査によって判定されました。検査は資格を持つ技師が行い、対象者の肝機能や脂肪肝の有無を知らされない状態で実施されています。判定は「正常」「軽度」「中等度から重度」の区分で行われました。統計解析には二項ロジスティック回帰が使われ、二つのモデルが用意されています。モデル1では性別と年齢を、モデル2ではさらに過体重・肥満、血糖高値、血圧高値、脂質異常を調整しました。ここでいうオッズ比(OR)は、比較対象のグループと比べて、ある状態が何倍起こりやすいかを示す指標で、1.00が「差がない」ことを意味します。

報告された主な結果

著者らの報告によれば、胎児期に飢饉を経験した群では、非曝露群に比べて軽度NAFLD・中等度から重度NAFLDのいずれについても有病率が高いという関連がみられました。性別と年齢のみを調整したモデル1では、軽度NAFLDでOR 2.20(95%信頼区間1.59〜3.04)、中等度から重度NAFLDでOR 2.11(同1.50〜2.97)でした。代謝関連の指標まで調整したモデル2でも関連は残り、それぞれOR 1.90(同1.36〜2.65)、OR 1.65(同1.14〜2.38)と報告されています。なお胎児期曝露群における有病率は、軽度NAFLDが32.4%、中等度から重度NAFLDが30.1%でした。

一方、幼児期に曝露した群では、モデル1で軽度NAFLDとの関連が統計的に有意(OR 1.63、同1.06〜2.51)でしたが、モデル2でさらに調整すると有意ではなくなりました。学童期に曝露した群では、どちらのモデルでも統計的に有意な関連は検出されていません。

研究チームは結果の確かさを確かめるため、追加の解析も行っています。胎児期曝露群を1959〜1961年生まれ(291人)に絞った解析でも、モデル2で軽度NAFLDがOR 2.54(同1.70〜3.79)、中等度から重度NAFLDがOR 1.54(同1.01〜2.35)と、関連が確認されました。また、飢饉の前後に生まれた「隣接コホート」を仮の曝露群として比較したところ、1955〜1958年生まれでも1963〜1966年生まれでも、モデル2では統計的に有意な関連は認められませんでした。著者らは、これらの結果が、関連が特定の時期に限られるという見方を支持すると述べています。

この報告が示すこと

著者らは論文の中で、いくつかの限界を明示しています。これは単一施設の後ろ向き観察研究であるため、観察された関連から因果関係を結論づけることはできません。対象者が健診を受けに来た人々に限られることによる選択の偏り、学歴や職業といった社会経済的な要因のデータがないこと、地域による飢饉の深刻さの違いや当時の居住地が確認できていないことも挙げられています。また、モデル2で調整した代謝指標は、飢饉の影響を受けて後から生じた「中間的な要因」である可能性があり、調整しすぎによって関連が小さく見積もられる恐れがあるとも述べられています。

それでも、代謝指標を調整した後も胎児期曝露だけが独立した関連を保っていたことから、研究チームは、子宮内の時期が肝臓の代謝に関わる長期的な「プログラミング」の重要な時期である可能性を指摘しています。これまでオランダやウクライナの飢饉を対象とした研究では寿命や体格、2型糖尿病との関連が報告されてきましたが、脂肪肝を評価したものはなく、今回の報告は東アジアの集団における新たな集団レベルの知見を加えるものだと位置づけられています。

生まれる前の環境は本人にも周囲にも選べません。この研究が伝えているのは、そうした遠い過去の条件が、数十年後の健康状態の分布に痕跡として現れうるという観察です。著者らは、人生の各段階を通して健康をとらえる視点の重要性と、母子の栄養への注目を、この結果の含意として述べています。

著者:Xiaoli Zhang(The Third People's Hospital of Chengdu)、Peiwen Dong(The Third People's Hospital of Chengdu)、Minfang Lian(The Third People's Hospital of Chengdu)、Lin Li(The Third People's Hospital of Chengdu)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiaoli Zhang, Peiwen Dong, Minfang Lian, et al. From famine to NAFLD: long-term association between fetal famine exposure and adult non-alcoholic fatty liver disease. Frontiers in Medicine 2026-09-10. DOI: 10.3389/fmed.2026.1947597. 原著ライセンス:CC BY.