著者の所属・活動拠点の国は、ウクライナです。
掲載誌:Eastern-European Journal of Enterprise Technologies
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜウズラのひき肉の「脂の劣化」が問題なのか
ウズラ肉は小規模なクラフト生産で扱われることが多く、こだわりの製法や合成保存料を使わない商品づくりと結びついています。一方で、ウズラ肉の脂には酸化しやすい多価不飽和脂肪酸が多く含まれます。研究チームは、保存料を使わない場合、肉の脂が早く傷み、ひき肉などの加工品を長く保存しにくいことを課題として挙げています。
脂の劣化には大きく二つの道筋があります。一つは酸素と反応して進む「酸化」、もう一つは脂が分解されて遊離脂肪酸が増える「加水分解」です。研究チームは、合成保存料の代わりに植物由来の抗酸化成分を加えることで、これらの劣化を遅らせ、保存期間を延ばせるかを調べました。原材料表示をシンプルにする「クリーンラベル」の考え方に沿った製品づくりを視野に入れた研究です。
どのように調べたか
研究チームは、ウズラの胸肉と、皮下脂肪の付いた皮をひいて、タマネギ・塩・黒コショウを合わせたひき肉を作りました。これにローズマリー抽出物を加えたもの、ブドウ種子抽出物を加えたもの、抽出物を加えない対照の3種類を用意し、家庭用冷凍庫(約マイナス18度)で60日間保存しました。
抽出物の量は、0%から0.10%までの範囲で比較して決めました。判断の材料は、保存12日目の脂の酸化の程度と、10人の試食者による色・におい・食感の5段階評価です。抽出物を増やすほど酸化は抑えられましたが、においが強くなりすぎてウズラ肉本来の香りを打ち消してしまいました。両方を兼ね合わせた結果、どちらの抽出物もひき肉の重さに対して0.05%が適切な量とされました。
保存中の変化は、二つの指標で追いました。一つは「過酸化物価」で、脂が酸化し始めた段階でできる物質の量を示します。もう一つは「酸価」で、脂の分解によって生じた遊離脂肪酸の量を示し、加水分解による傷みの目安になります。いずれも保存12日目から12日ごとに測定しました。
主な結果
抽出物を加えない対照のひき肉では、保存12日目にすでに脂の酸化が目立って進んでいました。この時点の過酸化物価は、対照が2.50だったのに対し、ローズマリー入りは0.185、ブドウ種子入りは0.20で、抽出物を加えたものは対照のおよそ10分の1にとどまりました(単位はいずれも%J2)。24日目でも抽出物入りの値は低く保たれ、この時点ではローズマリー入りがブドウ種子入りよりやや低い値でした。
一方、36日目にはローズマリー入りの過酸化物価が0.77に上昇し、ブドウ種子入りは0.16にとどまりました。研究チームは、ローズマリー抽出物の抗酸化力には限りがあるとみています。その後、両方のひき肉で値は下がりました。ただし研究チームは、これを品質の回復とはみていません。初期の酸化物がさらに分解されて別の物質に変わった、劣化の進んだ段階の表れと解釈しています。
酸価でも抽出物の効果が確認されました。対照は24日目に2.35mg KOH/gとなり、基準値(2未満)を超えました。同じ日のローズマリー入りは1.91、ブドウ種子入りは1.60で、いずれも基準内に収まっていました。24日目の時点では、ブドウ種子入りのほうが脂の分解が遅いという差も示されました。
この研究が示すこと
研究チームは、過酸化物価と酸価の変化を総合して、植物抽出物を加えたウズラのひき肉の適切な保存期間を24日と判断しました。2種類の抽出物を比べると、ブドウ種子抽出物の抗酸化性能がより優れていたと結論づけています。
ただし、この研究で調べたのは脂の酸化と分解を示す二つの指標だけです。微生物の増え方は評価しておらず、保存温度も一定の条件に限られ、包装材の違いによる影響も考慮していません。そのため研究チームも、製品としての保存期間を正式に定めるには、安全性を含めた総合的な評価が必要だとしています。
それでもこの研究は、少量の植物抽出物によって、合成保存料に頼らずにウズラのひき肉の脂の劣化を遅らせられる可能性を、具体的な配合量と保存中の変化によって示しました。
原著論文の著者・所属:Maryna Samilyk(Sumy National Agrarian University)、Vladyslav Vasyliev(SP Vasylʹyev Vladyslav Mykolayovych, Ukraine)、Anna Novikova(Sumy National Agrarian University)、Oleksandr Kovalenko(Sumy National Agrarian University)、Larysa Yepyk(Sumy National Agrarian University)、Svetlana Tkachuk(Department of Veterinary Hygiene named after professor A. K. Skorokhodko, Ukraine)、Taisia Ryzhkova(State Biotechnological University)、Dmytro Hrinchenko(State Biotechnological University)、Alla Petrenko(State Biotechnological University)、Petro Gurskyi(State Biotechnological University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Maryna Samilyk, Vladyslav Vasyliev, Anna Novikova, et al. Determining the effect of plant-based antioxidants on extending the shelf life of minced meat. Eastern-European Journal of Enterprise Technologies 2026-10-28. DOI: 10.15587/1729-4061.2026.374394. 原著ライセンス:CC BY.