この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:AcTion Aceh Nutrition Journal
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
月経前症候群(PMS)は、月経が始まる前の「黄体期」と呼ばれる時期に、腹痛や頭痛、むくみ、いらだち、気分の変化といった心身の症状があらわれるもので、生殖年齢の女性の日常生活に影響を及ぼすことがあります。論文では、PMSは遺伝、ホルモン、神経伝達物質、ビタミンやミネラルの不足など、さまざまな要因が絡み合って生じる多因子的な状態だと説明されています。
著者らは、カルシウムに注目しました。カルシウムは神経の情報伝達や筋肉の収縮・弛緩、神経伝達物質(とくにセロトニン)の合成と放出に関わるため、不足するとPMSの症状を悪化させうると考えられている、というのが原著の整理です。一方で、これまでにカルシウム摂取とPMSの関連を報告した研究はあるものの、寄宿舎で生活する思春期の生徒を対象とした証拠は限られている、と著者らは述べています。寄宿制の学校では食事が学校側の提供に大きく依存し、食品の選択肢や食事の多様性が自宅生より狭くなりやすいため、カルシウムが不足しやすい可能性があるからです。
そこで本研究は、インドネシア・ボゴールのある寄宿制高校に通う女子生徒を対象に、2025/2026学年度において、カルシウム摂取量とPMS症状の重さとの関係を明らかにすることを目的としました。
何を、どのように調べたか
研究は、ある一時点で集めたデータを分析する「横断研究」という設計で行われました。対象は同校の11年生・12年生の女子生徒85人で、学年ごとに人数を割り当てたうえで名簿から無作為に選ぶ方法(比例層化無作為抽出)が用いられました。参加の条件は15〜18歳、初経から2年以上経過していること、学校の提供する食事をとっていることなどで、カルシウムやビタミンDのサプリメント、ホルモン剤を使っている人、生殖器系の病気の既往や現症がある人などは除かれています。倫理委員会の承認も得たと記載されています。
カルシウム摂取量は、3日間・各24時間の食事内容を記録してもらう方法(3×24時間推定食事記録)で調べました。著者らは事前に寄宿舎の食堂を見て、生徒が使うご飯用や野菜用のおたまなどの配膳器具を確認し、「おたま何杯分」「大さじ何杯分」といった形で量を記録してもらうことで、分量の見積もりをしやすくしています。
PMS症状の重さは、SPAF(Shortened Premenstrual Assessment Form)という10項目の質問票で測りました。各項目を「変化なし」から「極めて重い」までの6段階で答え、合計点が10点ならPMSなし、11〜29点は軽度、30〜44点は中等度、45〜60点は重度とされます。生徒は直近の月経周期の黄体期に経験した症状を思い出して回答しました。カルシウム摂取量とPMSスコアの関係は、スピアマンの順位相関という方法で分析されています。
報告された主な結果
参加者は16歳が55.3%と最も多く、次いで17歳が37.6%でした。初経を迎えた年齢の平均は11.7±1.1歳でした。
カルシウム摂取量の平均は121±63 mg/日で、最少は30 mg/日、最多は331 mg/日でした。著者らは、インドネシアの推奨量が思春期の女子で1,200 mg/日であることに触れ、この集団では最も多く摂っていた生徒でさえ推奨量の3分の1に届いておらず、カルシウム不足が広く見られたと述べています。
PMSスコアの平均は26±7.7点(最少11点、最多45点)で、多くの生徒は軽度のPMSに該当する範囲でした。
両者の関係を調べた分析では、p値は0.04で、著者らはこれを統計的に意味のある関連(有意)と判断しています。相関係数はr=−0.21で、カルシウム摂取量が少ないほどPMSスコアが高い、という負の向きの関連です。ただし、その強さは弱く、95%信頼区間は−0.413〜0.005でした。論文はこの点について、信頼区間がゼロをまたいでいるため、実際の関連は推定より弱いか、あるいは存在しない可能性もあり、結果は慎重に解釈する必要があると明記しています。また、相関が弱いことは、PMSの重さがカルシウム摂取だけで決まるわけではなく、栄養状態や心理的要因、生活習慣など他の要因も関わることを示唆する、と論じています。
著者らは限界についても述べています。食事記録は自己申告に頼るため誤りが入りうること、PMSの評価は過去の症状を思い出して答える形式のため想起バイアスの影響を受けうること、心理的ストレス、マグネシウム摂取、ビタミンDの状態、睡眠の質、身体活動といった要因は測定していないこと、そして横断研究という設計上、カルシウム摂取とPMSの間に原因と結果の関係があるとは結論できないことです。
この研究が示すこと
この研究は、寄宿舎で暮らす思春期の女子生徒という、食事の選択肢が限られやすい集団において、カルシウム摂取量がきわめて低い水準にとどまっていること、そしてカルシウム摂取が少ないことと PMS症状が重いこととの間に弱いながら統計的に意味のある関連が見られたことを報告しました。
著者らは結論として、思春期、とりわけ寄宿舎という生活環境にある生徒にとって、十分なカルシウム摂取を満たすことの重要性を指摘しています。同時に、関連の強さが弱く不確かさも残ることから、この結果は慎重に受け止めるべきものとして示されています。食事の提供のあり方が栄養の充足を左右しうる環境に、あらためて目を向けさせる報告だと言えます。
著者:Syaleisha Yasmine Razi(Undergraduate Medical Study Program, Faculty of Medicine, Universitas Islam Bandung, Bandung)、Yudi Feriandi(Department of Humanities, Medical Education, Bioethics, and Islamic Insert, Faculty of Medicine, Universitas Islam Bandung)、Yafma Femin Helta Heriady(Departement of Biochemistry, Nutrition, dan Biomolecular, Faculty of Medicine, Universitas Islam Bandung, Bandung)、Eva Rianti Indrasari(Departement of Biochemistry, Nutrition, dan Biomolecular, Faculty of Medicine, Universitas Islam Bandung, Bandung)、Mirasari Putri(Departement of Biochemistry, Nutrition, dan Biomolecular, Faculty of Medicine, Universitas Islam Bandung, Bandung)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Syaleisha Yasmine Razi, Yudi Feriandi, Yafma Femin Helta Heriady, Eva Rianti Indrasari, Mirasari Putri Correlation between calcium intake and severity of premenstrual syndrome in female students in boarding high schools. AcTion Aceh Nutrition Journal 2026-09-16. DOI: 10.30867/action.v11i3.3168. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。