著者の所属・活動拠点の国は、アイルランドです。
掲載誌:Cancers
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
乳がんは世界で多くの女性が診断されるがんですが、早期発見や治療の進歩により5年生存率は80%を超えています。その一方で、治療を終えた人は体重増加、骨密度の低下、治療に伴う閉経、生活の質(QoL)の低下などに直面することがあり、治療後の生活を支える栄養面のケアが重要になります。
野菜、果物、全粒穀物、豆類、ナッツ、エキストラバージンオリーブオイルを多くとり、赤肉や甘いものを控える「地中海食」は、がんの予防や閉経症状への対応に関する指針の考え方とも重なる食事パターンです。食事が地中海食にどれだけ近いか(実践度、アドヒアランス)は、質問票に基づく得点ツールで測るのが一般的です。しかし、ツールによって採点方法や対象とする食品、「実践度が高い」とみなす基準が異なり、研究どうしの比較が難しいという課題がありました。
著者らは、乳がんの積極的な治療を終えた女性を対象に、(1) 地中海食の実践度を測るためにどのようなツールが使われ、その構成要素、採点方法、基準値がどうなっているかを明らかにすること、(2) 実践度との関係でどのような臨床・代謝・QoLの指標が調べられてきたかを整理することを目的としました。研究チームによれば、この集団を対象にこうした観点から系統的に調べたレビューはこれまでなかったといいます。
何を調べたか
この研究はスコーピングレビューと呼ばれる手法で行われました。これは、ある分野でどのような研究が行われ、どんな概念や方法が使われているかを幅広く見渡して整理する文献調査です。個々の介入が効くかどうかを判定するものではなく、手法の指針に沿って、各研究の質やバイアスの正式な評価も行っていません。
研究チームは5つの医学文献データベースを検索し、2000年から2026年に英語で発表された査読付き論文を対象にしました。対象者は、手術、化学療法、放射線療法といった主な治療を終えた成人女性の乳がんサバイバーです。長期の再発予防として続けられることの多い内分泌療法(ホルモン療法)を受けている人も含めました。ランダム化比較試験のような介入研究と、集団を追跡するコホート研究などの観察研究の両方を対象としています。
検索で見つかった566件から重複を除いて絞り込みを進め、最終的に20件の研究が条件を満たしました。一部の論文は同じ試験の参加者を扱っていたため、重複を除くと独立した研究集団は16、参加者は合計4174人でした。20件のうち12件がランダム化比較試験でした。
主な結果
20件の研究では、10種類の異なる地中海食スコアが使われていました。最も多かったのは、短い質問項目で地中海食への近さを判定する「MEDAS」とその改変版で、7件(35%)で用いられていました。ツールに含まれる食品などの項目数は9から18まで幅がありました。
どのツールも、野菜、果物、豆類、魚介類、オリーブオイル、ナッツを勧め、赤肉や加工肉、バター、甘い食べ物や飲み物を控えるという中核部分は共通していました。一方で採点の仕方は大きく異なりました。基準を満たせば1点を与える方式、「野菜を1日2皿以上」のように決まった量で判定する方式、その研究集団の摂取量の中央値などを基準に相対的に判定する方式があります。著者らは、相対的な方式では同じ食べ方をしていても、ある集団では「実践度が高い」、別の集団では「低い」と分類されうると指摘しています。さらに、「実践度が高い」とする基準は研究ごとにまちまちで、明確な基準値が報告されていない研究もありました。
アルコールの扱いも論点として挙げられています。多くのツールは心血管病予防の研究から生まれたため、適度な飲酒に点を与えます。しかし、がんの予防指針では飲酒を避けることが勧められています。ある研究では、ワインの項目で点を得た参加者は19%にとどまりました。著者らは、がんの観点からは適切な「飲まない」という行動が、実践度が低いと評価されてしまう可能性を指摘しています。また、乳がんサバイバー向けに開発されたツールや、この集団で妥当性が確かめられたツールは一つもありませんでした。
介入の前後で実践度を比較した独立の研究集団は12あり、そのうち9で統計的に有意な実践度の向上が報告されていました。実践度との関係で調べられていた指標は、体重やBMIなどの体格に関する指標が最も多く(16件)、血糖の指標(12件)、血中脂質(11件)、炎症の指標(5件)、QoL(4件)と続きました。死亡や再発を調べた研究は、2729人を追跡した1件だけでした。この研究では、地中海食の実践度が高くても、全体として総死亡、乳がんによる死亡、再発の減少との関連はみられませんでした。ただし、身体活動量の少ない女性では、乳がん以外の原因による死亡が少ないという関連が報告されています。
体格に関する指標の結果は比較的一貫していましたが、対照群と比べて地中海食介入の方が有意に良かったのは、対照群を置いた研究の一部にとどまりました。血中脂質、血糖、炎症の指標、QoLの結果はまちまちでした。著者らは、多くの研究が運動などを含む生活習慣介入の一部として地中海食指導を行っていたことを挙げ、改善を食事だけの効果とはみなせないと述べています。また、身体活動、閉経状態、内分泌療法などの要因を考慮した研究が少ないことから、報告された関連を因果関係として解釈することには限界があるとしています。多くの研究が自己申告の食事データに頼っていること、規模が小さく期間が短い研究が多いこと、欧州の研究に偏っていることも限界として挙げられています。
この研究が示すこと
このレビューは、乳がん治療後の女性で地中海食の研究が増えている一方、「地中海食をどれだけ実践しているか」の測り方がそろっていないことを示しました。著者らは、この測定のばらつきこそが、個々の結果以上にこの分野の証拠のまとめを難しくしている要因だと位置づけています。
実践度や代謝の指標が短期的に改善したと報告する介入研究はあるものの、再発や生存との関係を示す証拠はわずか1件のコホート研究に限られています。研究チームは、比較可能な証拠を積み上げるためには、乳がんサバイバーで妥当性が確認され、基準値が明確に定められた標準的な測定ツールが必要だと結論づけています。
原著論文の著者・所属:Johnston KE(Clinical Nutrition and Oncology Research Group, School of Food and Nutritional Sciences, University College Cork, T12 K8AF Cork, Ireland.; Cancer Research @UCC, College of Medicine and Health, University College Cork, T12 K8AF Cork, Ireland.)、Twomey AM(School of Food and Nutritional Sciences, University College Cork, T12 K8AF Cork, Ireland.)、Cushen SJ(Clinical Nutrition and Oncology Research Group, School of Food and Nutritional Sciences, University College Cork, T12 K8AF Cork, Ireland.; Cancer Research @UCC, College of Medicine and Health, University College Cork, T12 K8AF Cork, Ireland.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Johnston KE, Twomey AM, Cushen SJ. Mediterranean Diet Adherence Tools in Post-Treatment Breast Cancer Survivors: A Scoping Review of Measurement Approaches and Associated Outcomes. Cancers 2026-10-02. DOI: 10.3390/cancers18193185. 原著ライセンス:CC BY.