著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:Manfish
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究のねらい
インドネシアのマルク諸島は、行政区域の約9割を海が占める海洋地域で、豊富な漁業資源を持っています。そこでよく獲れる魚のひとつが、ムロアジの仲間(学名 Decapterus spp、現地名イカン・ラヤン)です。一年を通して手に入り、経済的価値も高い魚で、ナゲットや魚団子、燻製などさまざまな加工品に使われています。
その加工品のひとつに「アボン」があります。魚の身に味付けをし、煮てから炒め揚げにしてほぐした繊維状の食品で、日本の「でんぶ」や肉そぼろに近いものです。生魚より長く保存できる一方、作り手ごとに品質のばらつきが大きいことが課題とされています。
著者は、アボンの品質を大きく左右するのは乾き具合とサクサクした食感であり、それを決めるのが製造中の乾燥工程だと位置づけています。乾燥が足りなければ水分が残って食感が悪くなり、微生物が増えやすくなります。逆に乾燥しすぎると、硬くなったり色が濃くなったりして品質が落ちます。そこでこのレビューでは、乾燥技術が原料の水分低下、アボンの繊維状の食感の形成、さらに化学的な品質、味や食感などの官能的な品質、日持ちにどう関わるかを、既存の研究から整理することを目的としました。
どのように調べたか
この論文は新たな実験を行ったものではなく、過去の研究結果を集めて文章で整理する「ナラティブ・レビュー」と呼ばれる手法をとっています。著者はGoogle Scholarで「魚のアボンの乾燥技術」「ムロアジのアボン」といったインドネシア語のキーワードで検索し、2016〜2026年に発表された全文入手可能なインドネシア語の論文を対象としました。
論文によると、検索で見つかった5,257件から、発表年と全文の有無で4,510件に絞り込み、さらに内容の適合性で最終的に10件を分析対象としたとされています。取り上げられた研究には、アボンそのものを扱ったものだけでなく、塩干しムロアジの乾燥や、ムロアジ加工の副産物から作る調味料粉末の乾燥など、アボンの原料処理や乾燥条件の参考となる研究も含まれています。
主な報告内容
まず乾燥による水分の低下について、太陽熱を利用した乾燥装置で塩干しムロアジを8時間乾燥させた研究では、装置の上段に魚を吊るした条件で水分が最も低くなったと紹介されています。ただし装置内の温度は日差しに左右され、太陽熱乾燥は環境条件に強く依存することも指摘されています。著者は、原料の水分を適切に下げておくことが、アボンを炒め揚げにする工程の効率を高め、より乾いたサクサクの食感につながると述べています。
次に味への影響として、ムロアジ加工の副産物から作った調味料粉末を造粒乾燥機で乾燥させた研究が取り上げられています。この研究では、50℃で5時間乾燥させた条件でうま味に関わる成分であるグルタミン酸が最も多く、タンパク質と脂質も良好に保たれた一方、70℃で3時間の条件ではグルタミン酸が最も少なかったと報告されています。著者はこれを踏まえ、50℃前後の穏やかな温度での乾燥は、加熱しすぎによる栄養や風味成分の劣化を防ぐうえで有効だとまとめています。
官能的な品質については、家庭規模で作られたムロアジのアボン(プレーン味と辛口)がインドネシア国家規格(SNI)の品質基準を満たし、消費者の好みの評価は「どちらでもない」から「好き」の範囲(スコア3.18〜3.43)だったという研究が紹介されています。また、魚の身だけでなく骨からもアボンを作った研究では、原料に対する出来上がり量の割合(歩留まり)が身のアボンで48.05%、骨のアボンで69.26%で、色と見た目の評価には差があったものの、においや味、食感の評価には有意な差がなかったと報告されています。
安全性の面では、密閉型の太陽熱乾燥装置で作った塩干しムロアジの水分・タンパク質・脂質・灰分が国家規格の範囲内にあり、一般生菌数も規格内に収まっていたという研究が挙げられています。著者は、密閉型の乾燥はほこりや虫、周囲の微生物による汚染を防ぎ、食品の安全性を高めると位置づけています。さらに保存性については、ムロアジのアボンの日持ちが30℃保存で61日と推定され、品質劣化の主な要因は脂質の酸化だったという研究が紹介されています。
この研究が示すこと
著者は、ムロアジのアボンの品質向上には、原料の処理段階から最終製品まで、効率的で管理された乾燥技術を適用することが大きく影響すると結論づけています。適切な乾燥によって、国家規格に沿った品質、消費者に受け入れられる味と食感、十分な日持ちを備えたアボンが作れるというのが、このレビューの見立てです。
身近な魚の加工品であっても、乾燥の温度や時間、装置の種類といった工程の選び方が、食感やうま味、安全性、保存性にまで関わっている。このレビューは、既存の研究をつなぎ合わせることで、そうした乾燥工程の重要性を示しています。
原著論文の著者・所属:Mustakim Rumasukun(Universitas Pattimura)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mustakim Rumasukun Penerapan Teknologi Pengeringan dalam Meningkatkan Mutu Abon Ikan Layang (Decapterus spp). Manfish 2026-09-30. DOI: 10.62951/manfish.v4i2.297. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。