この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Microorganisms

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

何を知りたかったのか

オオイチョウタケ(学名 Leucopaxillus giganteus)は、ユーラシアから北アメリカにかけて分布する大型のきのこです。傘が大きく食味もよく、栄養成分や生理活性のある成分を含むことが報告されていますが、生育がゆるやかなため人工栽培が難しいことが知られています。加えて、乱獲や生息地保護の不足によって野生の個体群が減少し、分布も狭まっていると論文は述べています。

研究チームが着目したのは、きのこの菌糸のまわりの土壌、いわゆる「菌圏(きんけん)土壌」にすむ細菌です。土壌細菌は物質循環の担い手であるだけでなく、菌類に対して病原菌を抑えたり、栄養分を利用しやすい形に変えたりといった働きをすることが先行研究で報告されています。しかしオオイチョウタケについては、こうした菌圏の細菌に関する調査がほとんどありませんでした。そこで著者らは、菌圏に特徴的な細菌のグループを見つけ出し、きのこが細菌群集にどのような影響を及ぼしているかを調べ、その分布を左右する環境要因を特定することを目的に掲げました。ねらいは、このきのこに適した生育環境を見極める手がかりを得ることです。

どのように調べたか

調査地は中国北部の山西省で、オオイチョウタケが見つかる6地点が選ばれました。標高はおよそ1652〜2246メートルで、トウヒ類やマツ類が優占する混交林が中心です。2024年の7月と8月にかけて、合計36点の土壌が採取されました。

各地点では、20メートル以上離れた3つの子実体(きのこの本体)を掘り出し、その基部に薄く付着した土を「菌圏土壌」として集めました。同じ場所で、きのこが見えない位置から40センチ離れた土を「対照となる周囲の土壌(バルク土壌)」として採取し、両者を比べる設計です。土壌については水分・pH・有機炭素・可給態の窒素・リン・カリウムといった性質を測定し、細菌についてはDNAを抽出して16S rRNA遺伝子の一部を読み取る高速シーケンス解析を行いました。さらにPICRUSt2という手法で、検出された細菌の顔ぶれから代謝機能の傾向を推定しています。

報告された主な結果

まず土壌の性質では、菌圏土壌のpHはおおむね周囲の土壌より低く(4.58〜5.98の範囲)、著者らはこれを菌糸からの有機酸の放出と関連づけて考察しています。可給態窒素はLK地点とTY地点で菌圏土壌のほうが有意に高く、有機炭素も6地点のうち4地点で菌圏のほうが高い値でした。一方、水分や可給態カリウムには地点をまたいだ一貫した傾向は見られませんでした。

細菌の多様性については、菌圏土壌のほうが低いという結果が報告されています。種類の豊富さを示すChao1指数は6地点のうち5地点で、多様さを示すシャノン指数は3地点で、菌圏が周囲の土壌より有意に低い値でした。これは他の大型菌類でも報告されている傾向と一致すると著者らは述べています。ただし6地点の菌圏土壌を互いに比べると、TY地点が最も高い豊富さと多様性を示しました。

分類群としては、全試料を通じてプロテオバクテリア門、アシドバクテリオタ門、アクチノバクテリオタ門、バクテロイドタ門が一貫して優占していました。属のレベルでは649属が検出され、そのうちMicromonospora、Streptosporangium、Paraburkholderia、Pedobacter、Caballeronia、Paenibacillus、Flavobacteriumなど9属が、菌圏土壌で周囲の土壌より高い相対量を示しました。著者らはこれらを、有機物の分解や栄養分の可給化に関わる「有用細菌の候補」として位置づけています。ただしこれは菌圏と周囲の土壌の比較から絞り込んだものであり、実際に生育を促す効果があるかどうかは共培養や野外での接種試験による検証が必要だと、論文自身が明記しています。

環境要因との関係を調べた冗長性解析(RDA)では、土壌有機炭素、可給態カリウム、標高、経度、緯度が細菌群集の構成を左右する主要な要因として挙げられました。また地理的な距離が離れるほど菌圏土壌の細菌群集の組成の隔たりが大きくなる関係も示されました。機能の推定では、菌圏土壌の細菌群集で、細胞の運動性、膜輸送、シグナル伝達、糖質代謝、脂質代謝などに関わる経路が周囲の土壌より多く見積もられています。

なお著者らは、今回の調査が一時点での横断的な採取にもとづくため、示されたのはあくまで関連であって因果関係ではないと注意を述べています。また測定した項目以外にも群集の成り立ちを左右する要因があり、確率的な過程による変動も残ると付け加えています。

この報告が示すこと

この研究が描き出したのは、オオイチョウタケが生えている場所の土では、細菌の顔ぶれが単に周囲の土の延長ではなく、種類の数が減る一方で特定のグループが目立つという姿です。地点ごとに群集の構成は変わっても、共通して優占する属は保たれていました。きのこと細菌が無関係に同居しているのではなく、一定の組み合わせがくり返し現れることを示す観察結果だといえます。

著者らは、こうした知見が、有機炭素やカリウムといった土壌の栄養条件を手がかりにこのきのこに適した環境を見極める生態学的な根拠になり、減少しつつある野生個体群の持続的な利用を考える土台になると結論づけています。

著者:Li Z(Shanxi Key Laboratory of Efficient Cultivation of Forest Resources, College of Forestry, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China.)、Wu R(Shanxi Key Laboratory of Efficient Cultivation of Forest Resources, College of Forestry, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China.)、Luo M(Shanxi Key Laboratory of Efficient Cultivation of Forest Resources, College of Forestry, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China.)、Xiao Y(Shanxi Key Laboratory of Efficient Cultivation of Forest Resources, College of Forestry, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China.)、Yu F(Shanxi Key Laboratory of Efficient Cultivation of Forest Resources, College of Forestry, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Li Z, Wu R, Luo M, et al. Spatial Variation in Mycosphere Soil Bacterial Communities of <i>Leucopaxillus giganteus</i> and Its Environmental Drivers in Shanxi, China. Microorganisms 2026-09-11. DOI: 10.3390/microorganisms14092029. 原著ライセンス:CC BY.