日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:PLoS ONE

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:野生の山菜の「味」に影響する要因を探る

森で採れる山菜は、昔から人々の食や文化と深く関わってきました。最近では、自然と触れ合うレクリエーションや体験型観光の資源としても注目されています。一方、山菜は畑の作物と違って栽培や管理がほとんど行われません。そのため、採れる量も質も生育地の環境に左右されやすい資源です。これまでの研究は主に収穫量に注目しており、味のような「質」に環境がどう影響するかは、あまり調べられてきませんでした。

山では標高や斜面の傾き、土の湿り具合が場所ごとに少しずつ変わります。こうした違いが植物の成分を変え、味にも影響する可能性があります。また、虫に食べられたり傷ついたりすると成分を変える植物が多いことが知られています。研究チームは、人による収穫も同じように植物への「傷」として働き、その後に出てくる芽の味を変えるかもしれないと考えました。ただし、収穫の影響と環境の影響を同じ枠組みで調べ、どちらがより重要かを比べた研究は、著者らの知る限りありませんでした。

そこで研究チームは、北日本の森に広く分布し、春に出る若いタケノコが食用にされるササの一種、チシマザサに注目しました。収穫と、標高・斜面の傾きなどの環境要因が、タケノコの味にどう関係するかを調べました。

調べたこと:森の調査区で採ったタケノコを味覚センサーで測定

調査は北海道大学の天塩研究林で行われました。2013年から観察が続いている2メートル四方の調査区を使っています。2019年からは、半分の調査区で毎年すべてのタケノコを収穫し、残りは収穫しない比較用の区として扱ってきました。2024年5月下旬、各調査区でちょうど食べごろになったタケノコを採取しました。それをゆでて瓶詰めにし、保存してから味を分析しました。

味の測定には味覚センサーを使いました。これは、人の舌の働きを参考にした装置です。脂質の膜でできたセンサーが味に関わる物質に反応する様子から、複数の味の強さを数値として客観的に測ります。測った項目のうち、酸味や塩味などは検出されませんでした。そのため分析では、苦味の後味、渋味、うま味、うま味のコクの4項目を扱いました。さらに、糖度計で測った値(Brix値)を甘さの目安として加えています。

最終的に、十分な量の試料がそろった41か所の調査区が分析対象になりました。内訳は収穫区20か所、非収穫区21か所です。研究チームは、それぞれの味の指標が収穫の有無、標高、斜面の傾き、土壌水分とどう関係するかを統計的に調べました。複数の味をまとめて捉える分析も行っています。

主な結果:収穫よりも地形、とくに標高との関係が明確

収穫区と非収穫区の間には、どの味の指標でも統計的に意味のある差は見られませんでした。糖度にも差はありませんでした。2019年から毎年収穫を続けても、タケノコの味にははっきりした変化が見られなかったことになります。一方、同じ処理の区の中でも、味のばらつきは大きいことがわかりました。

環境要因では、土壌水分はどの味とも関係が見られませんでした。これに対し、標高は苦味の後味・うま味・甘さと、斜面の傾きは苦味の後味・甘さと、それぞれ有意な関係を示しました。全体として、標高が高く斜面が急な場所ほど、苦味の後味が弱く、甘さやうま味が強い傾向がありました。

複数の味をまとめて分析すると、「苦味の後味が強く、うま味と甘さが弱い」という一つの軸が浮かび上がりました。この軸と統計的に関係していたのは標高だけで、標高が高いほど苦味が弱くうま味と甘さが強い側に寄っていました。斜面の傾きは、味を個別に見た分析では一貫した傾向を示しました。しかし、まとめて見た分析では有意な要因にはなりませんでした。そのため著者らは、斜面と味の関係については、標高ほど確かな裏付けは得られていないとしています。

研究が示す意味

研究チームは、チシマザサのタケノコの味の違いは、人による収穫よりも、主に地形に沿った環境の違いと結びついていると結論づけています。標高が高い場所で甘さやうま味が強くなる理由について、著者らは次のような解釈を示しています。寒さに慣れる過程で、植物は糖や、うま味のもとになるグルタミン酸などのアミノ酸をため込みます。この一般的な仕組みと結果は矛盾しない、という考え方です。急斜面については、太いササが育ちやすく、それがタケノコに蓄えられる養分の多さにつながっている可能性を挙げています。ただし、この研究では糖やアミノ酸を直接測っていません。これらの説明は、あくまで仮説として示されたものです。

この研究は、これまで量や太さで評価されてきたササのタケノコに、「味」という質の視点を数値で加えた点に新しさがあります。どのような地形で、どのような味のタケノコが、どれくらい採れるのか。山菜を量だけでなく質も含めて資源として捉える見方を、具体的に示した成果といえます。

原著論文の著者・所属:Noboru Katayama(Otaru University of Commerce)、Noriko Ryuda(Saga University)、Masasuke Ryuda(Saga University)、Kentaro Takagi(Hokkaido University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Noboru Katayama, Noriko Ryuda, Masasuke Ryuda, et al. Environmental drivers of taste characteristics in wild edible plants: Effects of topographic gradients and human harvesting evaluated using dwarf bamboo culms. PLoS ONE 2026-10-28. DOI: 10.1371/journal.pone.0360962. 原著ライセンス:CC BY.