著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。

掲載誌:Molecules

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

卵黄には、リノール酸や、魚油に多いことで知られるDHA(ドコサヘキサエン酸)など、二重結合を複数もつ「多価不飽和脂肪酸」が含まれています。こうした脂肪酸は化学的に変化しやすく、保存中に少しずつ劣化する性質があります。卵黄にはコレステロールも多く含まれます。

一方、殻の表面の微生物を減らす手段として、オゾンガスが注目されています。オゾンは強い酸化力をもつ気体で、不飽和脂肪酸の二重結合と反応したり、コレステロールの酸化を招いたりするおそれも指摘されてきました。研究チームによると、これまでの研究は主に殻を一度だけ短時間で殺菌する処理を扱ったもので、殻付きの卵に繰り返しオゾンを当てた場合に中身の脂質がどうなるかは、ほとんど調べられていませんでした。

そこで著者らは、保存中の鶏卵に定期的にオゾンガスを当てたとき、卵黄の脂肪酸の構成とコレステロール量がどう変わるかを5週間にわたって調べました。適切な量のオゾンなら、酸化を進めるのではなく、むしろ卵黄の脂質を安定させるかもしれない、という仮説も検証の対象としました。

何を調べたか

研究チームは、産卵当日に集めた300個の鶏卵を、オゾン処理をしない対照群と、オゾン処理群の150個ずつに分けました。卵は20℃、湿度50%の暗所で5週間保存しました。オゾン処理群には週に1回、濃度5ppmのオゾンガスを10分間当てています。この条件は、殻表面の微生物を減らしつつ、殻の表面を覆う膜(クチクラ)を目に見えて傷めない組み合わせとして、事前の試験から選ばれたものです。

保存開始時から1週間ごとに卵を割って卵黄を取り出しました。3個分の卵黄を混ぜて1つの試料とし、各群・各時点で4試料を分析しています。分析には、成分を分離して種類を特定するガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)を使いました。

脂肪酸については、検出された13種類それぞれが脂肪酸全体の中で占める割合(相対的な比率)を求めました。卵黄に含まれる脂肪酸の絶対量を測ったものではない点が、この研究の結果を読むうえで重要です。コレステロールは、卵黄1グラムあたりの量として測定しました。

主な結果

新鮮な卵黄では、オレイン酸が全体の約48%を占めて最も多く、次いでパルミチン酸が約22%でした。多価不飽和脂肪酸では、リノール酸が8.88%、DHAが0.41%でした。

オゾン処理をしなかった対照群では、保存期間が長くなるにつれて脂肪酸の構成が統計的に意味のある変化を示しました。とくに多価不飽和脂肪酸の割合が下がり、リノール酸は5週目に5.68%まで低下しました。DHAは保存の終盤(4〜5週目)にはごく微量まで減りました。反対に、飽和脂肪酸であるパルミチン酸の割合は保存期間とともに高まる傾向がありました。著者らは、これはパルミチン酸そのものが増えたのではなく、変化しやすい不飽和脂肪酸の割合が下がったことで、相対的に比率が押し上げられた見かけ上の変化だと説明しています。

これに対して、週1回オゾン処理をした群では、5週間を通じて13種類のどの脂肪酸の割合にも統計的に意味のある変化は見られませんでした。5週間保存した後の分析結果は、新鮮な卵黄とほぼ同じ形を保っていたと報告されています。

コレステロールは、新鮮な卵黄で1グラムあたり16.89ミリグラムでした。5週間の保存中、対照群とオゾン処理群のどちらでも、開始時と比べて統計的に意味のある変化はありませんでした。後半に平均値がやや高くなる時点もありましたが、有意な差ではありませんでした。

結果が示すこと

この研究は、今回の保存条件のもとで、週1回の低濃度オゾン処理が卵黄の脂肪酸の構成比をほぼ保つことと結びついていた一方、コレステロール量には目立った影響を与えなかったことを示しています。強い酸化剤であるオゾンを使ったにもかかわらず、卵黄の脂肪酸構成に悪影響は見られませんでした。

ただし著者ら自身が強調しているように、今回測ったのは脂肪酸の「割合」であり、脂質がどの程度酸化したかを直接示す指標や、コレステロールが酸化してできる物質は測定していません。そのため、オゾン処理によって脂質の酸化が防がれたと断定することはできません。殻の膜が保たれて酸素が入りにくくなった、殻の微生物が減って酵素の影響が抑えられた、といった仕組みも、検証されていない仮説の段階にとどまります。

それでも、オゾン処理が卵の中身の脂質を傷めるのではないかという懸念に対して、少なくとも脂肪酸の構成比とコレステロール量の面では悪影響が見られなかったというデータを示した点に、この研究の意味があります。

原著論文の著者・所属:Maciej Balawejder(Faculty of Technology and Life Science, Department of Chemistry and Food Toxicology, University of Rzeszow, 1a Ćwiklinskiej Street, 35-601 Rzeszów, Poland)、Tomasz Piechowiak(Faculty of Technology and Life Science, Department of Chemistry and Food Toxicology, University of Rzeszow, 1a Ćwiklinskiej Street, 35-601 Rzeszów, Poland)、Zofia Sokołowicz(Faculty of Technology and Life Sciences, Department of Animal Production and Poultry Products Evaluation, Institute of Food Technology and Nutrition, University of Rzeszow, 35-959 Rzeszow, Poland)、Jacek Malec(Medical Post-Secondary School, Warzywna 1, 35-310 Rzeszów, Poland)、Radosław Józefczyk(Faculty of Technology and Life Science, Department of Chemistry and Food Toxicology, University of Rzeszow, 1a Ćwiklinskiej Street, 35-601 Rzeszów, Poland)、Izabela Szczepanik(Faculty of Technology and Life Science, Department of Chemistry and Food Toxicology, University of Rzeszow, 1a Ćwiklinskiej Street, 35-601 Rzeszów, Poland)、Natalia Matłok(Faculty of Technology and Life Sciences, Department of Food and Agriculture Production Engineering, University of Rzeszow, Street Zelwerowicza 4, 35-601 Rzeszów, Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Maciej Balawejder, Tomasz Piechowiak, Zofia Sokołowicz, et al. The Effect of Cyclic Ozonation on the Molecular Stability of Fatty Acids and Cholesterol in Egg Yolk During Storage. Molecules 2026-10-02. DOI: 10.3390/molecules31193512. 原著ライセンス:CC BY.