この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられるタケノコの先端を食品素材にする試み
モウソウチクの若い茎、いわゆるタケノコは加工の際に先端部分が硬く筋っぽいため、収穫重量のおよそ4割が捨てられています。この部分は乾燥重量の6〜7割が食物繊維で、その大半は水に溶けない「不溶性食物繊維」です。研究チームは、この副産物を食品素材として活用する方法を調べました。目指したのは、化学合成の添加物に頼らない「クリーンラベル」の構造形成素材です。この素材で油と水を混ざった状態に保ちつつ、脂質の消化の進み方も抑えることをねらいました。
油と水が細かく混ざった状態をエマルションと呼びます。マヨネーズやドレッシングがその例です。不溶性食物繊維は天然由来で、エマルションを安定させる素材として期待されています。ただし、もとの繊維は構造が緻密で油と水の境目に集まりにくく、そのままでは乳化剤として使いにくいことが知られていました。そこで著者らは、薬品を使わない物理的な加工法であるボールミル粉砕に着目しました。これを、乳化性に優れた大豆たんぱく質(分離大豆たんぱく)と組み合わせる方法を検討しました。
粉砕時間を変えて繊維の性質を調べる
研究チームは、タケノコ先端から取り出した不溶性食物繊維をボールミルで0〜12時間粉砕し、粒子の形や結晶構造、化学構造、ぬれやすさなどを比べました。粉砕前の繊維は数百マイクロメートルの長い繊維の束でした。粉砕が進むにつれて細かくなり、9時間では10マイクロメートル未満の粒子がそろった状態になりました。12時間まで続けると、細かくなりすぎた粒子が再び集まって塊を作りました。
繊維がどれだけ水をはじくかを示す「接触角」は、粉砕前のおよそ98度から9時間でおよそ105度まで上がり、その後は横ばいになりました。著者らはこの変化を、油と水の境目に集まりやすい表面の性質に近づいたものと説明しています。一方、繊維が水や油を抱え込む力は、粉砕が長くなるほど低下しました。セルロースの結晶の型や基本的な化学構造は、粉砕後も保たれていました。これらの結果から、研究チームは9時間粉砕した繊維を以後の実験に選びました。
大豆たんぱく質と組み合わせたエマルションの安定性と消化
粉砕した繊維だけでは、どの条件でも1時間以内に油と水がほぼ分離し、安定したエマルションはできませんでした。これに対し、大豆たんぱく質と組み合わせると安定したエマルションが得られました。体積の7割を油(椿油)が占める条件が最も分離しにくかったため、その後の実験はこの条件で行われました。
繊維の濃度を変えて比べたところ、0.1%で最も良い結果が得られました。油滴の大きさは大豆たんぱく質だけの場合の18.4マイクロメートルに対し8.68マイクロメートルと小さくなりました。ただし著者らは、この測定では繊維粒子と油滴を完全には区別できないため、見かけの値として扱うべきだと述べています。油滴どうしの反発の強さを示す「ゼータ電位」の絶対値も、この濃度で最も高い53.23ミリボルトでした。さらに、このエマルションはやわらかいゲル状の構造をつくり、4℃で14日間、分離も油の浮き出しもなく均一な状態を保ちました。大豆たんぱく質だけのエマルションは1日以内に分離し始めました。繊維を0.2%以上に増やすと、7日目以降に水の層が分かれてきました。
研究チームは、消化の過程を試験管内で再現する国際標準の手法(INFOGEST 2.0)で、胃と腸での脂質の分解も調べました。脂質が分解されると遊離脂肪酸ができます。その放出量は、繊維を加えたすべての条件で大豆たんぱく質だけの場合より少なくなりました。最も少なかったのは0.1%のエマルションで、腸の段階120分の時点で24.76%でした。顕微鏡で見ると、大豆たんぱく質だけの油滴は腸の段階でほぼ消化されていました。一方、0.1%の繊維を含む油滴は小さくなりながらも形を残していました。繊維が多すぎると、この抑制効果は弱まりました。
研究から見えてきたこと
著者らは、繊維の濃度による違いを三つの段階で説明しています。適量までは油と水の境目が補強され、適量でゲル構造の網目が最もよく整い、それを超えると逆に弱まる、という考え方です。この研究は、廃棄されてきたタケノコの先端の食物繊維を適度に粉砕し、大豆たんぱく質と組み合わせることで、二つの働きが得られることを試験管内の実験で示しました。エマルションを安定させる働きと、脂質の分解を遅らせる働きです。あわせて、繊維は多いほどよいわけではなく、粉砕時間と添加量に適切な範囲があることも明らかにしています。
著者:Zixuan Zhou(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Engineering Research Center for Biomass Conversion, Ministry of Education, Nanchang University, Nanchang 330047, China)、Chenlu Luo(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Engineering Research Center for Biomass Conversion, Ministry of Education, Nanchang University, Nanchang 330047, China)、Shuang Bi(School of Food and Health, Beijing Technology & Business University, Beijing 100048, China)、Xian Cui(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Engineering Research Center for Biomass Conversion, Ministry of Education, Nanchang University, Nanchang 330047, China)、Xinuo Song(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Engineering Research Center for Biomass Conversion, Ministry of Education, Nanchang University, Nanchang 330047, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zixuan Zhou, Chenlu Luo, Shuang Bi, et al. Emulsion Gel Stabilized by Young Bamboo Culm (Phyllostachys edulis) Fiber–Soy Protein Composite: Ball-Milling Effects on Stability and Lipid Digestion. Foods 2026-09-28. DOI: 10.3390/foods15193460. 原著ライセンス:CC BY.