日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Microorganisms
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
研究の目的
オフィスワーカーは長時間の座り仕事や運動不足、精神的ストレス、不規則な食生活といった健康上のリスクを抱えやすく、便秘や下痢などの消化器の不調もよくみられます。研究チームは、こうした不調が「プレゼンティーイズム」、つまり体や心の不調を抱えたまま出勤して本来の力を発揮できない状態に関わっている可能性に注目しました。論文では、プレゼンティーイズムが企業の健康関連コストの約64%を占めるという先行研究の推計も紹介されています。
そこで著者らは、腸内環境を手軽に整える方法として、プレバイオティクス(腸内細菌のえさとなり、その働きを支える成分)として広く使われている食物繊維「部分加水分解グアーガム(PHGG)」に着目しました。オフィスワーカーが毎日摂取したときに、腸内細菌、体の状態、睡眠や消化器症状、労働生産性がどう変わるかを予備的に調べることが目的です。あわせて、腸内細菌の構成パターンを分類した「腸内細菌叢タイプ(エンテロタイプ)」によって変化の現れ方が異なるかも検討しました。
どのように調べたか
研究は2025年1月から3月にかけて、ある企業の本社で働く従業員を対象に行われました。参加者全員がPHGGを摂取し、比較のための偽の食品(プラセボ)を摂るグループは設けない「単群・非盲検」と呼ばれる形式です。143人が参加し、事前に定めた基準に従って重度の肥満(BMI35以上)の7人を除いた136人が解析対象となりました。平均年齢は約48歳で、BMIの平均は約25.9とやや肥満傾向でした。
参加者は1日6g(水溶性食物繊維として5g)のPHGGを毎朝、2か月間摂取しました。最も重視した評価項目は腸内細菌の構成で、摂取前と2か月後の便を遺伝子解析して調べました。このほか、体組成計による体の組成、消化器症状、睡眠の質、労働生産性をアンケートなどで評価し、摂取前・1か月後・2か月後の変化をみています。
主な結果
腸内細菌では、菌の種類の数は変わらず、腸内細菌全体の構成が大きく変わったとはいえない一方で、個々の菌のグループ(属)では19属で有意な変化がみられました。増えた菌には、短鎖脂肪酸という物質をつくるビフィドバクテリウム属やフィーカリバクテリウム属、食物繊維の分解に関わるプレボテラ属が含まれていました。菌の偏りのなさを示す指標は低下しましたが、著者らは、これは特定の菌が選択的に増えたことを反映したもので、ただちに良い・悪いと解釈すべきではないと述べています。
腸内細菌叢タイプについては、摂取期間中に全体の32%で変化がありました。日本人で病気との関連が報告されているタイプAやCだった参加者のうち45.8%(24人中11人)が、健康な人に多いとされるタイプBやEに移っていました。一方、タイプBやEだった人の12.4%は、別のタイプに移っていました。
体組成では、体重や筋肉量などほとんどの項目に変化はありませんでしたが、「位相角」と呼ばれる指標がわずかに上昇しました。位相角は体に微弱な電流を流して測る間接的な指標で、細胞の状態や体内の水分分布などを反映するとされます。ただし著者らは、水分状態の変動などにも左右されるため、これを細胞の健康が改善した直接の証拠とはみなせないと注意しています。
アンケートでは、胸やけと便秘の症状が1か月後・2か月後ともに改善し、消化不良の症状も1か月後に改善しました。睡眠の質では「起床時の眠気」の項目が改善しました。労働生産性については、自分の仕事ぶりの評価にもとづく「絶対的プレゼンティーイズム」の指標が2か月後に改善し、仕事中の集中力の自己評価も向上しました。期間を通じて、PHGGに関連する重い有害事象は観察されませんでした。
腸内細菌タイプ別の探索的な解析では、タイプによって改善がみられた項目が異なり、たとえば便がやわらかめのタイプEでは便の状態を表すスコアが理想的とされる値に近づきました。ただし、タイプB以外は人数が少なく、結果は仮説の段階にとどまります。また、菌の増減と各結果との相関も調べられましたが、労働生産性の改善はどの菌とも有意な相関を示さず、相関の結果は因果関係を示すものではないと著者らは述べています。
この研究が示すこと
この研究は、オフィスワーカーがPHGGを2か月間毎日摂取した期間に、腸内細菌の一部の変化とともに、消化器症状、睡眠、労働生産性の指標で好ましい変化がみられたことを報告しています。一方で、比較対照のない単群の試験であるため、思い込みによる効果や症状の自然な変動、食生活の変化などの影響を除くことはできず、変化がPHGGによるものと断定はできません。著者らはこの結果を、職場で取り入れやすい食事上の工夫としてのPHGGの可能性を示す仮説づくりの成果と位置づけており、確かめるにはプラセボを用いた無作為化比較試験が必要だとしています。
原著論文の著者・所属:So Morishima(Taiyo Kagaku Co. Ltd., 1-3 Takaramachi, Yokkaichi 510-0844, Japan)、Ryo Inoue(Laboratory of Animal Science, Department of Applied Biological Sciences, Faculty of Agriculture, Setsunan University, Nagaotoge-cho 45-1, Hirakata 573-0101, Japan)、Masahiro Kawae(Taiyo Kagaku Co. Ltd., 1-3 Takaramachi, Yokkaichi 510-0844, Japan)、Ayu Suzuki(Taiyo Kagaku Co. Ltd., 1-3 Takaramachi, Yokkaichi 510-0844, Japan)、Aya Abe(Taiyo Kagaku Co. Ltd., 1-3 Takaramachi, Yokkaichi 510-0844, Japan)、Masayuki Kurokawa(Yoshinoya Holdings Co. Ltd., 36-2 Hakozakicho, Nihonbashi, Chuo-ku 103-0015, Japan)、Tomoko Tsuji(Yoshinoya Holdings Co. Ltd., 36-2 Hakozakicho, Nihonbashi, Chuo-ku 103-0015, Japan)、Tatsuo Shimosawa(Clinical Laboratory Medicine, School of Medicine, International University of Health and Welfare, Kozunomori 4-3, Narita 286-8686, Japan)、Tomohisa Takagi(Molecular Gastroenterology and Hepatology, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, 465 Kajii-cho, Kamigyo-ku 602-8566, Japan)、Yuji Naito(Department of Human Immunology and Nutrition Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, 465 Kajii-cho, Kamigyo-ku 602-8566, Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):So Morishima, Ryo Inoue, Masahiro Kawae, et al. Preliminary Evaluation of Dietary Partially Hydrolyzed Guar Gum on Work Motivation and Quality of Life of Office Workers: An Open-Label, Single-Arm Study. Microorganisms 2026-10-01. DOI: 10.3390/microorganisms14102215. 原著ライセンス:CC BY.