この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
ビスケットは手軽さと食べやすさから広く親しまれていますが、主な原料が精製した小麦粉・油脂・砂糖であるため、栄養面での利点は限られ、天然の抗酸化成分も比較的少ないと著者らは説明しています。さらに保存中の酸化による劣化は、風味や食感、全体的な品質を損なう要因になります。そのため、食べておいしいと感じられる性質を保ちながら抗酸化の働きを高めることが、焼き菓子開発の課題として残されてきました。
この研究で用いられたのは、ブドウ種子抽出物(GSE)です。ワインやジュースの製造で生じるブドウの搾りかすから作られる濃縮成分で、プロアントシアニジンやカテキン類といったポリフェノールを豊富に含みます。著者らは、同じブドウ由来でも種子粉末や搾りかす粉末とは成分の濃さや性質が大きく異なるため、それらの結果をGSEにそのまま当てはめることはできないと述べています。これまでの研究はパンや麺類、あるいはブドウ由来の粉末が中心で、濃縮されたGSEを薄力粉のビスケット生地に加えたときの挙動は十分に分かっていませんでした。そこで著者らは、GSEの添加量を変えたときに生地の性質とビスケットの品質、抗酸化活性、そして食べたときの評価がどう変わるかを体系的に調べることを目的としました。
何をどう調べたか
研究チームは、薄力粉に対してGSEを0%(無添加の対照)、0.2%、0.4%、0.6%、0.8%、1.0%の割合で加えた6種類を用意し、段階を追って比較しました。まず生地の段階では、混ねつ中の挙動を調べるファリノグラフ(吸水量や生地の安定性などを測る装置)、加熱時のでんぷんの糊化の様子を追うRVA、生地の弾力と粘りのバランスを測る回転式レオメーター、そして生地を引き伸ばして切れるまでの強さと伸びやすさを測る装置を用いています。
次に、薄力粉100gにバター・砂糖・卵を合わせた生地を3mm厚に伸ばして切り分け、210℃で10分焼き上げたビスケットを評価しました。測定項目は、色(明るさや赤み・黄みを数値で表すCIELAB方式)、焼成時の重量減少である焼き減り率、直径・厚み・その比であるスプレッドファクター、そして硬さなどの食感です。抗酸化に関わる指標としては、総ポリフェノール量と総フラボノイド量に加え、DPPHとABTSという2種類のラジカル消去率を測定しました。最後に18〜45歳の20名が、風味・食感・味・色・総合的な好みを9段階で採点する官能評価を行っています。
報告された主な結果
生地については、吸水量に大きな差は見られなかった一方、混ねつに対する安定性はGSEを増やすほど高まり、1.0%添加では対照のおよそ8倍に達したと報告されています。ただし、生地全体の加工性を総合的に示す指標が最も良かったのは0.4%添加で、混ねつ中の生地のだれ(軟化の程度)が最も小さかったのも0.4%でした。引き伸ばしの試験では、切れにくさ(引張抵抗)は添加量とともに増え続け、1.0%で対照より51.8%高くなりましたが、伸びやすさは0.6%で最大(対照比10.3%増)となり、それ以上加えると低下しました。レオメーターの測定でも、どの生地も弾性が優勢である点は共通しつつ、GSEを加えるほど弾性側に寄る傾向が示されています。著者らはこれらを合わせて、0.2〜0.6%程度の適度な添加は強さと柔軟さのバランスを改善するが、過剰な添加は生地を硬く固めて変形しにくくする、という濃度に依存した効果だと説明しています。
でんぷんの糊化については、加熱・せん断中の膨潤したでんぷん粒の安定性を示すブレークダウン値が0.2%添加で最も低くなり、対照より10.9%減少しました。冷却時の粘度回復を示すセットバック値は添加量とともに増加しています。ただし著者らは、この値はあくまで冷却過程での粘度の戻りを表すもので、長期的なでんぷんの老化そのものを直接示すわけではないと注意を添えています。
焼き上げたビスケットでは、GSEを増やすほど明るさが下がって色が濃くなり、赤みを示す値は対照の3.86から1.0%添加の7.75へ上昇、黄みを示す値は28.94から17.41へ低下しました。焼き減り率は0.6%添加で最も低く、対照より16.7%少なくなっています。形状では、直径は1.0%添加で対照比5.9%増、厚みは0.8%と1.0%で最も薄い12.0mm(対照比33.3%減)となり、その比であるスプレッドファクターは1.0%で最大(対照比20.8%増)でした。生地が硬く変形しにくくなることが、ビスケットの硬さの増加につながった可能性があると著者らは述べています。
この研究が示すこと
著者らの報告からは、ブドウ種子抽出物を加えることの効果が「多いほど良い」という単純なものではなく、添加量によって向きが変わることが読み取れます。混ねつへの耐性や引っ張りへの強さのように、加えるほど一方向に強まる性質がある一方で、生地の加工性の総合指標や伸びやすさ、焼き減りの少なさは中程度の添加量で最も良く、それを超えると逆に低下しました。
つまり、ポリフェノールに富んだ素材を焼き菓子に応用する際には、技術的な扱いやすさと機能性、そして見た目や食べたときの受け入れやすさが両立する範囲を見極めることが要点になります。この研究は、ブドウの加工で生じる副産物に由来する成分について、生地の段階から焼き上がりまでを一続きに評価した事例として、その判断材料を提示したものといえます。
著者:Jiao R(College of Food and Bioengineering, Qiqihar University, Qiqihar 161006, China.; Engineering Research Center of Plant Food Processing Technology, Ministry of Education, Qiqihar 161006, China.)、Zhang F(College of Biochemical and Food Engineering, Chaoyang Normal University, Chaoyang 122000, China.)、Yang L(College of Food and Bioengineering, Qiqihar University, Qiqihar 161006, China.; Engineering Research Center of Plant Food Processing Technology, Ministry of Education, Qiqihar 161006, China.)、Wang C(College of Food and Bioengineering, Qiqihar University, Qiqihar 161006, China.; Engineering Research Center of Plant Food Processing Technology, Ministry of Education, Qiqihar 161006, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jiao R, Zhang F, Yang L, et al. Development of Grape Seed Extract-Fortified Biscuits: Effects on Dough Rheology, Biscuit Quality, Antioxidant Activity, and Sensory Evaluation. Foods (Basel, Switzerland) 2026-08-21. DOI: 10.3390/foods15162944. 原著ライセンス:CC BY.