植物性の代替食品づくりでは、タンパク質や食物繊維をどう組み合わせて「本物らしい」食感や構造をつくるかが大きな課題になっています。今回紹介する研究では、クルミのタンパク質と、孟宗竹(もうそうちく)のタケノコに由来する水溶性食物繊維を組み合わせ、油分を多く含むゲル状食品をつくる試みが報告されています。廃棄されがちなタケノコの副産物を食品づくりに活かす方向性としても注目される内容です。
研究でわかったこと
研究チームは、まずクルミのタンパク質分離物に「pHシフト処理」と呼ばれる処理を施しました。これは、pHを変化させることでタンパク質の構造を一度ほどき、再び戻すことで性質を変える手法です。この処理により、クルミタンパク質の溶解性は20.84%から77.15%へと大きく向上し、より小さく安定した粒子が形成されやすくなったと報告されています。
次に、このpHシフト処理済みタンパク質(PWPI)に、孟宗竹タケノコ由来の水溶性食物繊維(SDF)を組み合わせた複合体をつくったところ、油と水を混ぜ合わせた「水中油滴型エマルション」を安定させるうえで有利なコロイド特性・界面特性が得られたとされています。特にSDFを0.5%(w/v)加えた場合には、油滴の分布がより均一になり、粘弾性(ねばりと弾力のバランス)もより強くなったことが確認されています。
さらに、この研究では油分を70%(v/v)と非常に多く含むエマルションに対して、グルコノデルタラクトン(GDL)という酸性化剤を使い、加熱せずに固める「コールドセットゲル化」を行っています。GDLの添加量を変えて比較した結果、1.5%のGDLを用いたゲルで、タンパク質のβシート構造の含有量や水素結合による相互作用が高まり、弾性やテクスチャー(食感の指標)も改善されたと報告されています。低磁場NMRやMRIといった分析手法を用いた観察でも、このゲルでは水分がより強く保持され、構造がより均一であったことが示されています。一方で、GDLを2.0%とさらに多く加えた場合には、ゲルの網目構造が部分的に壊れ、水がにじみ出る「離水」が起こりやすくなったことも報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、特定の実験条件のもとでクルミタンパク質とタケノコ由来食物繊維の組み合わせがエマルションゲルの安定性や構造に与える影響を調べた基礎研究であり、食品としての効能や健康への効果を検証したものではありません。今回得られた結果は、あくまで一つの研究で示されたものであり、実際の食品開発や商品化に直結するかどうか、またヒトが摂取した際にどのような影響があるかについては、この要旨だけでは判断できません。今後さらなる検証が必要な段階にあるといえます。
まとめ
この研究では、pHシフト処理によってクルミタンパク質の溶解性を高め、竹タケノコ由来の水溶性食物繊維と組み合わせることで、高油分のエマルションを安定させ、GDLによるコールドセットゲル化を可能にする手法が報告されました。研究チームは、この手法がタケノコ副産物の有効活用を含む植物性食品の構造設計に役立つアプローチになりうるとしています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:pHシフト処理したクルミタンパク質と孟宗竹タケノコ由来水溶性食物繊維の複合体によるグルコノデルタラクトン酸性化エマルションゲルの構造化(フード・ケミストリー:エックス・2026年08月掲載予定)