著者の所属・活動拠点の国は、スペイン、カナダ、イギリスです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:加工の流れに沿ってカビ毒の行方をたどる
オーツ麦(エンバク)は、水に溶ける食物繊維のβ-グルカンなどを多く含みます。フレーク、粉、ビスケット、飲料、乳幼児向け食品などに使われる場面が増えています。一方で、栽培中にフザリウム属のカビに感染しやすく、カビが作る有害物質「カビ毒(マイコトキシン)」が穀粒にたまることがあります。
オーツ麦で主に報告されているカビ毒は、T-2トキシン、HT-2トキシン、デオキシニバレノール(DON)、ニバレノール、ゼアラレノンです。このほか、まだ規制や定期的な監視の対象になっていない「新興カビ毒」のエンニアチン類やボーベリシンも見つかっています。さらに、植物やカビの働きで形の変わった「修飾体」もあります。たとえばDONに糖が結合した形は、消化の過程でDONに戻り、摂取量に加わる可能性があると論文は説明しています。
原料のオーツ麦や最終製品のカビ毒汚染はこれまでも多く調べられてきました。しかし、加工の各工程でカビ毒がどうなるかについての知見は、カビ毒の種類や工程、実験条件ごとにばらばらでした。著者らはこれらの研究を、原料の受け入れから製品の製造までの流れに沿ってまとめました。そして、カビ毒が「物理的に取り除かれるのか」「別の部分へ移るだけなのか」「残り続けるのか」「化学的に変化するのか」という観点から評価しました。目的は、加工業者や食品メーカーのリスク評価と判断を支えることです。
選別・清掃:汚染の多い粒をいかに取り除くか
著者らは、受け入れ時の清掃と選別を、カビ毒を管理する重要な段階と位置づけています。カビ毒は一つの原料ロットの中でも均一には分布していません。小さい粒、軽い粒、変色した粒に多く含まれる傾向があります。そのため、こうした粒を取り除くと、後の工程へ進む原料の汚染を減らせる場合があります。
紹介された研究の一つでは、目開き2.2ミリのふるいで小粒を取り除きました。小粒は全体の重さの平均15〜21%でした。これを除いた結果、T-2トキシンとHT-2トキシンの平均濃度は32〜56%下がり、DONは最大24%、エンニアチンBは44%下がりました。別の試験規模の研究では、軽い粒や異物を強い気流で除きました。失われた穀粒は重さで約2%でしたが、DONとその関連物質はおよそ半分から3分の1に、T-2トキシンとHT-2トキシンは約3分の2に減ったと報告されています。
清掃、色彩選別、殻を取り除く脱ぷを組み合わせた研究もあります。この研究では、汚染の強いロットでT-2トキシンとHT-2トキシンが80〜95%減りました。変色した粒には、健全に見える粒の最大10倍のカビ毒が含まれていたといいます。一方、汚染の少ないロットでは減少の幅は小さくなりました。実験室規模の清掃機では効果がまちまちで、変化がない例やわずかに増えた例もありました。
著者らは、工場規模の調査で色彩選別を行った研究も取り上げています。この研究では、カビ毒は除去された不良粒だけでなく、フレークやペレットなど複数の部分に分かれて存在していました。そのため、色彩選別は製品全体を一様に浄化するというより、汚染の強い粒を取り除ける部分に集める工程として捉えるべきだとしています。また、近赤外線の画像で穀粒の特徴をとらえ、基準値を超えるサンプルを最大86〜94%の精度で判別した研究も紹介されています。少数の高濃度汚染粒がロット全体の濃度を大きく押し上げることも示されており、粒単位での選別に役立つ可能性が論じられています。全体として、選別と清掃の効果は方法と初めの汚染度によって変わり、複数の操作を組み合わせると最も効果が大きいとまとめられています。
貯蔵:水分管理がカギ
フザリウム属のカビは主に畑で感染します。ただし、貯蔵中の温度や水分の条件によっては、カビ毒が新たに作られる可能性もあります。紹介された実験では、カビを植え付けたオーツ麦を25℃、水分活性0.97という非常に湿った条件に置きました。水分活性とは、微生物が使える水の多さを示す指標です。この条件では、わずか10日でT-2トキシンが1キログラムあたり4ミリグラムを超えました。
ただし著者らは、こうした実験はカビが育ちやすい条件をわざと作ったものだと強調しています。適切に管理された貯蔵をそのまま表すものではなく、水分管理に失敗したときに起こり得ることを示していると位置づけています。カナダの流通段階の観察データでは、DON濃度に一貫した増加や減少の傾向は見られませんでした。商業的な貯蔵中にDONが系統的にたまる兆候はなかったとされます。一方で、実際の商業貯蔵の条件でDON、ゼアラレノン、ニバレノールがどうふるまうかについての証拠はまだ限られており、重要な知見の空白だと指摘されています。
この総説が示すこと
この総説は、オーツ麦食品のカビ毒は原料の汚染だけで決まるのではなく、加工の各工程で除去されたり、移ったり、残ったりすることを、既存研究を通して整理しています。特に、汚染の多い粒を早い段階で物理的に取り除く工程の役割が大きいことが示されています。同時に、見かけ上の減少が実際の除去なのか、別の部分への移動なのかを区別して見る必要があることも示されています。また、修飾体は形が変わることで見かけ上の減少や残存の判断に影響しうるため、加工を考えるうえで重要だと著者らは述べています。新興カビ毒については、加工中の安定性や移動、変化に関する情報がとりわけ少ないと指摘されています。
原著論文の著者・所属:Irene Teixido-Orries(Applied Mycology Unit, Department of Food Technology, Engineering and Science, University of Lleida, AGROTECNIO-CERCA Centre, Av. Rovira Roure 191, 25198 Lleida, Spain; Grain Research Laboratory, Canadian Grain Commission, 1404-303 Main St., Winnipeg, MB R3C 3G8, Canada)、Francisco Molino(Applied Mycology Unit, Department of Food Technology, Engineering and Science, University of Lleida, AGROTECNIO-CERCA Centre, Av. Rovira Roure 191, 25198 Lleida, Spain)、Carol Verheecke-Vaessen(Magan Centre of Applied Mycology, Cranfield University, Cranfield MK43 0AL, UK)、Sheryl A. Tittlemier(Grain Research Laboratory, Canadian Grain Commission, 1404-303 Main St., Winnipeg, MB R3C 3G8, Canada)、Sonia Marín(Applied Mycology Unit, Department of Food Technology, Engineering and Science, University of Lleida, AGROTECNIO-CERCA Centre, Av. Rovira Roure 191, 25198 Lleida, Spain)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Irene Teixido-Orries, Francisco Molino, Carol Verheecke-Vaessen, et al. Stability and Transfer of Fusarium Mycotoxins During Oat Processing: A Review. Foods 2026-09-25. DOI: 10.3390/foods15193429. 原著ライセンス:CC BY.