掲載誌:Cureus

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

貧血は、血液が酸素を運ぶ力が弱まった状態です。原因はいくつかありますが、栄養面で最も多いのは鉄の不足です。研究チームによると、インドでは生後6〜59か月の子どもの貧血の割合が高く、全国調査では都市部で64.2%、農村部で68.3%と報告されています。調査地のハリヤーナー州は、都市部68.1%、農村部71.5%と全国平均を上回っています。

子どもの食事や鉄剤の服用、予防策は、多くの場合母親が担います。そのため、子どもの貧血について母親が何を知り、どう考え、実際に何をしているかは重要です。母親の知識・態度・実践(KAP)を調べた研究はほかの地域にもありますが、インドの農村部、特にハリヤーナー州のデータは限られていました。また、母親の知識と、鉄欠乏性貧血の子どものヘモグロビン値との関係を調べた研究も多くありませんでした。

そこで著者らは、鉄欠乏性貧血と診断された5歳未満の子どもの母親を対象に、三つの点を調べました。一つ目は知識・態度・予防行動の実態です。二つ目は、知識や前向きな態度があっても適切な予防行動に結びついていない「ずれ」です。三つ目は、母親の知識と子どものヘモグロビン値(血液中で酸素を運ぶ色素の量)の関連です。

どのように調べたか

調査は2024年3月から5月にかけて、ハリヤーナー州の農村部にある教育病院の小児科で、ある一時点の状態を調べる横断研究として行われました。対象は、外来受診または入院した生後6〜59か月の子どものうち、検査で鉄欠乏性貧血と診断され、ほかの原因による貧血が除外された子どもです。その母親102人が参加しました。

子どもの貧血の程度は、世界保健機関(WHO)の基準に従い、ヘモグロビン値で軽度・中等度・重度に分けられました。母親には、著者らが作成し専門家の確認と予備調査を経た質問票を使い、訓練を受けた1人の面接者が地元の言葉で聞き取りました。質問は、貧血についての知識、予防に対する考え方、日頃の予防行動、情報の入手先にわたります。知識は点数化され、子どものヘモグロビン値や貧血の重さとの関係が統計的に分析されました。

主な結果

参加した母親の73.5%は中等教育以上を受けており、83.3%が専業主婦、92.2%が菜食中心の食生活でした。

知識面では大きな不足が見られました。貧血を「血液(ヘモグロビン)の不足」と正しく説明できた母親は37.3%で、47.1%は貧血を説明できませんでした。症状として最も多く挙がったのは顔色の悪さ(58.8%)、原因として最も多かったのは食事の偏り(61.8%)です。一方、95.1%が「牛乳やヨーグルトが貧血の治療に役立つ」と誤って考えていました。また95.1%は、鉄の吸収を妨げる食品を知りませんでした。寄生虫感染を貧血の原因と認識していたのは40.2%、政府の貧血予防プログラムを知っていたのはわずか3%でした。

態度は全体に前向きでした。88.2%が貧血を深刻な健康問題と捉え、90.2%が食事からの鉄の大切さを認め、91.2%が子どもの定期的な貧血検査を支持していました。

しかし、実際の予防行動には欠けている部分がありました。緑の葉野菜や果物、ビタミンCを多く含む食品をよく食べさせている母親は多数いました。その一方で、定期的に虫下しを行っていたのは38.2%、子どもに鉄剤を与えていたのは24.5%、鉄製の調理器具を使っていたのは14.7%にとどまりました。さらに62.7%は、食事中や食後すぐに紅茶やコーヒーを出していました。著者らは、これが鉄の吸収を妨げうる習慣だと指摘しています。

母親の知識の点数と子どものヘモグロビン値には、統計的に意味のある正の相関がありました(相関係数0.304)。知識の点数が高い母親ほど、子どものヘモグロビン値も高い傾向があったということです。貧血の重さ別に比べると、軽度の子どもの母親は重度の子どもの母親より知識の点数が有意に高くなっていました。ただし、軽度と中等度の間、中等度と重度の間には有意な差はありませんでした。

情報源として最も多かったのは医師(74.5%)で、地域の保健ワーカー(25.5%)、家族や友人(19.6%)が続きました。マスメディアは7.8%にとどまりました。

研究が示すこと

この研究からは、母親が貧血に対して前向きな考えを持っていても、それが正確な知識や適切な予防行動に必ずしもつながっていない実態が浮かび上がります。著者らは、母親の知識と子どものヘモグロビン値の関連は中程度であり、ほかの社会経済的・食事的な要因も関わると述べています。また、1施設での横断研究のため因果関係は示せず、社会経済状況などの影響も調整されていないことを限界として挙げています。

そのうえで著者らは、医療者や地域の保健ワーカーを通じて、食習慣や鉄剤、虫下しなどについて的を絞った栄養教育を行うこと、既存の貧血対策プログラムの実施を強化することが、子どもの鉄欠乏性貧血を減らすうえで役立つ可能性があると結論づけています。

原著論文の著者・所属:Ashiya Loomba(Pediatrics, Maharaja Agrasen Medical College, Agroha, IND)、Surendra Kumar(Pediatrics, Maharaja Agrasen Medical College, Agroha, IND)、Vishal Sharma(Pediatrics, Maharaja Agrasen Medical College, Agroha, IND)、Sheikh Mohammad Abdur Rahman(Pediatrics, Maharaja Agrasen Medical College, Agroha, IND)、Amanjot Singh Nokwal(Pediatrics, Maharaja Agrasen Medical College, Agroha, IND)、Mehak Mehta(Pediatrics, Maharaja Agrasen Medical College, Agroha, IND)、Karnika Agrawal(Pediatrics, Maharaja Agrasen Medical College, Agroha, IND)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ashiya Loomba, Surendra Kumar, Vishal Sharma, et al. Knowledge-Attitude-Practice Gap Among Mothers of Under-Five Children With Iron-Deficiency Anemia and the Association of Maternal Knowledge With Hemoglobin Levels: A Cross-Sectional Study at a Rural Tertiary Care Center in Haryana. Cureus 2026-08-20. DOI: 10.7759/cureus.114866. 原著ライセンス:CC BY.