著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

綿の加工副産物を羊の飼料に生かせるか

羊肉の生産では、生産効率、栄養価、食べたときの品質がそろって初めて、農家の収益や市場での競争力につながります。羊肉特有のにおいや風味は消費者の受け入れやすさを左右します。これらの品質は飼料の内容によっても変わることが知られています。研究チームは、農産物の加工で出る価値の低い繊維質の副産物を、より使い道のある粗飼料(草やわらなど繊維の多い飼料)に変えられないかに注目しました。そうできれば、良質な粗飼料への依存を減らし、地域の飼料資源を有効に使える可能性があります。

対象にしたのは綿実殻(綿の種子の殻)です。綿実殻には、綿に含まれる有害成分の遊離ゴシポールなどが残っています。これまでの研究では、微生物で発酵させると遊離ゴシポールが減り、栄養面の評価も改善することが報告されていました。しかし、従来の粗飼料を発酵綿実殻に置き換えたとき、筋肉の品質や栄養成分、香りにかかわる揮発性成分がどう変わるかは、体系的には調べられていませんでした。そこで著者らは、雄のカザフ種子羊を使い、粗飼料の異なる3種類の飼料を予備的に比較しました。

3種類の粗飼料で子羊を飼育して比較

発酵綿実殻は、綿実殻と小麦ふすまを乾物比80対20で混ぜたものが原料です。これに2種類のコウジカビ(アスペルギルス・ニガーとアスペルギルス・オリゼー)と乳酸菌の一種を加え、15日間、固体のまま発酵させて作りました。遊離ゴシポールの濃度は、発酵前の混合物で1キログラムあたり280.63ミリグラム、発酵後で70.88ミリグラムでした。

比較したのは次の3群です。論文でWSと表記される粗飼料を与えた群、発酵させていない綿実殻を与えた群、発酵綿実殻を与えた群です。血液の検査は各群10頭で行いました。と畜後の測定は、各群から選んだ6頭が対象です。測定項目は、血液の生化学指標と抗酸化指標、枝肉の重さ、臓器の重さ、肉の色・pH・加熱による重量の減り・保水性・かたさです。さらに、背中の筋肉(胸最長筋)について、水分・脂肪・たんぱく質の量、たんぱく質を分解して測るアミノ酸組成、加熱したときに出る揮発性成分のパターンも調べました。揮発性成分は、ガスクロマトグラフィー・イオン移動度分析法(GC–IMS)という、においのもとになる成分を信号として検出する手法で分析しています。

重要な前提として、この研究では飼料ごとに子羊を1つの囲い(ペン)で飼っていました。そのため、飼料の違いによる影響と、ペンごとの環境などの違いによる影響を区別できません。著者らは、個体ごとの群間比較はすべて探索的なものであり、飼料の効果を確かめる証拠にはならないと明記しています。

主な報告結果

血液の生化学指標(尿素、ブドウ糖、肝機能の指標など)には、群間の差は見られませんでした。抗酸化にかかわる酵素では、2つの差が報告されています。グルタチオンペルオキシダーゼの活性は、発酵綿実殻群が未発酵綿実殻群より高い値でした。スーパーオキシドジスムターゼの活性は、綿実殻を与えた2群がいずれもWS群より高い値でした。

と畜した子羊では、と畜前の体重と枝肉重量の平均が発酵綿実殻群で最も高く、未発酵綿実殻群、WS群の順でした。一方、枝肉歩留まり(体重に占める枝肉の割合)や背脂肪の厚さには差がありませんでした。肉の色、pH、加熱による重量の減り、保水性、かたさといった一般的な肉質指標にも差は見られませんでした。

筋肉の成分では、発酵綿実殻群はWS群に比べて水分が少なく、脂肪が多い値でした。ただし、発酵綿実殻群と未発酵綿実殻群の間には差がありませんでした。このため著者らは、発酵そのものが脂肪量の違いを生んだとは言えないとしています。また、発酵綿実殻群ではと畜前の体重が高かったことも、脂肪量の違いに関係している可能性があると述べています。アミノ酸では4種類に差の兆候が見られました。しかし、多数の項目を同時に検定したことを考慮する補正を行うと、いずれも統計的な基準を満たしませんでした。アミノ酸の総量や必須アミノ酸の割合にも差はありませんでした。

揮発性成分では、66の信号のうち11で、補正前の段階で群間の差の兆候が見られました。発酵綿実殻群では、アルデヒド類や酢酸などの信号が高い傾向でした。しかし補正後に基準を満たした信号はありませんでした。成分の特定もデータベースとの照合による暫定的なものです。官能評価(人が実際に食べて味やにおいを評価する試験)は行われていません。そのため著者らは、これらの違いから実際の肉の風味が変わったとは言えないとしています。

この研究が示すこと

この研究の条件では、発酵綿実殻を与えた子羊は枝肉重量が大きい一方で、歩留まりや主な肉質指標には目立った違いがありませんでした。著者らは、綿の産地で加工副産物を粗飼料として活用する上で、実用面の意味を持ちうる結果だと位置づけています。

ただし、飼料ごとに1つのペンしかなかったため、観察された違いが飼料によるものかどうかは判断できません。著者らは、今回の結果を再現性のある飼料の効果の証拠ではなく、予備的な記述として扱っています。そのうえで、独立したペンを複数設けた研究で確認する必要があると結論づけています。

原著論文の著者・所属:Caidie Wang(Xinjiang Herbivore Nutrition Laboratory for Meat & Milk, College of Animal Sciences, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Honghai Yang(Xinjiang Herbivore Nutrition Laboratory for Meat & Milk, College of Animal Sciences, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Xiaoyan Zhou(Xinjiang Herbivore Nutrition Laboratory for Meat & Milk, College of Animal Sciences, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Hanzuohere Yishake(Xinjiang Herbivore Nutrition Laboratory for Meat & Milk, College of Animal Sciences, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Songcheng Li(Xinjiang Herbivore Nutrition Laboratory for Meat & Milk, College of Animal Sciences, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Yan Liu(Xinjiang Herbivore Nutrition Laboratory for Meat & Milk, College of Animal Sciences, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Hongman Li(Xinjiang Herbivore Nutrition Laboratory for Meat & Milk, College of Animal Sciences, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Caidie Wang, Honghai Yang, Xiaoyan Zhou, et al. Carcass Traits, Meat Quality, Hydrolyzed Amino Acid Composition, and GC–IMS Volatile Signal Profiles in Kazakh Lambs Fed Diets Containing Fermented Cottonseed Hulls. Foods 2026-10-20. DOI: 10.3390/foods15203739. 原著ライセンス:CC BY.