著者の所属・活動拠点の国は、インドです。
掲載誌:Plant Science Today
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
地域で親しまれるキノコの正体を確かめる
アストラエウス属(Astraeus)のキノコは、外側の皮が湿ると星形に開き、乾くと再び閉じる性質で知られます。英語では「false earth stars」とも呼ばれ、主に熱帯から亜熱帯に分布しています。樹木の根と共生して養分をやり取りする「外生菌根菌」の仲間で、森林の物質循環にも関わっています。一方で、種どうしの見た目がよく似ており、環境によって形も変わりやすいため、昔から種の区別が難しいグループとされてきました。
インド中部のチャッティースガル州では、モンスーンの最初の雨の後に乾燥落葉樹林でこのキノコが豊富に発生します。部族や農村の人々が収穫し、北部では「プトゥ」、南部では「ボダ」と呼んで、季節の味覚として食べたり市場で売ったりしています。ところが、この地域のアストラエウス属について、形態と遺伝子の両面から詳しく調べた記録はこれまでありませんでした。
そこで研究チームは、同州で採集したアストラエウス属のキノコを対象に、形の観察とDNA解析を組み合わせて種を明確に区別すること、さらに栄養成分とミネラルなどの元素組成を調べることを目指しました。
形・DNA・成分の三方向から調べる
著者らは2022年と2023年の雨季に、ジャシュプル地区の森林と地元市場でキノコの子実体(いわゆるキノコ本体)を集めました。肉眼と顕微鏡で大きさや色、胞子の形などを記録し、内部の組織から菌を培養して、生育の様子も観察しました。
続いてDNAを取り出し、菌類の種の識別によく使われるリボソームDNAのITS領域とLSU領域という2か所の塩基配列を読み取りました。これを既存のデータベースの配列と比べ、生物どうしの類縁関係を枝分かれ図で表す「系統樹」を2通りの統計的な手法で作成しました。
栄養面では、タンパク質、炭水化物、食物繊維、脂質、灰分(燃やした後に残るミネラル分)を測定しました。また、微量の元素まで測れる誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)という手法で、カリウムや鉄などの必須ミネラルに加え、カドミウムや鉛といった有害になりうる重金属の量も調べました。
2つの別種であることを確認
DNA解析の結果、2つの試料はどちらもアストラエウス属のまとまりの中に入り、それぞれ既知のA. asiaticusとA. odoratusに近い別々の枝を形成しました。系統樹の分岐の確からしさを示す指標は高い値を示し、アストラエウス属全体のまとまりは最大級の支持を得ていました。見た目が似ている近縁のコツブタケ属やニセショウロ属とも明確に分かれていました。
形態にも違いが見られました。A. odoratusは直径20〜35ミリほどで、雨季の初めには外皮が黒っぽく厚いのに対し、A. asiaticusは直径5〜20ミリほどと小ぶりで、外皮は薄く白っぽいものでした。著者らは、A. odoratusが主に雨季の初めに、A. asiaticusは雨季の半ばに多く見られたことも報告しており、発生時期にも差があるとしています。こうした遺伝子・形態・生態の違いを合わせ、論文は2つが別の種であると結論づけています。
栄養成分(乾燥重量あたり)では、タンパク質がA. asiaticusで13.14%、A. odoratusで10.87%とA. asiaticusのほうが高く、炭水化物はA. odoratusが64.39%、A. asiaticusが62.32%とわずかにA. odoratusが上回りました。食物繊維はどちらも約6.6%でほぼ同じでした。
元素分析では、両種ともカリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅などが検出されました。最も多かったのはどちらもカリウムで、乾燥重量1キログラムあたりA. asiaticusで約3万600マイクログラム、A. odoratusで約1万2350マイクログラムでした。多くの元素でA. asiaticusのほうが値が高く、重金属についても鉛はA. asiaticusで14.3、A. odoratusで2.3マイクログラム(同じく1キログラムあたり)と、A. asiaticusのほうが高めでした。カドミウムはA. asiaticusでごく微量、A. odoratusでは検出されませんでした。著者らは、これらの重金属濃度はFAO/WHO(国連食糧農業機関と世界保健機関)の許容基準を大きく下回り、通常の食事の範囲では安全に食べられることを示していると述べています。
正確な種の見分けがもたらす意味
この研究は、見た目だけでは区別しにくいアストラエウス属のキノコについて、形態の観察とDNA解析を組み合わせることで種の境界をはっきりさせられることを示しました。著者らは、アジアにおけるこの仲間の多様性はこれまで過小評価されてきたと指摘しています。
また、同じ属の中でも種によって栄養や元素の組成が異なることから、論文は、野生キノコの栄養価や安全性を考える際には種を正確に特定することが重要だと強調しています。地域の人々の食と暮らしを支えるこのキノコについて、何を食べているのかを科学的に裏づける基礎資料となる研究です。
原著論文の著者・所属:T Samay(School of Studies in Life Science, Pt. Ravishankar Shukla University, Raipur 492 010, Chhattisgarh, India)、V Srishti(School of Studies in Biotechnology, Pt. Ravishankar Shukla University, Raipur 492 010, Chhattisgarh, India)、N P Aditi(School of Studies in Life Science, Pt. Ravishankar Shukla University, Raipur 492 010, Chhattisgarh, India)、M Payal(Shaheed Rajguru College of Applied Sciences for Women, University of Delhi, Delhi 110 096, India)、G Bhoopander(Department of Botany, University of Delhi, Delhi 110007, India)、K S Kamlesh(School of Studies in Biotechnology, Pt. Ravishankar Shukla University, Raipur 492 010, Chhattisgarh, India)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):T Samay, V Srishti, N P Aditi, et al. Resolving the species boundaries in wild edible Astraeus mushrooms using phylogeny, morphology and elemental profiling. Plant Science Today 2026-08-19. DOI: 10.14719/pst.13922. 原著ライセンス:CC BY.