著者の所属・活動拠点の国は、インドです。
掲載誌:Genetics and Molecular Research
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜGI米の「買い手側」を調べたのか
地理的表示(GI)とは、産品の品質や評判、文化的な特徴を特定の産地と結びつけて保護する仕組みです。農村の発展や生物多様性の保全、伝統的な農業知識を守る手段として位置づけられるようになっています。インド南部のケララ州は、GIに登録された米の品種を6つ持つ、インドで唯一の州です。その中には、伝統的な養殖と組み合わせた低投入型や有機型の栽培で育てられる品種もあります。
研究チームによると、GI登録によってこれらの品種の生産者価格は上がった一方で、消費者向けの販売や働きかけは制度上の認定に追いついていません。これまでのケララ州のGI米研究は、生産者の暮らしや認証の運営、市場制度が中心でした。消費者がどの特徴を重視し、どのように購入を決めているかは、あまり調べられていませんでした。
そこで著者らは三つの仮説を立てました。一つ目は、消費者は認証やブランドといった外から与えられる手がかりより、味や栄養、炊き上がりといった米そのものの品質を重視するというものです。二つ目は、割増価格を払う意思は、年齢や収入などの属性より、情報の探し方や比較の仕方といった行動面の要因に強く左右されるというものです。三つ目は、購入までの意思決定が、必要性に気づく段階から購入後の満足に至る順序立った過程をたどるというものです。
どのように調べたか
調査はGI米の主要産地であるケララ州の6地区で行われ、各地区40人、計240人の消費者が回答しました。回答者は、普段から米を買い、GI米への親しみの程度がさまざまな人を含むように選ばれ、知人の紹介も通じて集められました。回答は、オンラインと対面の聞き取りで集めた構造化質問票によるものです。
特徴の重要度は「最大差尺度法(MaxDiff)」で測りました。これは、いくつかの特徴の組み合わせを示し、その中で最も重視するものと最も重視しないものを選んでもらう方法です。割増価格への支払意思は、上乗せ率の区分を並べたカードから選んでもらう形式で尋ねました。分析は二段階で、まず割増を払う意思があるかどうか、次に払う人がどの程度上乗せするかを、それぞれ統計モデルで調べました。
意思決定の過程は、消費者行動の古典的な枠組みであるEngel-Kollat-Blackwell(EKB)モデルに沿って分析しました。このモデルは、購買を「必要性の認識」「情報探索」「代替案の評価(選択肢の比較検討)」「購入決定」「購入後の満足」の五段階で捉えます。著者らは各段階を複数の質問で測り、段階同士のつながりを構造方程式モデリングという手法で推定しました。
主な結果
品種ごとの認知度には大きな差がありました。パラッカダン・マッタは88.33%の回答者に知られていた一方で、カイパッドは22.92%にとどまりました。著者らは、カイパッドの栽培面積や市場での存在感が小さいことを反映している可能性があるとしています。
重視される特徴では、味が最も高く、栄養価、炊き上がりの品質、入手しやすさが続きました。GI認証、ブランド名、産地は下位でした。これは一つ目の仮説を支持する結果です。著者らは、店頭で確かめられない特徴は、直接確かめられる味などの手がかりより信頼されにくいという既存の知見と一致すると述べています。
支払意思については、回答者の80.83%がGI米に割増価格を払う意思を示しました。割増を払うかどうかには、選択肢をよく比較検討する傾向(代替案の評価)と、品種を見分けられることがプラスに働いていました。一方で、教育水準、収入、情報探索の度合いは、払う意思を持つ確率を下げる方向に関連していました。
ところが、払う意思のある人の上乗せ幅を見ると、年齢、収入、情報探索、購入後の満足が、より高い上乗せと関連していました。情報探索と収入は、最初の段階と次の段階で逆向きに働いていたことになります。著者らはこの逆転を次のように解釈しています。情報の多さは、はじめは迷いを生むものの、納得すると強い確信に変わる。収入の高い消費者は、入り口では慎重に選別するが、価値に納得すればより多く支払う。こうした結果から、行動面の要因は属性よりも支払意思をよく説明するとして、二つ目の仮説も支持されたと報告しています。
消費者が挙げた購入の動機は、品質の保証、健康上の利点、味でした。妨げとしては、入手しにくさ、価格の高さ、認証表示の目立たなさが挙げられました。
意思決定の過程については、必要性の認識から情報探索、代替案の評価、購入決定、購入後の満足へと続く四つのつながりがいずれも統計的に有意でした。研究チームは、GI米の購入が衝動的ではなく、順序立った過程をたどると結論づけ、三つ目の仮説を支持する結果としています。中でも代替案の評価は、購入決定に最も強く直接影響する段階でした。ただし、モデル全体の説明力は控えめだったことも報告されています。
この研究が示すこと
著者らによれば、ケララ州の消費者がGI米を受け入れるかどうかは、認証マークを知っているかよりも、実際の製品体験や、比較検討を経た納得感、情報の質に左右されています。GI米を持続的な需要につなげるには、認証を前面に出すだけでは足りません。品種ごとの認知を高め、信頼できる情報を届け、味や栄養といった品質を産地や生態的な価値とあわせて伝えることが重要だというのが、研究の示す方向です。
なお著者らは、対象者が無作為抽出ではなく6地区の比較的少数の消費者であることを限界として挙げています。また、支払意思は実際の購買ではなく回答者の申告に基づくため、仮定の質問ゆえの偏りが生じうる点にも触れています。
原著論文の著者・所属:I. P. Deepak(Institute of Agri-Business Management , College of Agriculture , University of Agricultural Sciences , Bangalore , Karnataka - 560065 , India)、Ranganath, G.(Assistant Professor, Institute of Agri-Business Management , College of Agriculture , University of Agricultural Sciences , Bangalore , Karnataka - 560065 , India)、Siddayya(Professor and Head , Institute of Agri-Business Management , College of Agriculture , University of Agricultural Sciences , Bangalore , Karnataka - 560065 , India)、M. R. Girish(Professor, Institute of Agri-Business Management , College of Agriculture , University of Agricultural Sciences , Bangalore , Karnataka - 560065 , India)、Y. N. Shivalingaiah(Professor and Director of Extension , Department of Agricultural Extension , College of Agriculture , University of Agricultural Sciences , Bangalore , Karnataka - 560065 , India)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):I. P. Deepak, Ranganath, G., Siddayya, M. R. Girish, Y. N. Shivalingaiah INTEGRATED BEHAVIOURAL AND ECONOMETRIC ANALYSIS OF CONSUMER BEHAVIOUR TOWARDS GEOGRAPHICAL INDICATION (GI) RICE VARIETIES IN KERALA, INDIA. Genetics and Molecular Research 2026-08-15. DOI: 10.4238/tnhk5v65. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。