著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in Microbiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
漬物やヨーグルトなど、世界各地の発酵食品には多様な微生物が棲みついており、そこから新しい健康機能を持つ菌が見つかることがあります。今回紹介する研究では、中国・浙江省で伝統的に作られてきた発酵タケノコに着目し、そこに含まれる乳酸菌を分離・評価する試みが行われました。研究を行ったのは、金華職業技術学院附属病院や金華市中心医院、金華職業技術学院医学部に所属する研究者らです。
研究チームはまず、浙江省各地で採取した発酵タケノコから乳酸菌を系統的に分離しました。得られた菌株の中から、胃腸環境を模した条件への耐性、腸への付着しやすさ、幅広い抗菌活性といった複数の指標で優れた性質を示した菌株が選び出され、「Lactococcus lactis ZB2」と名付けられています。この菌株は、プロバイオティクスの基準株としてよく用いられるLactobacillus rhamnosus GGと比較しても、評価したすべての指標で同等かそれ以上の結果を示したと報告されています。16S rRNA遺伝子配列の解析により、この菌はLactococcus lactis subsp. lactis(配列相同性99.7%以上)であることが確認されました。
マウスを使った実験でわかったこと
次に研究チームは、健康なC57BL/6Jマウスに対し、このZB2菌(1日あたり1×10⁹ CFU、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水200μLに懸濁)を28日間、経口投与する実験を行いました。その結果、腸の壁を構成する上皮バリアの状態を示す複数の指標に変化が見られたとされています。具体的には、腸のバリア機能が低下すると増える血中のFITC-デキストラン、DAO(ジアミンオキシダーゼ)、D-乳酸、LPS(リポ多糖)といった透過性マーカーの値が低下し、逆に腸のバリアを支えるタイトジャンクションたんぱく質(ZO-1、Occludin、Claudin-1)や、粘液の主成分を作る遺伝子Muc2の発現が高まったと報告されています。また、粘液を分泌する杯細胞の数も、腸のくぼみ(クリプト)あたりで増加していたとのことです。
免疫に関わる指標にも変化が見られました。血中では、抗炎症性のサイトカインとされるIL-10やTGF-βが増加する一方、IFN-γは減少し、大腸では炎症を促す遺伝子(Tnf-α、Il-6、Il-1β)の発現が低下していたとされています。さらに、腸を細菌から守る抗菌ペプチドであるReg3γやβ-defensin 1の発現も高まっていたと報告されています。あわせて行われた腸内細菌叢の解析(16S rRNAアンプリコンシーケンシング)では、酪酸を作る性質を持つLachnospiraceae科の菌が選択的に増え、便中の短鎖脂肪酸、特に酪酸とプロピオン酸の濃度が明らかに増加していたことも示されています。加えて、体内の抗酸化に関わる酵素であるSOD、CAT、GSH-Pxの活性が上昇し、酸化ストレスの指標とされるマロンジアルデヒドが減少していたことも報告されています。
この研究をどう受け止めるか
この研究は、発酵タケノコという身近ながらこれまであまり研究対象とされてこなかった発酵食品が、有用な乳酸菌の供給源になりうることを示す一例といえます。ただし、今回の結果は健康な状態のマウスを対象とした動物実験によるものであり、ヒトに同様の効果が生じるかどうかはこの研究だけでは分かりません。菌株の性質評価は主に実験室内(in vitro)の条件下で行われたものであり、実際の食品としての利用や、疾患モデルでの効果についても、この論文の範囲を超える今後の課題と考えられます。あくまで一つの基礎研究の結果であり、結論が確定したものではない点に留意が必要です。
まとめ
浙江省の伝統的な発酵タケノコから分離されたLactococcus lactis ZB2は、実験室内での評価で優れた特性を示し、マウスに28日間投与した実験では、腸のバリア機能や免疫バランス、腸内細菌叢の構成、抗酸化に関わる指標に変化が見られたと報告されています。今回の知見は、発酵食品由来の菌株が機能性食品の候補となりうる可能性を示すものですが、あくまで動物を用いた基礎研究の段階であり、今後さらなる検証が必要とされています。
著者:Ting Xu(Department of Nosocomial Infection Management, The Affiliated Hospital of Jinhua University of Vocational Technology, Jinhua, China)、Rihui Lu(Department of Otolaryngology Head and Neck Surgery, Jinhua Municipal Central Hospital, Jinhua, China)、Yuchen Shi(School of Medicine, Jinhua University of Vocational Technology, Jinhua, China)、Yongjin Fang(Department of Otolaryngology Head and Neck Surgery, Jinhua Municipal Central Hospital, Jinhua, China)、Hongqiang Lou(School of Medicine, Jinhua University of Vocational Technology, Jinhua, China)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Ting Xu, Rihui Lu, Yuchen Shi, et al. Lactococcus lactis ZB2 from Zhejiang fermented bamboo shoots enhance intestinal barrier and immune homeostasis in mice. フロンティアーズ・イン・マイクロバイオロジー (2026). DOI: 10.3389/fmicb.2026.1847505.