この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
捨てられてきたタケノコの皮を活かすという出発点
タケノコを加工すると、皮や根元の部分が大量に残ります。著者らによれば、タケノコのバイオマスのうち利用されるのは40〜50%ほどで、毎年1764万〜2205万トンの皮が廃棄されるか、価値の低い飼料に回されているとされます。一方でこの皮には食物繊維や多糖類、フラボノイド、ステロールといった成分が含まれており、論文では食物繊維を抽出する研究が各種行われてきたことも紹介されています。ただし抽出には工程とコストが余分にかかるため、著者らは「抽出せず、微粉末にしてそのまま使う」という道を検討しました。
もう一方の材料はκ-カラギーナンです。これは紅藻からとれる多糖類で、少量でゲル(ゼリー状の網目構造)をつくれる、透明度が高いといった利点があります。ただし論文では、もろく壊れやすい、水が分離しやすい、高温で分解しやすいという弱点も挙げられています。そこで著者らは、タケノコの皮の微粉末とκ-カラギーナンを組み合わせた複合ゲル(論文中でKCSと呼ばれます)をつくり、その構造を調べたうえで、これをパンに0%・5%・10%・15%・20%加えたときにパンの性質・構造・風味がどう変わるかを調べました。
どのように調べたか
タケノコの皮は洗って60℃の熱風で乾かし、粗く砕いてふるい分けたうえで、超微粉砕機で15分間処理して微粉末にしました。著者らの測定では、皮の総食物繊維は49.89%、タンパク質15.7%、脂質0.8%で、微粉末の粒子径は半数がおよそ1578.74ナノメートル以下(D50)でした。粗い粉と微粉末を比べると、保水力・保油力・膨潤性はいずれも粒子が細かいほど高くなり、これは表面積が増え、繊維の詰まった構造がほぐれて内部の官能基が露出したためだと説明されています。
ゲルは、κ-カラギーナンを60℃の湯に溶かしてから微粉末を加える方法でつくられ、配合比を2:1・1:1・1:2と変えて比較した結果、保水力が最も高かった1:1が以降の実験に採用されました。ゲルそのものについては、走査型電子顕微鏡による微細構造の観察、赤外分光による分子間の結びつきの推定、レオメーターによる弾性の測定、凍結と解凍を5回繰り返す安定性試験、加熱による重量変化を追う熱分析が行われています。
パンについては、強力粉100gに対してゲルを所定量加え、イースト・砂糖・水・バター・塩とともにこね、37℃で45分発酵させて焼き上げました。比較対象として、ゲルを加えない食パン、κ-カラギーナンだけを10%加えたパン、タケノコ微粉末だけを10%加えたパンも用意されています。焼いたパンは色の測定、硬さ・弾性・咀嚼性の機器測定、においを見る電子鼻、味に関わる成分を見る電子舌、でんぷんの結晶性を見るX線回折、熱分析、5日間保存したときの水分減少の追跡、さらに人工唾液でかむ動作を模した処理をしてから代謝物を網羅的に調べるメタボロミクス解析にかけられました。
報告された主な結果
ゲル単体の比較では、κ-カラギーナンだけのゲルは滑らかな板状で所々に穴があり、微粉末だけは粗く隙間の多い状態でしたが、両者を混ぜた複合ゲルはより緻密で連続した網目構造を示しました。著者らは、カラギーナンの網目が骨組みとなり、そこにタケノコ粉末の粒子が埋まって隙間を埋めたためと述べています。赤外分光では新しいピークは現れず、共有結合ではなく水素結合を中心とした非共有的な相互作用でこの網目ができたと解釈されています。弾性を表す指標は複合ゲルの方が高く、凍結・解凍を繰り返したときの水の分離率は複合ゲルの方が低く抑えられました。熱分析では、分解が最も進む温度が複合ゲルではカラギーナン単体より25.01℃高く、600℃時点の残留質量も3.22%高い値が報告されています。
パンでは、カラギーナンだけを加えたものは明るく、微粉末だけを加えたものは暗く黄色みが強くなりました。複合ゲルの添加量を増やすほど明るさは上がり、赤み・黄みと焼き色の程度を表す褐変指数は下がりました。硬さと咀嚼性については、カラギーナン単体・微粉末単体のパンはいずれも無添加より有意に硬くなりましたが、複合ゲルを加えたパンは無添加と有意差がなく、単体添加の両群より全体に低い値でした。弾性は各群で有意な差はありませんでした。電子鼻の主成分分析では、単体添加の2群が無添加から大きく離れた一方、複合ゲル群は無添加に近い位置を示し、著者らは複合ゲルが好ましくない揮発成分や味に関わる物質の放出を抑えたと報告しています。
10%添加の条件では、均一で細かいハニカム状(蜂の巣状)のグルテン網目の形成が促され、でんぷんが時間とともに硬く戻る老化(でんぷんの再結晶化)が抑えられ、パンの熱安定性も高まったとされています。1〜5日の保存では、複合ゲルを加えたパンは水分の減少率が小さく、硬さと咀嚼性の増加が遅れ、弾性も良好に保たれました。メタボロミクス解析では、焼成時の香ばしさにつながるメイラード反応の材料となる小さなペプチドが複合ゲル添加で増えており、これが風味の豊かさに寄与したと述べられています。
この研究が示していること
この研究が示したのは、廃棄物として扱われてきたタケノコの皮を、成分を取り出す手間をかけずに微粉末にするだけで、κ-カラギーナンの弱点(もろさ、水の分離、熱への弱さ)を補う相手になりうるという点です。そして、その複合ゲルをパンに適量加えると、単体で加えたときに生じる硬さの増加や色・においの偏りを避けながら、色調と食感、保存中の水分保持を整えられることが、一連の測定によって示されました。
著者らはこの結果を、タケノコ加工の副産物を高い価値で利用するための新しい方策であり、パンの品質と風味を改善するうえでの参考になるものとして位置づけています。
著者:Li K(Engineering Research Center of Fujian-Taiwan Special Marine Food Processing and Nutrition, Ministry of Education, Fuzhou 350002, China.; College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China.)、Xu J(Engineering Research Center of Fujian-Taiwan Special Marine Food Processing and Nutrition, Ministry of Education, Fuzhou 350002, China.; College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China.)、Xu S(Fujian Lianhua Qigong Food Co., Ltd., Nanping 353000, China.)、Xue X(Engineering Research Center of Fujian-Taiwan Special Marine Food Processing and Nutrition, Ministry of Education, Fuzhou 350002, China.; College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China.)、Wu Z(Fujian Lianhua Qigong Food Co., Ltd., Nanping 353000, China.)、Zheng B(Engineering Research Center of Fujian-Taiwan Special Marine Food Processing and Nutrition, Ministry of Education, Fuzhou 350002, China.; College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China.)、Luo X(Engineering Research Center of Fujian-Taiwan Special Marine Food Processing and Nutrition, Ministry of Education, Fuzhou 350002, China.; College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Li K, Xu J, Xu S, et al. Application of Bamboo Shoot Superfine Powder/κ-Carrageenan Composite Gel in Bread: Texture, Properties and Flavor. Foods (Basel, Switzerland) 2026-09-09. DOI: 10.3390/foods15183193. 原著ライセンス:CC BY.