著者の所属・活動拠点の国は、オーストラリアです。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ダンスはジャンルごとに異なる練習・公演の負荷を持つ、芸術であると同時に運動でもある活動です。プロやプロを目指すダンサーの中には、週25時間を超えて、時には40時間近く練習や公演をこなす人もいます。著者らは、これだけのエネルギーを使う一方で、食事から摂るエネルギーや栄養素が足りないと、健康やパフォーマンスに悪影響が出るおそれがあると指摘しています。
特にダンサーは、細い体型を保たなければならないという圧力から、摂取エネルギーが運動で消費するエネルギーに対して不足する「低エネルギー可用性」に陥りやすいとされます。この状態が数週間から数か月続くと、骨量の低下、月経不順、ホルモン値の低下、免疫力の低下などを伴う「スポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)」につながることがあります。
適切な食事を選ぶ土台となるのが栄養の知識です。しかし、ダンサーの栄養知識や食行動については、これまでほとんど分かっていませんでした。そこで研究チームは、世界で発表されたダンサーの栄養知識に関する研究を幅広く集めて整理し、知識の水準や不足している分野、関連する食行動を明らかにすることを目指しました。このように、ある分野でどのような研究がどれだけ行われてきたかを見渡す手法を「スコーピングレビュー」と呼びます。
どのように調べたか
研究チームは、医学・看護・学術分野の4つの文献データベースで「栄養」「知識」「ダンス」に関する語を組み合わせて検索しました。対象は2000年から2025年に査読付き学術誌で発表された英語の原著研究で、ダンスの種類や経験、レベルは問いませんでした。2人の研究者がそれぞれ独立に文献を選別し、データを抽出しました。
検索で見つかった58件から重複を除くと31件となり、そのうち条件を満たした9件が最終的に分析されました。内訳は、ある時点での状況を調べた横断研究が5件、栄養教育などを行って変化を調べた介入研究が4件です。研究は6つの国・地域で行われ、参加者は主にプロを目指すダンサーや学生ダンサーで、平均年齢は15〜28歳の範囲でした。研究の質の評価では、5件が「良好」、4件が「中程度」と判定されました。
主な結果
栄養知識の得点を明示していた研究では、横断研究と介入研究の開始時点を合わせた平均正答率は27.3%から65.2%の範囲でした。著者らは、ジャンルや経験にかかわらず、ダンサーの栄養知識は全体として「低い〜中程度」の水準にあるとまとめています。ただし、9件の研究で8種類もの異なる評価ツールが使われており、その中には妥当性が確認されていないものも含まれていたため、結果の比較には注意が必要だとしています。
知識が特に不足していたのは、エネルギーや三大栄養素(炭水化物・たんぱく質・脂質)の必要量や食品に含まれる量、スポーツ栄養の原則、エネルギー不足が健康に与える影響、食事と病気の関係といった分野でした。たとえばある研究では、参加者の36%がパスタを脂質の多い食品だと誤って答え、28%がバターを炭水化物の多い食品だと答えていました。年齢や経験による違いについては、プロの方が学生より知識が多く年齢とともに得点が高まるとした研究がある一方、大学の1年生と上級生で差がなかったとする研究もあり、結果は一致していませんでした。
一方、4件の介入研究ではいずれも、栄養教育の後に知識の向上が報告されました。ギリシャのダンサーを対象とした12週間の講座では平均正答率が59.2%から94.8%に上がり、6か月後も90%とおおむね保たれていました。米国の4週間の講座では46.4%から71.4%に向上し、教育を受けなかった対照群ではほとんど変化がありませんでした。10〜20分のDVD講義を3日間続けるという簡易な方法でも、66%から93%へ上昇し、6週間後も91%を維持していました。ノルウェーの研究でも知識の増加が報告されましたが、比較対象の群との間に有意な差は見られなかったとされています。
栄養情報をどこから得ているかを調べた2件の研究では、ダンサーが仲間や家族、友人、インターネットなど、専門家ではない情報源に頼りがちであることが示されました。ある研究では、81.3%のダンサーがソーシャルメディアによって「時々」または「いつも」減量すべきだと感じると答えていました。また多くの研究で、食事を制限する傾向や細い体型を求める意識が見られ、知識の低さが摂食の乱れや体型への悩み、不十分な食事と同時に見られることが報告されています。ただしこれは同時に見られたという関連であり、どちらが原因かを示すものではありません。
この研究が示すこと
著者らは、ダンサーの栄養知識には改善の余地が大きく、特に栄養素の基本的な理解に欠けている部分があると結論づけています。一方で、数は限られ方法もまちまちであるものの、栄養教育によって知識が高まることも報告されていました。研究チームは、使われた評価ツールや対象者、ジャンルのばらつきが大きいこと、英語以外の論文を含めていないことを限界として挙げつつ、ダンサーの実情に合った栄養教育を資格を持つ専門家が提供することの必要性を指摘しています。
原著論文の著者・所属:Caitie J. Minger(Sport, Performance and Nutrition Research Group, Department of Sport, Exercise and Nutrition Sciences, La Trobe University, Melbourne 3086, Australia)、Matthew B. Cooke(Sport, Performance and Nutrition Research Group, Department of Sport, Exercise and Nutrition Sciences, La Trobe University, Melbourne 3086, Australia)、Regina Belski(Sport, Performance and Nutrition Research Group, Department of Sport, Exercise and Nutrition Sciences, La Trobe University, Melbourne 3086, Australia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Caitie J. Minger, Matthew B. Cooke, Regina Belski. Nutrition Knowledge of Dancers: A Scoping Review. Nutrients 2026-07-28. DOI: 10.3390/nu18152461. 原著ライセンス:CC BY.